霹靂する密室

内野あきたけ

艶やかな少女と共に



  コンクリートの道に髪の長い少女が正座の態勢で座っていた。


  人通りが少なく民家が隣接しているところで、街灯が一つチカチカと光っている。


  辺りは暗かった。そうして、その夜のうす暗さと少女の髪の長さにより顔を覗き見て確認することはできない。


  また、ただ黙って正座をしているというところが実に奇っ怪である。


  だがそんなことよりも、常識を逸している不気味な箇所といえばその少女の前にお膳が置いてある事であった。


  まるで今から食事を始めるかの如く。
  夜風にさらされながら、街灯の光を浴びながら、通行人の目を引きながら、その少女はお膳の前に座っていた。


「一緒に…………お食事どうですか?」
   撫でるような声で、彼女は通行人の一人に話しかけた。
   通行人は目を丸くした。


  黒い髪が顔を覆い尽くして、赤い服装が地味に目立って、チョイと袖を引く少女の細く幽かな指先がその通行人の腕と心に、触れた。
「……………!っ」
  彼は声なき声をはり上げた。


「……アナタ……ごはんできたわヨ」
  その透き通るような、妖艶な響きを持った、癒しの声は、彼の恐怖を呼び起こした。


  驚きにより血液が顔へ登った。
(なぜ、こんな奇妙な状況に)
  だが、また黒髪の彼女が動いた瞬間刹那にその美しい眼差しと艶やかな唇が、彼の胸を打った。


  その危険な快楽。
  その突き刺すような情熱。


  その場に崩れ落ちた通行人の男性は年の頃なら十七、八。


 彼は
「初対面の僕で良いのかい?」
 と、遠慮がちに問いかけた。


「構いません。いえ、むしろそのほうが」
  お膳にはご飯と、味噌汁と、野菜があった。家庭的な味。
  恐る恐る彼は箸を手に取った。


  もしかすると、この塗り箸は彼女が先に口を付けたかも知れない。


 と、そうして
「この箸は使って良いのかい?」
 と聞いたので
「もちろんです」
 と彼女は進めた。


 そのお米に箸をつけ口へ運ぼうとした時
「アナタ……」
 と目の前の少女が、彼に箸の先を向けている。
「アーン、としてくださいな」
 彼は、その、余りの状況で半狂乱になり
 彼女の不可解な愛を感じるかの如く口を開いた。


 そうして一口お米を食べた瞬間。
 何だか気持ちがよくなってきた。
 眠い。


 とろける様に彼はコンクリートへ崩れ落ち、目を瞑った。
 その上から彼女の匂やかな髪の毛と赤い服と体が、覆い被さった。


「疲れたでしょう。愛してる」
 一生、このままがいい。
 思い返すのは苦しかった人生ばかり。
 愛など、偽りの愛情さえ貰えなかった自分が何故だか、コンナ不可解な愛を受けている。


 世にも奇っ怪な、そして妖艶な彼女の髪の毛とそこから漏れる吐
 息が、心身に染み込んで
 ムニャムニャ。








  私は、暗闇で目を覚ました。
「どこだ?」
 見えない。何もかも。
「ここは?」
  その声が響いて、どうやら巨大な箱の中らしい事に気付いた。


  次の瞬間、ゾッと身の毛がヨだった。
「嵌められた。ここは、輸送船か?行き埋めにされたのか?どの 道、俺は…………」
  押し入れくらいの箱で、手を伸ばすと四方に壁があることに気付いた。


  心拍数が速くなって、呼吸も同時に過呼吸ぎみになってしまった。


「嗚呼、生き埋めだ。閉じ込めだ。このまま一生、お天道様を拝めやしないのか」
  私はばかな事をしたと思った。


  新手のハニートラップなぞというものがここまで進化したのかと、半分関心しながら壁を叩いた。


  叩いて、助けてくれ!ここから出してくれ!と騒げば騒ぐほどパニックになって、その場に再び崩れ落ちた。





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