ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第七十話 竜司とガレア、救助活動をする。

「やあ、こんばんは。今日も始めて行くよ」


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僕と杏奈と竜二人は簡易ステージまで辿り着いた。
ステージの上に看板が掲げてある。


第六回 コスプレコンペディション2017


ステージ前はかなりの人が集まっていた。
辺りは人の波でごった返している。


「じゃあ竜司……
ステージ下から私の華麗なパフォーマンスを見ててねフフフ……」


そう言って杏奈とシスは脇へ消えて行った。


【なあなあ竜司。
俺解ってないけど今から何が始まるんだ?】


「今からコスプレコンペが始まるんだよ」


【コスプレコンペ?
何だそりゃ?】


「コンペってのは協議会の意味でコスプレってのは……
何て言ったら良いんだろ?
仮装?」


【仮装?】


ガレアのキョトン顔が治まらない。


「世の中ってアニメとか特撮とか色々あるだろ?
その作品の中で出てくるキャラの格好をするんだよ」


【それがコスプレ?】


「そうだよ」


【そんでその恰好でどうするの?
戦うのか?】


「そんな訳ないだろガレア。
コスプレの出来とかを競うに決まってるだろ。
どうしてこう竜ってのは物騒なんだ」


ファーン


マイクがハウリングしてる。
そろそろ始まるのか。


(会場のみなさん! お待たせしました!
ここに第六回コスプレコンペディションの開幕を宣言します!)


ウォォォォ!


人の声がうねりの様に聞こえる。
コンペは序盤から異様な盛り上がりを見せている。


(今回は三十人エントリーされましたっ!
過去最大規模ですっ!
もちろん優勝賞品はこちらっ!)


司会者のアナウンスと同時にスピーカーから声が流れる。


(願いを言え……
どんな願いも一つだけ叶えてやろう……)


これは昔週刊少年フライで連載していた伝説の漫画“タイガーボール”で出てくる台詞だ。
この漫画は願いが叶う七つの球を集めるって話。
この台詞はその中の神虎シェンフーの台詞だ。


ウォォォォ!


優勝賞品を聞いてさらに盛り上がる観客。


(では早速始めて行きましょうっ! エントリーナンバー一番……)


コスプレコンペが始まった。
どれも細部までこだわった衣装だ。
皆思い思いのコスプレをして剣を振ったりしている。


(このキャラは“血縛の刻”の冥子ちゃんかいっ!?)


「はいっそうです!」


(今回のコスプレの見どころを教えてもらおうかなッ?)


「このー後ろのこの部分なんですけどー。
ここを映した画が全然見つからなくってー。
そしたらOVAで三カットだけ映ったんですっ!
物凄く嬉しくってー。
だから作るのにも気合入れましたっ」


(はい、ありがとうございましたっ。
なかなか気合の入ったコスプレでしたねっ。さあ続いては……)


そんな感じでコスプレコンペは進んでいった。


(さあ、続いてエントリーナンバー十四番 夢野遥さんですっ)


お、遥の番だ。
女物の鎧を着た遥が袖からジャンプして現れる。
その跳躍力が半端ない。
高さにして三、四メートルは跳んでいる。
軽やかに着地すると持っている剣を数回振り、大声で叫ぶ。


「アタシの剣は宇宙を斬るっ!」


これは最近やってた深夜アニメ“宇宙神人キャプテンシャーク”の人気キャラキャプテンアネモネの決め台詞だ。
成程海賊だったから眼帯をしているのか。


「うぉぉぉーっ! はるはるーっ!」


男の野太い声援が飛ぶ。
やはり来ていた夢野遥応援騎士団。


「うぉぉぉっ!
はるはるーっ!
ホッ! ホーッ!
ホァーッ!
ホァァァァーッ!」


一番前のスミスが日本語で何か言っている。
だからスミスどうした?


(さあ、このコスプレコンペの常連っ!
夢野遥さんの登場だぁ――!
遥さん?
これは宇宙神人キャプテンシャークのキャプテンアネモネだね?)


「はいっそうですっ!」


(最近やってたアニメなのに早速コスプレを作るなんて流石だね)


「やはりアイドルたるもの情報には敏感じゃないとねっ!」


ウォォォ!


「はるはるーっ! さすがーっ!」


観客と夢野遥応援騎士団も沸く。


(さあっ!
遥さんは去年の優勝者と言う事で今から持ち時間が二倍の十分与えられます。
……もしかして今年も?)


「はいっ! 早着替え九連発に挑戦しますっ!」


(去年は五連発だったのに大丈夫かい?)


「はいっ! 今年もポロリはしませんっ!」


(おおっと男性客にとっては嬉しいような悲しいようなだね!)


「ではやります……司会者さん、離れて下さい。スミス!」


【YES! マム!】


遥の呼びかけでスミスが壇上に上がる。
そして背負っているリュックから円形のカーテンを取り出す。


「じゃあ始めます……」


一転遥の顔は真剣だ。
スミスがおもむろにカーテンを上げる。
何か物凄い速さでゴソゴソ聞こえる。
スミスがカーテンを降ろす。


「私の癒しは時をも癒す……」


さっきの鎧女海賊とはうって変わって白いローブを身に纏った遥が現れた。
ちなみにこの決め台詞はこれも最近やってた深夜アニメ“フィールドファンタジア”の賢者の台詞だ。


「はぁっ!」


遥が叫びながら持っている杖をかざすと杖の先端についている水晶が光り、そこから水流が現れた。
蛇のようにうねりながら前方の応援騎士団の所に落下した。


ザバーン


「うぉぉーっ! 一年ぶりのはるはるの聖水だーっ!」


前方はびしょ濡れで大喜びだ。
僕は中腹で見ていたので濡れなかったが飛沫が僕の顔に数滴付いた。
少し舐めてみる。
しょっぱい。
海水だ。
おそらくあの杖もスミスの五大大牙ファイブタスクスなのだろう。
そんなこんなで遥の早着替えは進んでいく。


ピーッ


笛の音が鳴る。


(はいっタイムオーバーとなりましたっ!
さすが夢野遥さんっ!
見事な早着替え九連発でした。
ありがとうございましたーっ!)


スミスが手早くカーテンなどを片付けてまた下に降りる。


(さあっ!
続いては去年惜しくも二位だった名児耶杏奈さんですっ)


袖から杏奈が出てくる。
片手に白い日傘。
片手にガトリング銃を持って現れた。
あれ? よく見たら銃に弾がもう装填されているぞ。
中央に立った杏奈は勢いよく日傘を宙に投げる。
観客全員が日傘に集中。


キューン


続いて下でモーター音。
観客は下に集中。
杏奈がガトリング銃を水平に構えている。


「聖母マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を」


ガガガガガガガ


杏奈の持つ銃から超高速で弾が射出される。
僕の頬辺りを掠める。
壇上のステージはそんなに高くない。
しかも深く中腰になった杏奈の銃口の位置は僕の頬辺りになる。
僕は身を屈める。


(イタッ!)


(メガネが飛んだー)


僕の頭上はパニックだ。


(はっ……はいっ!
ありがとうございますっ!
名児耶みょうじやさんっ!
銃を降ろしてっ!)


ヒューン


モーター音が急激に小さくなり銃身の回転が弱まる。
僕は身を起こす。
周りの人は主に頭部辺りを押さえて唸っている。


(はいっ……
えー、まず今日のコスプレはグレーラグーンのロベルカですか?)


「当然じゃないフフフ……」


(いやー去年まで剣とかだったのにまさか銃を持ち出してくるとは……これ本物?)


「本物よ……フフフ」


(はいっ!
名児耶杏奈みょうじやあんなさんでした!
ありがとうございます! さあ続いては……)


あ、司会者強引に終わらせた。


ジリリリリリリ!


大きなベルが聞こえる。
何か警報っぽい。
周りもザワザワし始める。


(火事だーーっ!)


大きな声が聞こえる。
観客はどこだどこだと言わんばかりにあたりを眺めている。


(あっ! あそこだっ!)


声のした方を見ると僕らの居た第二展示場の下の方から黒い煙が出ている。
かなりの量だ。
僕とガレアは近くまで寄ってみる。


【なあなあ竜司。
何だコレ? これもコスプレか?】


「そんな訳ないだろガレア。
これはアクシンデントだよ」


消防署へは通報したのだろうか。
そんな事を考えていると血相を変えて騒いでいる女性が居る。


(誰かっ! 妹をっ! 妹を知りませんかっ!?)


コミケに来ている観客一人一人に聞いている。
僕の所にも来た。


(妹をっ! 知りませんかっ!?)


「落ち着いて下さい。
妹さんを最後に見たのはいつですか?」


(最後に見たのは同じブースで売り子をしていた時です……)


「ちょっと見てみます。全方位オールレンジ


緑のワイヤーフレームが広がり現在火災中の第二展示場を包む。
見つけた。
隅の方に何人か固まっている。
背丈や体格から二十代ぐらいの男性が二人。
十代後半ぐらいの女性が一人。
十代前半ぐらいの少女が一人。
少女は何かを胸に抱えて蹲っているようだ。


「妹さんいくつですか?」


(十一歳です……)


「もしかしてまだ中かも知れない……」


女性の顔が一瞬で青ざめ、泣き出した。


(うっうっ……
妹、今回初コミケだって言って張り切っていたんです……
私の書いた本を買ってもらうんだって言って……)


おそらく抱えているのはその妹さんが書いた本だろう。
それを聞いたら助けてあげたい。


ガシャーン


大きな破壊音がする。
第二展示場の扉が割れた音だ。
どうしよう?
僕が行かないといけないのか。
すると後ろから声がする。


「竜司お兄たんっ! 話は聞いたわっ! 私に任せてっ!」


コスプレ終わりの遥がそこに立っていた。
まだ着替えもしていない。


「君が行くのか!?
危険だ。
消防車の到着を待った方が……」


「多分今日は日曜だから道は渋滞。
到着は早くても五分以上。
しかも火の回りが速いわ。
中にある同人誌が燃えているせいかも。ぼやぼやしてたら手遅れになるわ」


遥は真っ直ぐこっちを見ている。
しょうがない僕も腹を括った。


「わかった。僕も行くよ」


「ホントッ!? 竜司お兄たんありがとうっ!」


遥は目を丸くして僕に謝辞を述べる。
とても四十二歳には見えない。
そんな事を考えている場合ではない。
早く行かないと。


「スミス、水蛇の恩恵シーク・ウェット・ロッド逢鬼が刻オーガ・ペイン、あと北風が騎士を作ったウィンド・ナイツ・ソードを用意して」


【仰せのままに】


スミスはリュックから長い包みを三つ取り出す。
まず遥が手にしたのは杖だ。
賢者のコスプレの時に持っていたやつだ。
確かこれって。


「ちょっと冷たいけど我慢してね竜司お兄たん……はぁっ!」


杖の先端の水晶から水流が現れ僕の身体を包む。
そしてそのまま遥の身体も包んでしまった。


【フフフ、これぞ五大大牙ファイブタスクスが一角。
水蛇の恩恵シーク・ウェット・ロッド
水晶から出た水流を自在に操るのですぞ】


「よしっ! 行くわよっ!」


遥は一番大きい包みから大剣を取り出す。
何やら所々鬼を想起させる装飾が施されている。
遥の二倍はあるだろうその大剣を軽々と持ち壁に走っていく。


「でやぁぁぁっ!」


大剣を勢いよく振り下ろす。
ガンという大きな衝撃音。
壁がガラガラと音を立てて崩れる。
壁があった場所はガレアも通れるぐらいの大きな穴に変わった


【ハッハッハ。
これぞ五大大牙ファイブタスクスの最大火力を誇る逢鬼が刻オーガペイン
はるはるが持つと腕力バフがかかるのですぞ!】


スミスが饒舌に何か言っている。
腕力バフって事は単純に腕力が上がるのか。
と、こうしちゃいられない。
早く中へ。


「ガレアッ! 今から中へ入るよ。
ガレアは魔力で周りに膜を張っといて」


【わかった】


僕は濡れたハンカチを口に当てて中に入る。
途端に体の前面を大きく撫でるように熱風が襲う。
同時に黒煙が僕の身体に纏わりつく。
僕はたまらず身をかがめた。
勇ましく入ってみたもののこれじゃあ身動きが取れない。
黒煙の中から遥も少し前で同じ状態になっているのが確認できた。
すると遥が叫ぶ。


「スミスッ! 北風が騎士を作ったウィンド・ナイツ・ソード!」


【ハイ!】


隣にいたスミスが包みを遥の方に投げる。


ブオッ


風の音が聞こえたと思ったら僕らの周りの黒煙が四散した。


【ハッハッ……
ゴホッゴホッ……
これぞ五大大牙ファイブタスクスの至宝!
ゴホッ……北風が騎士を作ったウィンド・ナイツ・ソードですぞ!
ゴホッ……これは風を自在に操る事が出来るんですぞ!
ゴホッゴホッ!】


スミスが黒煙でむせながらも律儀に説明している。
竜でも煙ではむせるんだなあ。
遥のおかげで視界が晴れた。
さっき全方位オールレンジで見た方向に走る僕とガレア。


「遥! こっちだ!」


が、そこには僕の背丈の倍ぐらいの炎壁が上がっている。


「クソッ! ここから真っ直ぐなのに!」


遥がまた叫ぶ。


「スミス! 水蛇の恩恵シーク・ウェット・ロッド!」


【ハイ!】


スミスが先程の杖を遥に投げる。
手に取った遥が叫ぶ。


「はぁっ!」


杖から水流が出るが少し小さい。


「駄目だわ! ここじゃあ」


「僕がやってみる! 全方位オールレンジ


再び登場する緑のワイヤーフレーム。


標的捕縛マーキング


僕は救護者のすぐ隣辺りの壁をマーキングしようと考えた。
無機物をマーキングするのは可能なのだろうか。
良かった。
出た、青い菱型の烙印。


「いけぇぇ!
ガレアァァ!
魔力閃光アステショット
シュートォォォ!」


ガレアの口から真一文字に白い閃光が射出。
炎壁も瓦礫も吹き飛ばし標的の壁も貫通し外で飛んで行った。
やった、道が出来た。


「遥っ! 早くっ!」


僕らは救護者の元へ走る。
良かった四人は無事だ。


「ガレアッ! 男性を抱えて早く外へっ! 遥は少女をっ! スミスは女性を頼むっ!」


【おう!】


【わ、わかったお】


「わかったわ」


僕は男性に肩を貸して立ち上がる。


「しっかりして下さい!」


男性は意識混濁状態だ。
おそらく黒煙を吸い込んだのだろう。
僕らは何とか外へ出た。


「ハァッ……ハァッ! 何とかなった……」


僕はその場にへたり込んでしまった。


【なあなあ竜司。
こいつもう降ろしていいか?】


男性救護者の襟首を掴んで肩から下げているガレアが話しかけて来た。


「わーっ! ガレアッ!
早く降ろしてっ!
その人窒息して死んじゃうよ!」


【へいよう】


まるで自分の荷物を置くように乱雑にドサッと地面に置くガレア。
良かった、まだ息はある様だ。


「ふぅっ!
全くガレアは……
でもありがとうガレア。
お前が居なかったら確実にこの人たちは死んでたよ」


【やっぱ人間ってひ弱だなあ】


側で遥もへたり込んでいる。


「竜司お兄たん……やったねっ!」


遥が元気にサムズアップする。


【は……はるはるぅ、出来れば小生はこんな危険な事は止めて頂きたいお……】


「何言ってんのよスミス。
もしかしたら今日助けた人達が未来のあたしのファンになってくれるかも知れないじゃない。
私は誰かが困っていて手を差し伸べられるなら差し伸べるわ。
これからもずっとねっ!」


(う……ん……ここは……)


遥が連れてきた少女が目を覚ます。


「気がついた?
もう心配いらないわ。
体の具合はどう?」


(おばちゃんが助けてくれたの……?)


一瞬で遥の顔が引きつった。
やはり少女の純真な目はごまかせないんだなあ。


「ホホホ……面白い事を言う子ねぇっ!
ええそうよ!
“お姉さん”!
が助けてあげたわっ!」


遥怒ってる怒ってる。
頼むから堪えてくれ。
僕は話題を変える為声をかけてみた。


「じゃあこっちは反対側だからお姉ちゃんの居る所に戻ろうか。立てる?」


(うん)


僕の手を取り立つ少女。
この子は蹲っていたからあまり煙を吸い込まなかったのだろう。


(スミレェェェ!)


向こうからさっきの女性が走ってくる。
そして妹を強く抱きしめる。


(おねぇちゃぁぁん! 怖かったよぉぉ!)


感動の対面だ。


###


「今日はここまで」


「ねぇパパ? 火事に飛び込んだ時杏奈は何してたの?」


「それがねえ、火事現場から出た後は会ってないんだよ」


「何で?」


たつは不思議そうに僕を見る。


「それには理由があるんだよ。
それはまた明日以降に話すよ……じゃあ、おやすみなさい……」




          

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