ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第六十四話 竜司、衝撃の事実を知る。

「やあこんばんは。今日も始めるよ。昨日は漫画を書く所までだったね」


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僕はただひたすらベタを塗っていた。
そしてたまにはみだしホワイトを塗る。
頻度としてはベタ、ベタ、ベタ、ベタ、ベタ、ベタ、ホワイト、ベタ、ベタと言った所だ。


「竜司君、さっきの原稿ベタ塗れた?」


先程遥に大さんと呼ばれていた男が声をかけてくる。


「あ、いえ……まだです」


「もう少しスピードアップしてくれ」


そんな事言われても僕は今日初めて漫画制作に関わったばかりなのになあ。
と泣き言を考えてしまう。
しかしそんなこと思ってられない。
僕は一心不乱にベタを塗った。
どれぐらい時間が経っただろうか。
とにかく足を引っ張らないように気を使っていたから肩が凝った。


「うん……はい、OK。竜司君もう上がって良いよ」


「ありがとうございます」


何かすっごく疲れた。
早く宿を探しに行こう。
僕は隣の部屋に行った。


「おーい、ガレアー。おまたせー……え……?」


ガレアの前に山盛りの武器があった。
剣から弓からメリケンサックからモーニングスターなんかもある。


「何? ガレア、これどうしたの……?」


【あっ竜司こいつスゲーわ。
手から色々出るんだぜ】


スミスを指差しガレアがそう言う。


【ふっふっふ。
ガレア氏、これぐらい僕にとっては朝飯前ですしおすし】


相変わらずうっとおしい喋り方だなあ。
でもキリコさんの仕事場をこんなに散らかして大丈夫なんだろうか。


「もう、ガレアこんなに散らかして……出すのは良いけどコレどうすんの?」


とにかく量が多い。
文字通り山盛りの武器がある。


【むっふっふ。それも心配ご無用】


スミスがパチンと指を鳴らす。
すると山盛りの武器は霧散し消えた。
なるほどヒビキの氷のようなものか。


「じゃあ、ガレア帰るよ」


僕はガレアを連れて外へ出ようとしたら遥が慌てて


「あぁっ竜司お兄たんっ! 待って!」


その声に反応して振り向く僕。


「どうしたの?」


するとまた遥が僕の前でさっき見せた祈りのポーズをする。


「竜司お兄たんっ!
明日も来てくえゆ?」


【やはりはるはるマジ神……】


スミスが何か言ってる。
確かに作業自体は中途半端な感じが否めない。
僕は仕方なく応じる事にした。


「あぁ、わかったよ」


「じゃあ、来てほしい時間がわかったら連絡入れるねっ。
竜司お兄たんっケータイ番号教えてっ」


僕は言われるままにケータイ番号を教えた。


「じゃあ、また明日」


僕は遥をキリコさんの仕事場に残し宿を探す事にした。


「じゃあ、今日はどこに泊まろうか……」


ホテルマイシテイジ名古屋錦


さっそくカウンターへ


「すいませーん」


(はいいらっしゃいませ)


「今日、人間一人、竜一人泊まりたいんですけど部屋空いてますか?」


(はいございます。
どちらになさいますか?)


僕は一番安い部屋を選ぶ。


(はいありがとうございます。五十五号室です)


僕はカギを受け取り五階へ。
部屋に入ると意外に小奇麗だった。
さあ、何はともあれまずは風呂だ。


「僕、風呂に入るけどガレアどうする?」


【俺も入ろうかな?】


「じゃあ準備する」


僕は寝巻を用意した。
この後僕は物凄く後悔する事になる。
僕は風呂に向かった。

中に入った第一印象。
何か物凄く狭い。
しかもトイレと同じだ。
この狭い湯舟にガレアと入るのか?


「……大丈夫かな?」


僕はここにガレアと二人で入るのかと些か不安にもなったが疲れのせいかスルーした。
じきに湯舟にお湯が溜まる。


「ガレア、風呂沸いたよ。入ろう」


ガレア通常サイズで入る。
はい二秒で無理。


「ちょ、ちょっと待ってガレア……ガレアってば!
ちょっと外に出てっ!」


【何だよ竜司。早く風呂に入ろうぜ】


あの狭さが全く気にならないのか?
全く竜ってのは。


「ガレア、ちょっと縮んで……」


【何だよめんどくせえなあ】


「いいから……このままだと風呂に入れない」


ガレア二回り小さくなって入る。
……入れなくもないが湯舟が思った以上に狭く息苦しい。


「ガレア……ごめん、もう一度出て」


【何だよも―】


ガレアを外に引っ張り出し僕は尋ねた。


「ガレアってどこまで小さくなれるの?」


【測った事無いけど結構いけるんじゃね?】


「一度限界まで縮んでみて」


【ん? じゃあやってみる】


何か物凄く眩しい。
いつもの小さくなる時と違ってガレアが物凄く光っている。
僕は思わず目を塞いだ。
やがて光が治まる。
前を見るとガレアが居ない。


「あれ? ガレアー! どこ行ったー!?」


【おい! こっちだこっち!】


声はするがどこにも居ない。


【どこ見てんだ下だよ下】


僕は顔を下に向ける。
するとちっさいガレアが見上げている。


「へ……」


僕は驚いた。
限界までとは言ったがこんなに小さくなれるのか。


【よっと】


ガレアが翼を広げ、僕の目線まで飛んでくる。
何か凄く可愛くなった。
手乗り竜だ。


「プッ……ガレア、何か可愛くなったね」


【馬鹿にすんなー】


「このサイズなら大丈夫だ。風呂に入ろう」


僕はミニガレアと一緒に風呂に入る。


「じゃあガレア、シャワー出すよ」


シャァァァ


【うわー、何だコレ―】


ミニガレアがシャワーで焦っている。


「はい、次は身体洗うよ」


僕は小さいガレアの身体を洗った。
逆鱗には注意して。
小さくなっても同じだ。


「ん……何だ……何だコレ?」


何かガレアの身体が物凄く泡立ちが良い。
擦れば擦る程ミニガレアの身体が白い泡に包まれる。
見る見るうちに雪だるまみたいなミニガレアが出来上がった。


「プッ……ガレア何か面白い。何この身体」


【俺にもわかんね】


「じゃあ、シャワーで流すよ」


シャァァァァ


【ヤメロー】


小さいガレアには豪雨に打たれているような感じがするのだろうか。
そんな感じで風呂から出た僕とガレア。
外に出るとすぐにいつものサイズに戻るガレア。


「当分あのサイズでいればいいのに」


【やだよ。結構しんどいんだぞ】


その日は疲れもあり、寝てしまった。


翌日。


僕は目覚める。
まず時計を見る。


午前七時半


昨日の話だと遥の電話待ちだ。


「ガレア起きて」


【オス竜司】


相変わらず竜の目覚めは良い。


「んー、ガレアどうする? どっか行く?」


【ハラヘッタ】


「じゃあ朝食食べに行く?」


【ハラヘッタ】


ガレア空腹モードらしい。
僕は手荷物をまとめた。


「じゃあ行くよガレア」


【ハラヘッタ】


カウンターに行きチェックアウト。
ホテルの自動ドアをくぐり出た瞬間。


僕の身体を悪寒が襲う。
何かまとわりつくような視線。
僕の身体がブルッと震える。
僕は辺りを即座に見渡す。
誰も居ない。


「……こっちよ、竜司……」


左後方から声がする。
声から誰かすぐわかる。
振り向きたくない。


「あれ!? 声がするけど誰も居ないなぁ!」


僕は大声でごまかしその場を去ろうとした。
というか言い終わらない内に僕は走り出していた。


【あっ竜司ー。
どこ行くんだよー】


ガレアも後から飛んでくる。


【竜司、どうしたんだって】


僕はそんなガレアの言葉など耳に入らない程一目散に走った。


「はぁっ……はぁっ……」


三百mほど走っただろうか全方位見渡しても誰も居ない。
良かった。
僕は心底安心した。


【ハラヘッタ】


あ、そうだガレアと朝食に行くんだった。


「じゃあガレア行こうか」


僕はガレアとどこか店に入ろうとする。
が、早朝と言うのもあって店がどこもやっていない。
とりあえず喫茶店に入る事に。


喫茶 RANCHY


確か昨日調べたら名古屋の人は朝に小倉トーストを食べるそうだ。
早速頼んでみよう。


「すいませーん、この小倉トーストセットと……ガレア何する?」


【何があんの?】


僕はガレアにメニューを見せる。


【何か全部少なそうだなあ】


「しょうがないよ。朝だもん」


【じゃあハムトースト……十枚】


「わかった。あとハムトースト十枚下さい」


じきにメニューが来る。
本当にパンの上にあんこが乗ってる。
何か面白い。
早速食べよう。


……と思ったらまたまとわりつく視線が僕を襲う。
側のガラスを見る。
名児耶杏奈みょうじやあんなが張り付いている。
鼻息でガラスが白くなるぐらいべったりと。
眼を見開き、こちらをじっと見ている。
急に食欲がなくなる僕。
そっと手に持った小倉トーストを置く。
そのまますっと視界の外へ歩き出す杏奈。
程無くして。


カランカラン


(いらっしゃいませー)


後ろから声が聞こえる。


「フフフ……竜司ようやく会えたわ……」


「や、やぁ名児耶みょうじやさん……おはよう……」


【少ないけど結構美味いなコレ】


ハムトーストをバクバク食べるガレア。
そんなの耳に入らない。


「おはよう……
さっきはびっくりしたわ……
急に走り出すんだもの……」


「えっ!?
さっきいたの!?
気がつかなかったよ! ごめんね」


僕はしらじらしく大声で言ってみた。


「フフフ……いいのよ別に」


そう言いながら向かいに座る杏奈。
このまま居座る気じゃないだろうか。
沈黙が流れる。
僕が口火を切った。


「……で、今日は何の御用で……?」


「私はね思うの。
将来は子供を二人男と女がが良いわ。
そしてお金を貯めて小高い丘に小さな家を建てましょう。
そして大きな犬も飼って家族仲良く暮らすの……
フフフ、それでね……」


僕の発言は無視され何か妄想めいた事をずっと話している。
僕は小倉トーストの事はすっかり忘れていた。


「……と言う事なのよ。竜司はどう思う?」


「……イインジャナイカナー」


全くの棒読みになる僕。


PURURURURU


僕の電話だ! ラッキー!


「ちょっとごめんね」


僕は席を外す。


「もしもし……」


「竜司お兄たんっ! おっはよーっ!」


「遥、おはよう」


「今日はねっ朝の十時にまた昨日と同じ場所に来てほしいのっ」


「十時ですね……わかりました。わぁっ!」


すぐ近くに杏奈の顔があった。
怖い怖い怖い。


「ちょっ!? 何をっ……!」


プツッ


「竜司、誰と電話してたの……」


さっきの妄想発言の時とはうって違ってドスのある低い声になっている。


「べべ別にっ……!」


「フフフ、竜司は優しいのね……
でも良いのよ。
あんなビッチの事を庇わなくても……さっきの電話遥でしょ?」


「はい……」


何故か敬語になる僕。


「あの年増が……
あれ……? アレあレ……?
何で私も知らない竜司の番号をあの年増が知っているのかしら?」


僕は固まった。
杏奈がブルブル震えている。


ガリッ


何の音だ?
向かいを見ると杏奈が頭を掻きむしっている。


ガリッガリッガリッ


「アレあレアれアレアレアレアレ」


ずっと頭を掻きむしる杏奈。
物凄いスピードだ。
テーブルに血が滴り落ちる。
ポロポロ毛が落ちている。
かなり凄まじい状態だが杏奈は止めない。
たまらず制止する。


「ちょ、ちょっと杏奈さん落ち着いて!
昨日遥の漫画制作を手伝う事になってその絡みで交換しただけですよ!」


ピタッと手が止まる杏奈。


「そうよね。
竜司があんな年増を好きになる訳ないものね。
嫌だわアタシったら……」


少し冷静になった僕はようやく杏奈の発言に気付く事が出来た。


「ねえ、さっきから遥の事を年増って言ってるけど遥っていくつなの?」


「四十二よ」


杏奈はあっけらかんと答える。
え? ちょっと待て。
あのナリで凛子さんより年上か!?
お兄たんとか言ってるが僕の方が全然年下だ。
下手をしたら親戚のおばさんとかのレベルになる。


「……ホントに?」


「ホントよ。
私が幼稚園の頃からライブやってるんだから。
キャリアだけならベテランよ」


これは普通に驚いた。


「あの夢野遥ゆめのはるかってのも芸名で本名は権藤房代ごんどうふさよよ」


全然違う!


「本名に関してはあのビッチも嫌いらしくてなかなか言わないけどね」


「じゃあ、どうやってわかったの?」


「それは私のスキルを使ったのよ。
ちなみに竜司の居場所を見つけたのもこのスキルよ」


「へ、へぇ……」


杏奈のスキル、怖そうだ。


###


「さあ、今日はここまで」


「パパー、四十二歳っておばさんでしょ?」


「まぁ……ね」


「おばさんがアイドルやってるの?」


たつが不思議そうな顔で聞く。


「そうだったんだよ。いや、本当に見た目では絶対わからないよアレは」


「ふうん」


「さぁ今日はもうお休み……」


バタン

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