ある夏の怪談!

内野あきたけ

『霊葦様』の怪



 街灯がチカチカと夜の闇を照らしている。


 ある夏の夜の事であった。


 俺が小道を歩いていると、一人の少女を発見した。


 中学生か、高校生くらいで制服を着ていたのだが、その少は、後ろから物凄い勢いで走ってくると、疲れのためかその場に座り込んでしまった。


「どうした?」


 俺はそっと声をかける。


「……逃げてください! 早く! 奴が追ってくるんです。早く逃げないと」


 彼女は息を切らしながら、物凄い形相で訴えかけてきた。


「とにかく落ち着け。何があったんだ?」


「言えません!この話を最後まで聞いてしまったら、あなたも霊葦タマシダ様に……」


 そう言って、少女は口を慎んだ。


「……そうか、その霊葦タマシダ様ってやろうが、追ってくるんだな?そいつは人間か?」


「いえ、人間では、ありません」


「……では、ぜひ一から、話を聞こうじゃねぇか」


「……霊葦様は一言で言うと呪いです」


「足が遅いってわけか」


のろいのではありません。呪なのです」


「なるほど」


「人の姿をした化け物です。2年前、私が中学生のころ、ある遊びが流行りました。霊葦様というものです」


「うん」


「霊葦様を呼び出します。呼び出し方はいろいろあるのですが、交霊術のようなものです」


「はいはい」


「霊葦様は何でも願い事を聞いてくれます。ですがこちらも霊葦様の願いを聞き入れなければならないのです」


「ほう、どんな?」


「私が、お金が欲しい、といえばお金が手に入ります。美人になりたいといえばそうなります。ですが……死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……」


「なにがあった!しっかりしろ!」


「やめてください!今回の霊葦様の願い事は、お前の死にたいという言葉が聞きたい。だそうです。だから本当は、私死にたくなんか無いの!でも……死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」


「なるほど、そうきたか」


「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……」


「……あいつか?」


 俺が指差す方向を見た彼女は叫んだ。


 真っ黒い塊が、こちらのほうへゆっくり向かってきたのである。


 あれは、奴だ。


 霊葦様だ。


「……私がこの話をしたから、あなたにも霊葦様が見えてしまうように……逃げて!お願いだから!早く!死にたい死にたい死にたい死にたい」


 彼女は俺の服を引っ張って逃げ出そうと言った。


 だが、俺は逃げ出したくは無かった。


「逃げて!殺されるわよ!あなたになにができるって言うの?霊葦様の呪から逃げるためには、言うことを聞くしかないの!死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」


 なぜなら、俺は……俺の名前は


津覇つば麗之介れいのすけだ。」


 彼女ははっとしたように、麗之介を見上げた。


 麗之介の悪霊退治の噂は、他の学校の生徒たちにも広まっていたからだ。


「俺はこいつをずっと前からぶっ潰してぇと思っていたのさ」


 近づいてきた霊葦様は、がばっと口を180°開き、麗之介を食おうとしてきた。


 血のべっとり付いた牙が麗之介の首筋を狙っている。


 しかし、麗之介はそれを交わして後ろへ回る。


「……まあ、お前の呪は鈍いからな。なんつって」


 そう言って麗之介は呪文を唱えると、霊葦様は消滅した。


「じゃあ、そういうことで」


 そう言って麗之介は帰って行った。



















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