ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第五十一話 出会うまでのガレア

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうか」


「パパ?
ガレアってどのくらい食べれるの?」


「どうだろ?
正確に測った事は無いけど大人三人分ぐらいは軽いんじゃないかな」


「ふうん」


「じゃあ、始めるね」


###


僕も食事を終えて少しの間まったりしていた。
じきに僕から話を切り出した。


「そうそう、ガレアって僕と会うまでって何してたの?」


【何って?】


「だから地球に来たキッカケとかさ」


【向こうで引き籠もってたのは知っているだろ?】


「うん」


【洞穴で寝てたらテレパシーが入って来たんだよ】


「テレパシー?」


【ああ、定期的に来る奴さ。
竜の中に酔狂な奴が居てそいつが人間界の事を教えてくれるんだよ。そんでそこでアステバンを見たんだよ】


「見たってどういう事?
口で教えてくれるんじゃないの?」


【違う違う。
魔力で生成した画面でそいつが作った映像を流すんだよ】


ガレアが洞穴で住んでるぐらいだから、おそらく竜界っていうのは原始人のような暮らしになっているのだろう。
竜界で映像を流すと聞いて、田舎とかである神社で夏休みとかに映写機で子供映画を流す催物を思い浮かべた。


「よくアステバンなんて古い特撮流してくれたね」


【そうなんだよ。
だからなかなか流れなくてな。
しかも話数もバラバラだし】


僕は少し合点がいった。


「それで居ても立ってもいられなくなってこっちに来たの?」


【うん】


ガレアらしい理由だ。


「こっちに来る時って何か手続きとかいるの?」


【手続きって言うかマザードラゴンに印をもらわないと駄目】


「印?
ガレアって体のどこかにシルシがあるの?」


【本人は体の中じゃ無しに心にとか言ってたなあ】


「それでゲートをくぐって来たと。
そもそもゲートってマザードラゴンが作ったの?」


【うんにゃ、元々昔のゲートは何か知らないけど空いたんだってさ】


「自然発生か」


【んで、最初の頃は何でもかんでも行きたい放題だったんだってよ】


「それは悪い竜なんかも来れるって事?」


【人間の善悪ってのはよく解らんがアステバンで言う所の“ボーマ”側だな】


ガレアはアステバンの敵組織を例えに出してきた。


「わかりにくいよガレア」


【要するに血の気が多い奴とか好戦的な奴とかだよ。
そんな奴らもわらわら行ったもんだからマザードラゴンが頭を抱えてよ】


「そうだろうね」


グースから聞いていたマザードラゴンの印象から同意した。


【そんでしばらくマザーが居なくなって帰って来たと思ったら ゲートに“柵”を設けたってマザーからテレパシーが入ってな。
これから先私の印が無いとゲートは抜けれないってさ】


「よく竜が従ったね」


【いや、そりゃかんけーねーって人間界に行こうとした奴も居たんだ。
それで噂によるとそいつ柵に触れて一瞬で風化したってよ】


そうか、確か竜が死ぬときは風化するんだった。


「そんでガレアはこっちに来たと。
最初身寄りがないじゃない?
どうやって暮らしていたの?」


【とりあえず周りを飛んで見て回ったなあ。
店に入ってアステバンの映像見ていたりとか】


「食事とかどうしていたの?
ガレアいっぱい食べるじゃない」


【それは魔力で生成するんだよ。
でも基本嫌いなんだよなあ。
魔力で作る食いもんって。
何ていうの? 味気ないんだよ】


「それって魔力が減ったりするの?」


【しないんじゃね?
よくわからんけど】


だとしたら魔力は実際恐ろしいエネルギーだ。
もしかして永久機関じゃないだろうか?
僕は物理についてはよくわからないが自分で食べ物を作り自分で栄養を摂取するという事だ。


【どした? 竜司?】


「いや、何でもない」


【まあ、そんな暮らしをしていた所に窓を見たらアステバンが流れていたから声かけたんだよ】


何となく腑に落ちない点もあるがとりあえず納得した。
時計を見た。


午後二時半


そろそろ戻らないと


「ガレア、そろそろ行くよ」


【あいよ】


僕らは店を出て駅に向かった。
そのまま電車に乗り四日市市へ戻って来た。
駆流の家へ戻ろうと歩いていたら前に人だかりが見えた。
正確には人は四人。
そして竜は四匹だ。
真ん中の奴を囲むように歩いている。


【ん?
あれマクベスじゃねえの?】


ホントだ。真ん中に居るのは駆流とマッハだ。
何やら話しているようだ。
でも距離が離れているため聞こえない。


そうだ、こんな時こそ魔力注入インジェクトだ。


「ガレア、魔力注入インジェクト使うよ。
魔力注入インジェクト……」


トクン


心臓が高鳴る。
僕は耳に意識を集中した。
次第に聞こえてきた。
周りの雑音も多少入るがそれは無視して前の会話に集中した。


「なあ、駆流?
金貸せよ。
お前んち金持ちだろ?」


駆流は黙ってるようだ。


「おっ財布はっけーん。いっただきー」


【やめてよ―、返してあげてよう】


マッハが駆流の財布を取り返そうとしているようだ。


【うっせーなマクベス。
弱虫はすっこんでろ!】


一人の竜がマッハの頭をどつく。


【痛いっ】


「……返せよ。金は抜いたんだからもういいだろ」


いつも元気な駆流らしくない覇気のない言葉だ。


「お前良い財布持ってんだからもう少し見せろよ」


囲んでいる一人が財布を上に掲げる。
ここで魔力注入インジェクト終了。


その場で立ち止まり少し考えた。


僕はもしかして見てはいけないものを見てしまったのではなかろうか。
そんなふうに思ってしまう程衝撃映像だった。
あれは完全にいじめられっ子だよな。


僕は真っ直ぐ駆流の家に戻るつもりだったが、進路を変更し四日市一番商店街に向かう。
そして一軒の花屋の前に来た。


「いらっしゃい。
あ、えーと確かすめらぎさんだったっけ?
今日はお花を買いに来られたのですか?」


「いえ、今日は華穏ちゃんに用があって」


「そうですか。あいにく華穏はまだ学校でして……」


華穏の母親が不在を告げようとした所に後ろから声がかかる。


「あれ?
すめらぎさん?」


ちょうど華穏が帰宅した。


「あら? 華穏。
今日は早いのね」


「大会前だもん。
軽い筋トレで終わりよ」


「そう。
あ、すめらぎさんがあなたに用があるって」


「わかったわ。
すめらぎさん、ちょっと待っててね」


二階にパタパタ上がっていった華穏は十分ぐらいで降りてきた。
ピンクのカットソーにデニム生地のミニスカートと言うシンプルながら可愛らしい格好だ。


「おまたせしました」


「じゃあ行こうか。
近くに喫茶店とかある? 奢るよ」


「えっ? いいんですか? じゃあ案内します」


華穏の案内で一軒の店の前に着いた。


カフェ ヌク


僕とガレア、華穏の三人は店に入る。


「いらっしゃいませ。
竜河岸のお客様ですね。では専用のお席へどうぞ」


僕ら三人は奥へ通された。


「今日はありがとう華穏ちゃん。
好きなの頼んでいいよ」


「ホントですか!?
じゃあ本日のおすすめケーキセットを……」


(いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?)


「はい、おすすめケーキセットを三つ……飲み物はアイスコーヒーと……」


「あ、私キャラメルミルクティーで」


「じゃあ、キャラメルミルクティー二つ」


一つはガレア用だ。
甘いから大丈夫だろ。


「で、今日はどうしたんですか?
すめらぎさん」


「今日は駆流について尋ねたい事があってね」


「はい」


「駆流ってもしかしていじめられっ子なの?」


隠していてもしょうがないと思い僕は直球で聞いてみた。


「……どうしてですか?」


華穏の表情が少し曇った気がした。
言うなれば“バレた、気付いてしまった”そんな気持ちを伺わせる表情になった。


「今日……見ちゃったんだよ。
駅から歩いている時に三人の竜河岸に囲まれてカツアゲされている所を。
あの三人は同級生?」


華穏は少し黙っている。そこへ


(お待たせしましたー)


注文がやって来た。


「ごめん華穏ちゃん。
こんな話をして。さ、食べて」


華穏は黙ってフォークを走らせる。


【甘~い。美味いぞコレ】


ガレアは手づかみでケーキを食べている。
お前フォーク使えるだろ。


「……ふう、まあいっかすめらぎさんだし」


ケーキを食べ終わった華穏はそうつぶやいた。


「あの三人は茂部もぶ三兄弟って言う竜河岸の兄弟。
学校に来てもやりたい放題でみんな関わり合いになるのを嫌う不良兄弟です」


「駆流ってあんな性格だからいじめられっ子には見えないけどね。
意外だったよ」


「私も詳しくは知らないんですけど、中学に上がった辺りから三人と関係を持ったそうです」


「学校側も何とかしようとはしないの?」


「うちの学校私立で中高大まで一貫教育で生徒数も総数で一万人ぐらいいるそうで、だから管理しきれないって言うのが現状らしいです。
私はスポーツ特待生で学費全額免除で入学できたんです」


「部活何やってるの?」


「陸上部です」


「そうか。
華穏は何でいじめられているか聞いてみたの?」


「一度だけ聞いてみたんですが、女に相談するなんてって突っぱねられて……」


その二人のやり取りは容易に想像がつく。


「でもその時は私も食い下がったんです。
最近は無いですが当時青アザとかの生傷が絶えずあったので私も本当に心配で……ようやく一言だけ聞き出せたんです」


「何だったの?」


「俺の事は良いんだ。これは俺のケジメだ。って……」


駆流と茂部もぶ三兄弟の間には何か理由がありそうだ。


###


「さあ、今日はここまで」


たつが不思議そうにこちらを見ている。


「パパー、何でいじめってあるのー?」


「人間は小さいからね。自分の順位を少しでも上げたいって奴もいるし」


「お金取るのも解らないー」


「そうだよね、お金は代価だもんね。
おかしな人たちもいるもんだよ」


「うん」


「じゃあ、今日はもうお休み……」


バタン





          

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