ある夏の怪談!
『日本人形』の怪
「おっはよー。今日もいい天気だねぇ」
三年C組の扉を開けて教室に入ってきたのは麗之助であった。
麗之助が通っていた高校の歴史は古く、廊下などには戦中時代からの写真が飾られている場所もあった。
校舎の建て直しは何回かあったようだが、今はボロボロで床の所々に穴さえ空いている所もある。
麗之助が突然、扉を開けて入って来たので教室は「えっ?」って感じの雰囲気となった。
麗之助は今までずっと不登校で見かけた者は誰もいなかったからだ。
悪霊退治の噂は脈々と広まり、今では彼の存在を「都市伝説」と思っていた人もいるくらいだったのである。
「麗之助!お前不登校じゃなかったのか?」
声をかけたのは八雲悟一という少年だ。
「別に堅苦しいこと言うなよ。俺は悪霊退治で忙しかったんだよ」
そう言って、誰の席かもわからない席に座って、机の上に鞄をドサリと置いた。そしておもむろに足を組む。
「それなら俺だって悪霊ぐらい他の短編でやっつけているさ」
「どうせ他の短編の話だろ?」
「まあな」
「ここにきて、気づいたんだけど、さっきから幽霊の気配がするんだよね」
麗之助は困った様子で言う。
彼の一言に教室の雰囲気は、「少しぐらい霊感があるからってすぐにそう言う話を持ち出すなよ」といった具合である。
しかし、ある女子はその話を肯定する。
「私も感じるんです。何かを伝えたいような悲しい気配」
「実は俺もね、その正体を見つけてやろうと意気込んでいたんだけど。どこを探しても見つからないんだよ、気配の正体」
悟一がクラスメイトに向かって言った。
なんだかんだで、放課後に謎の気配の正体を突き止めようという話になった。
夕陽が校舎に差し込む頃である。
放課後の教室
集まったのは、悟一、麗之助
女子は志保、汐里の4人だった。
「いまも、ずっと気配がするんだよね。霊的な」
と、麗之助が言った。
「四人で別れて、気配が強いところを見つけましょう」
と、汐里。
そう言うことで、別行動をとろうとした時だった。
「……あれ?なんか寒い」
突然、志保が呟いた。
「霊的な寒気かい?」
悟一がわざとらしく志保に問いかけてみる。
「……うん」
「えっ、そうか、俺は急に寒気が引いたけどな」
拍子抜けしたように麗之助が言った。
「まずいな。事によると……」
そう言って悟一は志保の足元に目をやった。
「床の下に、……何かいる。その何かが……俺達と一緒に憑いてきているようだ。さっきまで、麗之助に憑いてきていたが、今、急に志保の足元に移ったという事かもしれない。」
「……俺、ぞっとしたんだけど。床の下を、開けてみようか」
常人と比べて、遥かに霊感が強い麗之助は、床に穴を開けて幽霊を引っ張り出そうと考えたのだ。
「でもどうする?技術室からノコギリ持ってきて床に穴あけるか?」
「それはちょっと、生活指導くらっちゃうかな」
と、汐里がふざけた感じで言った。
「でも、コンピューター室の床、ぼろくて所々に穴が少しあいているよ」
と、志保。
「じゃあ試しに行くか?」
そう言うことで、四人はコンピューター室に向かうことにした。
さほどここから離れた場所ではない。
「さて、穴はどこかな?」
悟一が歩き始めたその時だ。
「見つけたぞ!」
見ると、床の穴を赤い人形のようなものが、ちらっと見えたのである。
可愛らしい顔をした日本人形であった。
一瞬だが四人にはその姿がはっきりと見えた。
「これか!」
悟一は穴に手を入ると、何かを掴んだ様子で引き抜いた。
それは日本人形ではなく、何枚かの写真であった。
「うわぁ!」
志保と汐里が悲鳴を上げた。
それは戦中の白黒写真だった。
焼死した兵士。切り落とされた首。貧困に喘ぐ子供たち。
言うまでもなくそれは残酷な物だった。
建物は戦時中から数回の修復はされていたものの、当時の面影は残る。
それと同時に、当時の学生の「念」もまた校舎に張り付いているわけである。
「なるほど、戦争の写真か、あの幽霊、俺達に忘れちゃいけない過去を伝えようと必死に頑張っていたんだ」
麗之助が言った。
「何かの理由で、写真が床の間に挟まっていたんだ。それを見つけてほしくて、俺達をこの部屋まで案内してくれたんだな」
と、悟一。
人形は戦中時代からずっと存在したわけではない。
次第に薄れていく人々の記憶が作り出した、ある種の戒めの様なものであったかもしれない。
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