ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第六十七話 竜司、ガレアとプチ喧嘩する。

「やあ、こんばんは。今日も始めて行くね」


###


僕は死人が目覚めるように目が覚める。


「ん……」


僕はゆっくり身体を起こす。
窓を見ると外はもう暗くなっていた。
スマホで時間を確認。


午後六時半


「ガレア……?」


僕の呼びかけに答えない。
部屋には僕の声だけが響く。


「そういえば……」


僕は寝る寸前の事を思い出した。
僕の頭の中に最後のガレアの一言がリフレインする。


【じゃあ一人で行くからなっ!】


「一人で出かけたのか……」


僕はどんどん目が覚めていき、覚醒した代わりにガレアが一人で出かけた事の恐怖がムクムクと僕の中で膨らんできた。
やばい、すぐにガレアを確保しないと。
僕はすぐに着替え外に出た。
とにかく走った。
百貨店、プラモ屋、レンタルビデオショップ。
何処にもガレアは居ない


「ガレアーー! どこだーー!」


呼び掛けには応じない。
僕はすっかり全方位オールレンジを使うのを忘れていた。


「あっ! そうかっ! 全方位オールレンジだ!」


けどガレアが離れている状態で全方位オールレンジは使えるのだろうか。


「すぅーっ……全方位オールレンジっ」


出た。
僕を中心に緑のワイヤーフレームが広がる。
いた。
東へ百mから二百m。
建物の前に居る。
けど何かおかしい。
ガレアが数人に囲まれている。
多分この反応は竜だろう。
近くに竜河岸の反応が数人いるからだ。
竜河岸と竜にガレアが囲まれている。


「早く行かないと」


全方位オールレンジ解除。
僕は走った。
ガレアの元へ。


ドン


「すいませんっ!」


ぶつかった人に謝りながらも走る。
この角だ。
この角を左に曲がれば。
僕は曲がった。
いた。
ガレアだ。
ゲームセンターの前に居るようだ。
何やら動きがあるぞ。
早く行かないと。


「ちょっと! ガレア何やってるの!?」


【おー竜司。
何ってケンカだよ】


「違う!
そう言う事じゃ無くて何でケンカしてるのかって聞いてるの」


冷静になって周りを見渡すとほぼほぼケンカは終わっていた。
辺りの店に突っ込んでいる竜。
倒れてのびている竜河岸。
様々だ。


【こいつらがケンカ売ってくるからよ。
ホラ言うだろ降りかかるキノコ……】


「火の粉ね」


【そうそれ】


「確かに言うけど、向こうも理由も無しにケンカ売っても来ないだろ?」


そんなやり取りをしていたらのびていた一人の竜河岸らしい人物がよろよろと半身を起こす。


「こ、こいつが急に殴りかかって来たんだ……」


それを聞いた僕はキッとガレアを睨む。


「ガレア……どういう事?
この人が言ってる事はホントなの……?」


【何が?】


「何がじゃないっ!
急に殴りかかったって本当かって聞いているんだ!」


【何だよ竜司キレてんのか?
急に殴った……そうだっけ? 覚えてねぇなあ】


「おぼ……」


僕は言葉を失った。
この十人弱の竜や竜河岸が倒れている惨状を作り出した張本人がついさっきの事を覚えていないなんて。
僕は頭にきた。


「ガレアッ!! そこに座れっ!」


【何だよキレんなよー】


ブーたれつつも僕の前に座るガレア。
胡坐をかいてたけど。


「ガレアいいかい?
これからは絶対一人で出歩いちゃ駄目だ」


【何だよ今回だけだろ】


「確かにそうだけど、大体ガレアはガサツで乱暴なんだよ。
どうせマッハも向こうで苛めてたんだろ?」


【何だよそれ】


「僕の目が届かないといっつも何かやらかすだろ。
三重の時のマクレでもそうだ!」


【うるせぇなあ】


「うるさいとは何だ!」


【うるせぇからうるせぇって言ってんだろ。
もういいや俺は行く】


ガレアは翼をはためかせ空を飛び去って行ってしまった。


「あっ! ガレア待てぇっ!」


僕の呼びかけを無視してガレアは行ってしまった。
僕はガレアのケンカの後片付けだ。
とりあえず近くに倒れている竜河岸を抱き起こす。


「大丈夫ですか? しっかりして下さい」


「う~ん、いてて……アンタ誰?」


言いにくい事を聞いてくるが言わないと。


「……ケンカの張本人の竜の主です……」


これを聞いた途端竜河岸の顔が青ざめていく。


「え……ひえっ! おーたーすーけー!」


そう言って自分の竜を置いて走り去っていった。
その他の倒れている竜河岸や竜も右から同じ反応だった。
そして誰も居なくなった現場であとは転がったゴミ箱と中身を片付けていた。
その時僕の後から声がかかった。


「あっ……あの……」


「はい?」


中腰の僕は起きて声のする方を向く。
するとメガネの女の子が立っていた。
セミロングの黒髪を両側を白いヘアゴムでまとめている。
服は白いタートルネックセーターとGパンを履いている。


「あの……違うんです……」


「違うって?」


このメガネをかけた女の子。
物凄く胸が大きい。
おそらく凛子さん以上だ。
しかもカバンをたすき掛けしているからさらに巨乳が強調されている。
どうしても目線が下に降りてしまう。


「あの竜は私を助けてくれたんです……」


「え……、それって……」


その女の子が言うには現場のゲームセンターの大型筐体でその子が順番待ちをしている所を竜河岸が数人割り込んできたそうだ。
そこでその子が注意したら口論になって突き飛ばされた所にガレアがやってきて全員のしてしまったそうだ。


「そうだったんですか……」


「あの……大丈夫ですか……?
見てるとあの竜とケンカしているようでしたが……」


僕の心を凄い後悔が襲った。
しまった、言い過ぎた。
早く見つけて謝らないと。


「大変だ……。早く会って謝らないと!」


「私も手伝います……あの竜にお礼も言いたいし」


「ちょっと待って……全方位オールレンジっ」


僕を中心に緑のワイヤーフレーム展開。
ガレア発見。
意外に近くに降りていた。
何やら店の前でウロウロしている。


「どうしたんですか……?」


メガネの子が心配そうに話しかける。


「見つけました。こっちです」


僕は走って向かう。
後ろをチラッと見る。


「待って下さ~い……」


メガネの子も一生懸命走ってついてくる。
巨乳がばいんばいん揺れている。
ここを曲がったらガレアが居るはずだ。
いたガレアだ。
公園のたこ焼き屋の前でウロウロウズウズしている。
おそらく食べたいのだろう。
僕はガレアに近づく。


【う~ん、食いたいなあ……
でも人間界こっちって勝手に食っちゃ駄目らしいしなあ……】


きちんとガレアは人のルールを守っているようだ。
やはりガレアはいい奴だ。
何故僕はガレアを信じてやらなかったのだろう。
さあたこ焼きを買ってやらないと。
僕は何も言わずガレアに近づく。


「すいません。今焼いてるのと焼けてるのを全部下さい」


(ヘイ、全部で十六箱。八千円になります)


【あ、竜司】


僕はガレアの呼びかけに応じずたこ焼きを受け取る。
そしてガレアの前に立つ。
そしてたこ焼きが入った大袋を差し出しながら深く頭を下げた。


「ガレアごめん!
僕が悪かった。この子に全部聞いたよ」


【え……あ、さっき突き飛ばされた女だ】


「ガレアこの子は覚えてるんだ」


【なんかココがデカい女がいるなーって見てたんだよ】


ガレアはそう言いながら胸の辺りに手を当てる。
それを見たメガネの子の顔が真っ赤になっている。


「あっ……! あのっ! さっきはありがとうございました!」


恥ずかしさを押し殺しお礼を言うメガネの子。
何か頑張って言っている気がする。


【勘違いするな。俺は降りかかるキノコを焼いただけだ】


ガレアが今言ったセリフはアステバン第二十六話「夢の終わり」からの引用だ。
正しくは“降りかかる火の粉を払った”だが“キノコを焼いた“でも何となく意味が通じそうだ。


「ガレア火の粉ね」


「……えっと……」


メガネの子が戸惑っている。
言葉が解らないのだろう。
この子は普通の人か。


「えー……別に通りかかっただけで気にしなくていいと言ってます」


【なあなあ竜司。これ食っていいのか?】


大袋に入っている大量のたこ焼きを指差すガレア。


「ああもちろんだよガレア。
さっきは酷い事言ってごめんね」


【いいって事よ! モグモグ……うめぇなあ~プップッ】


相変わらず器用に蛸を避けて食べるガレア。
ガレアの周りに吐き出した蛸が増えていく。
喰い方はまあ汚いが今日は僕が悪いんだし大目に見よう。


「フフ……何か無邪気で可愛いですね、この竜。
名前なんて言うんですか?」


メガネの子が優しく微笑んでいる。


「あ、ごめん。
この竜はガレア。
僕は皇竜司すめらぎりゅうじ、よろしく」


ようやく会えた名古屋の貴重な普通の人だ。
それとなくサラッと僕も自己紹介しておいた。
決して巨乳に惹かれた訳ではない。


「……私は鷹司美々たかつかさみみよろしく……」


恥ずかしそうにモジモジしている。
ちょっとした事でも巨乳は揺れている。
美々がおもむろにカバンからA四サイズのスケッチブックを取り出し、何かを書いている。


「何書いているの?」


僕は聞いてみた。


すめらぎさんとガレア君……
何か仲良さそうで絵になるから……
漫画の次回作に使えると思って……」


この子も漫画を書くようだ。
少し脇から覗いてみる。
結構、というかかなり上手い。
僕とガレアが笑い合っているシーンがイキイキと描かれている。


「上手いんですね」


「ひゃあっ……!
見ちゃ駄目です……」


「どうして? 凄く上手だよ」


「……恥ずかしいです……」


「おーいガレアー。おいでー」


【何だ竜司?】


たこ焼きの箱を脇に置いてこちらに来るガレア。
流石のガレアもたこ焼き十六箱をペロリとはいかなかった様だ。


「ホラ見てごらん。
僕とガレアを書いてもらったよ」


美々のスケッチブックを指差す僕。


【何だ? 絵か?】


美々の脇に来たガレアは素早くスケッチブックを取り上げる。


「あぁっ……! 止めて下さ~い……返して下さ~い……」


美々がぴょんぴょん飛びながら手を上に伸ばす。
が、ガレアの巨体では届かない。
ここで一つ解った事がある。
胸と言うのは大きいと身体の動きに追いつくのに時間差が発生する様だ。
というか飛ばないでくれ。
揺れるから。


【へー! コレ俺と竜司じゃん。お前凄いな!】


「ほらガレアも上手だって言ってるよ」


「……恥ずかしいから返して下さ~い……」


【他は何が書いてあるんだ?】


ガレアがペラペラスケッチブックをめくり出す。


「ダメッ……! めくらないで……!」


美々はまだぴょんぴょん飛んでいる。
だから飛ぶな。
揺れるから。


【ん? 何だこりゃ?】


他のページを見たガレアがキョトン顔になっている。


「どうしたのガレア。ちょっと見せて」


僕はガレアからスケッチブックを受け取った。
そこに描かれたモノを見て僕は言葉を失った。
詳しくは言わないけど要するにそこに描かれていたのはホモ絵だった。
というかガレアと僕の絵以外は全てホモ絵だ。


「あの……鷹司たかつかささん……書いてる漫画って……」


「はい……実は私……BL作家なんです……
あっ……御存知ですか? BL」


「……はい……」


僕は知識としては持っていたのでとりあえず肯定した。
美々は恥ずかしそうに俯いている。
この空気にいたたまれなくなりフォローを入れる。


「でっ!
でも気にする事ないと思うよっ!
BLっても漫画は漫画なんだし。
それに鷹司たかつかささん絵が上手いし普通にプロとしてもやっていけるよ」


絵のクオリティの部分は正直な感想だ。
色々な漫画を読んできた僕が保証する。
がしかし美々の反応は大きく違っていた。


「そうよねっ!
BLって言っても何ら恥ずべき所なんてないわよねっ!
ところですめらぎさんは攻め!?
受け!?
どっち!?
私はすめらぎさんは受けだと思うんだけどここは逆に攻めになった方が面白いと思うのっ!
二人の絵を書いてる時に思いついたんだけど
竜×人の作品を書こうとしてるんだけどガレア君は俺様受けですめらぎさんはヘタレ攻めってどうかしらっ!?」


メガネをキラッと輝かせ急に捲し立てる美々。
所々知らない単語も出てきた。
せっかく普通の人だと思ったのにやはり名古屋はそうなのか。
僕がドン引きしているのを感じたのかすぐに恥ずかしそうに俯く美々。


「ごごごっ……! ごめんなさいっ……!」


「いえ……大丈夫ですよ……」


【なーなー竜司。
その女の絵、何で裸の男同士が抱き合ってるんだ?】


ガレアが無邪気に聞いてくる。


「ガレア……
これはね、人間の闇の深~い所の話になるんだ……
これはガレアは知らなくていい」


【そうなの? 何か気持ち悪い絵だから良いや】


ガレアの純粋さゆえか歯に布着せぬ感想を述べるガレア。


「漫画家って事は明後日のコミカライブにも出るの?」


「ええ……すめらぎさんもですか……?」


まだ美々は恥ずかしそうに目を背けている。


「うん、富樫プロって所の売り子をやる予定だよ」


「富樫プロってあの富樫プロですかっ!?」


さっきまで恥ずかしそうだった美々のテンションがまた急激に上がった。


「う、うん……多分そうだと思うけど、そんなに有名なの?」


「有名なんてもんじゃないですよっ!
出す同人出す同人全て完売でファンも手放さないからプレミアムも付いてオークションで一冊三万はくだらないとかっ!」


流石トレジャー×トレジャーのキリコ先生。
当然と言えば当然か。


「じゃあ明後日会えるかも知れないね」


「はい……そうですね……
良かったらすめらぎさんも買いに来てくださいね」


「ハハ……考えておくよ」


僕はBLには全く興味が無い。
が、とりあえず当たり障りのない返答に留まった。


「じゃあ夜も遅いし僕たちは行くよ」


「あっはい……じゃあ明後日コミカライブで」


「うん、じゃあね」


僕は美々と別れた。


「じゃあガレア、行こうか?」


【はいよう】


ガレアと僕は宿に入り早々に寝てしまった。
今日見た夢は今までのガレアとの旅の反芻だった。
西宮で野球をやって、大阪でUSJにも行ったなあ、奈良では一緒に大仏を見て、三重ではガレアと一緒にレースもした。
思い返してみると楽しい事ばかりだ。
僕はガレアの事をもっと信じないといけないなあ。
そんな事を考えながら目を覚ます。
さあ、明日はコミケだ。


###


「さあ、今日はここまで」


「ねーパパ? BLって何?」


やはり聞いて来たか。
なるべく具体的なソレ系の話を薄めて話したつもりだったが。


「それはたつが大人になったら解るよ……さあ、今日はもうお休み……」


バタン








          

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