青いソーセージの謎
青いソーセージの謎
次の瞬間、僕はみんなと家にいた。
その一帯全体が優しく温もりに包まれるが如く僕んちである。
斜め横には黄土色をしたカウンターがあり、その上には色々と文字のかかれたルーズリーフの山と、シャープペンシルが五~六本置かれている。
白い天井と壁がまだ手の届かない遠くにあった。
嫌な意味ではない。
壁が手の届かない位置にあると言うことは手の届いた瞬間の喜びを想像し、それに向かって挑戦できると言う訳であるが、僕はそれを考えた瞬間、カウンターの上に机を置き壁をさわった。
次の瞬間、喜びを感じたのである。
壁は粗い砂刷りで、床と壁の境界線にはボロボロと削られた壁の残骸とも言える粉が落ちているのである。
僕は赤ちゃんだった日もあったし、幼稚園に入った日もあった。
なのに次の瞬間、僕は五歳だった。
文字道理の五年間を僕はぼおっとしている間に過ごしてきてきたという事をその身体でもって鮮明に理解することが可能であった。
当たり前だった。
今日この瞬間は見事なまでに新しい。
人生と言う長い長いストーリーの最新刊である。
「ところで、今日みんなに集まってもらったのは何でかわかるかな?」
友達の利之くんが気取った言い方で、言った。
利之くんは僕と同じ年齢であるとは思えないほどの意欲ある幼稚園生だ。
瞳の奥からは普遍的な慈悲と喜び、つまるところ恐怖と絶望と、苦しみを統括したそれそのものの対極であるのではないかと思わせるほどの、迫力を必然的に持ち合わせているものであった。
「なんで?」
僕はマヌケな声を発した。
「それはねえ、みんなに教育をするためだよ」
「教育ってなあに?」
横からすみれちゃんが聞いた。
「僕たち幼稚園生みたく小さいころから悪い人になるように教育を受けていればその人は悪い人になっちゃうんだよぉ」
さすが利之くんだ。
「ふうん」
すみれちゃんが言った。
「でもねえ、僕たち幼稚園生みたく小さいころから正義のヒーローになるように教育を受けていればその人は正義のヒーローになっちゃうんだよ」
「なるほどお」
「さすが光希くんわかるのが早いなあ!」
「嬉しいなあ」
「そこで、僕はみんなに教育をするのである!」
利之くんはいきなり大声を上げた。
「どんなの?」
と、すみれちゃん。
「それはねえ、頭がよくなるような教育!小学校に入ったときの練習だよ!」
利之くんが言うと、僕とすみれちゃんが拍手をした。
「わーい、わーい、嬉しいなあ」
そして、教育が始まった。
本当に本当にすごい利之くんの教育が始まったのだ。
今まで誰も目にしたことの無いような、前人未到かつ、空前絶後の大教育である。
外は春風か爽やかで温かい日であるのにも関わらず、僕たちは家のなかにいたのだ。
それは僕たちが例え家のなかにいたとしても、外で見事な春風に仰がれていたとしてもどちらにしろ同様の価値があると言うことを必然的に知っていたためである。
「皆のもの!これをみよ!」
そう言って台所から取り出したのは、ソーセージだった。
「これは青いソーセージだ!」
利之くんが言った。
「青くない!それは普通のソーセージだよ!」
僕は声を張り上げる。
ものすごく大きな声で言う。
「いいや、青いソーセージだね、君はどうして青くないと言えるのだね」
「それは、ソーセージは青くないって教わってきたからじゃない?教育の力だよ」
すみれちゃんが言ったのだった。
困りながらも言ったのだった。
この時点で教育である。
幼稚園生の教育である。
これこそまだなんにも教わっていない、まっさらな状態に吹き込まれる、得たいの知れない利之くんの教育である。
「そのとうりだ!」
利之くんは叫んだ。
「でも僕は本当にソーセージが普通のオレンジっぽい色に見えるよ!」
「素晴らしい!ああなんと言うことだ!素晴らしい!」
利之くんが叫んだ。頭を抱えて狂ったように素晴らしがるのである。
その発狂たるや喜びにうち震え宇宙空間を超越し、神の次元の最先端とも言える新たな神話を切り開かんばかりの様子であった。
「何で?」
「僕たちは違う色に見えている訳ではない!みんな同じ色を見ていると考えよう!」
それからこうつづけた。
「オレンジっぽい色は色につけられた名前なんだ、そして今からオレンジっぽい色を青と呼び、青のことをオレンジっぽい色と呼ぼう!と言われたら君はこのソーセージをなんと呼ぶ?」
利之くんが言ったので僕は答えた。
僕の答えは超越はしていないもののおそらく全人類よりも精神的な次元を越えたところにあった。
「青いソーセージだ!」
「そうだこれが教育だ!小学校で習う一番最初の教育だ!」
「すごいなあ!やっぱり利之くんはすごいなあ」
僕は言うと、利之くんはこういった。
「まだまだ!学校にいこうものなら、まちゃくちゃむずかしい勉強という名の教育が待ち構えているのだよ!」
「面白そう!」
すみれちゃんが言う。
「他には、何か教育は無いの?」
僕が言うと利之くんが答えた。
「あるよ!でも教育のアイデアが尽きた!君たち何か教育について思いついたことある?」
「いちたすいちはにって言うのは教育なの?」
僕が言った。
「それはねえ、ただ本当の事を言っているだけなんだ。勉強と教育は違う。それは勉強っていって知識だけのモノなんだ」
「勉強と教育の違いってなあに?」
と、すみれちゃん。
「勉強はみんなが知っているから僕も知らなくちゃ行けないと言う固定観念、教育は生きていく上で必要な人間性を向上させる大切なもの」
「なるほどお!」
僕とすみれちゃんが声をあげた。
次の瞬間、永久に不滅の喜びを得たのである。
夢見心地のその三次元という空間そのものが彼らに安らぎを与えるのだ。
「人間の!肉体は儚い!人間の精神は貧弱である!だがしかし魂は普遍的であるからして絶対的という訳である。でもそれでも!人間は魂という言葉だけが独り歩きし始めるが故に本当の重大さに、その重大なる個性たるに!気づくことができないのだ!これが小学一年生が習う基礎的な教育方針の一つである。」
「やったー。やったー。基本的教育方針にたどり着いたあー。やったー。やったー。教育にたどり着いた」
僕はトテモリズミカルに言い放った訳であるが、『ヨウキキナハレェエ』と言った具合に迫力も込めたのだった。
すると、皆が「やったー。やったー。基本的教育方針にたどり着いたあー」と万歳しだしだしたからして、痛快ではないか。
それから僕は、頭に教育の予習と言うべき哲学的な事柄が突如として右脳に浮かんでキタからして、それを左脳に移す作業に追われたのだ。
その間にも、利之くんとすみれちゃんは「やったー。やったー。基本的教育方針にたどり着いたあー」と、繰り返し繰り返し、万歳するのだ。
そしてとうとう、利之くんなんかは、後ろ姿にそのまま転げあがって、でんぐり返しを始めたではないか。
僕が、瞑想に近い、その右脳に浮かんだ哲学的な思考を左脳に移す作業をしている間、利之くんはでんぐる。デングリ返しを始める‼
なんと教育とは、最高で崇高な素晴らしい。いやはや、芸術なのだ。
この僕たちの光景を、ソックリそのまま美術館として飾るべきなのだ。
この光景こそが、新時代美術!アセンションへの銀河鉄道のパスポート、
僕の脳裏に浮かんだ哲学的思考は
とうとう、左脳へと、移す作業が
完成された!
いいかああああああああああああああああああああああああああああああああ!‼‼‼‼‼‼‼‼
よくきけえええええええええええええええええええええええええええ
前人未到の光景を
最先端スピリチュアル的哲学技術をおお
我々、おおおおお‼
チャネルのだ
チャネルのだ
こうしている間に、僕はいきなりの疲労に襲われ、その場に崩れ落ちた。それからは意識が無かったのだが、目覚めたとき、僕は布団の中にいた。さては夢落ちだったかもしらんと思ったが、僕の横にすみれちゃんがいて、さらには利之くんが、顔に教育の文字をマジックで書いちゃっていたからして、先ほど僕の身に起こった出来事は、夢ナンゾでは無いという事柄が明確に理解できたのだ。
「落ち着いた。それじゃあ。光希くんのその最先端スピリチュアル的哲学技術というものを教えって」
「ああ。そうだった」
気付くと、利之くんも僕の目の前に座っているからして、ここで僕が教育しないわけにはいくまいと思い、記憶にある、最先端スピリチュアル的哲学技術を教えるのだ。
「私の考えを披露させて頂くに当たって、タメ口からデスマス帳に変えさせていただきます。我々、人類は三次元の上に立ち、三次元上で生活を行っているでしょう。しかしながら、それが実を言うと本気作の錯覚だというのが私の教育でして、現在時点から順を追って説明しますのっであります。当然の如く、三次元が存在するに当たって、二次元が三次元方向に移動しなければ、出来ぬ訳でございます。そして二次元は一次元が二次元方向に、一次元はゼロ次元が一次元方向にとそれぞれ上の次元に移行されているのは世間一般の常識であります訳で御座いますけれども、私の絶対的な意識上三次元が四次元方向に四次元が五次元上に移行する事象もあろうと用意に経験が可能なのであります」
「詰まるところ、俺たちは五次元に旅行ができると……」と、利之くんはこういった。
「いえいえ、旅行というべきか、我々はもとより、その五次元上、もしくはN次元的解釈上に意識、いえ、存在を期しているのであります」
と、ここで僕を含めた全人類が尽く悟りを開いたのである。
コメント
Sちゃん
謎ときは残念ながらありませんでした。
読みながら子供ってこういうこと言うよねーって思いました。
ノベルバユーザー603477
子どもの頃に物の名前について同じことを考えたことがあったのでちょっと嬉しかったです
読みやすいです
双子っち
私も登場人物と一緒に悟りを開きたかったです。
★
自分とはテイストが合わなかっただけなのでしょうが、よく分からないまま終わりました。