ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十五話 竜司、勉強を教える事になる

「やあ、こんにちは。今日も始めて行こう」


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外に出るとガレアとマッハが話している。


【ね・ねぇ……ガレア、久しぶりだね……】


【ホントだなマクベス。なんでお前こんなところにいるの?】


「なんだお前ら知り合いか?」


カケルが間に入る。


【うん……】


何か覇気がない。そんな竜だったよ。
僕もガレアに聞いてみた。


「ガレア、知ってる竜なの?」


【おうよ! こいつはマクベス・ツノン・ハートウィル。
竜界でよく一緒に遊んでたんだよ】


【そうだね……ハハハ】


このマクベスと呼ばれる竜。ガレアを見る目が少しおかしい。
マクベスにガレアがのしのし近づいていく。
そしてガッと肩を組む。


【なっ! 赤の王にケンカ売りに行ったりとかなっ!?】


【あれはガレアすぐに逃げちゃったじゃないか……】


【あと魔力が詰まったらどこまで弱くなるのかとか】


【それも、僕が先に魔力が詰まっちゃって降参って言ってるのにガレア容赦しないんだもん……】


なるほど。
要するにガレアの無茶をこのマクベスと言う竜が半ば強制的に聞かされていたと。
そう言う事だろうと思った。


「ガレアって結構いじめっ子だったんだね……」


【えっ!? そんな事無いって!? そんな事無いよなぁっ!? マクベス!?】


多分本人はそのつもりはないのだろうけどマクベスからしたら威圧的な目に見えたのだろう。


【ひえっ……ええまあ……】


マクベスがおどおど答える。
巨体の割には気が小さいんだなあ。


「何だよマッハだらしねえなあ。
仮にも“世界最速の男”が使役する竜だぞ!?
もっとシャキッとしろシャキッと」


「世界最速の男?」


「ああ! 今はカートだけど俺は絶対F1に行くんだ!
そんでこの“世界最速の男”って名前を世界に響かせてやるんだ」


駆流かけるの目がキラキラに輝いていたよ。


【お父さんがそう呼ばれてるんだよね駆流かける?】


「親父は関係ねーよっ! 余計な事言うなっマッハ!」


駆流かけるがマッハの肩辺りを殴る。


【イタッ! ごめんよう、殴らないでよう】


【何だぁ? 相変わらずナヨナヨしてんのか? マクベス】


左からガレアがマッハの頭をグリグリする。


「マッハ! 何やってんだっ! やり返せっ」


右からマッハの肩辺りをガスガス殴る駆流かける


見た目完全にいじめっ子二人がいじめっ子を苛めている風にしか見えなかったよ。
何となく見ていられなくなった僕は


「ちょ・ちょっと二人ともやめなよ」


【そうか?】


「しょーがねーな。これぐらいにしといてやらぁ」


ようやく収まったらマッハが目をキラキラさせながら僕を見ている。


【あなたいい人だ】


多分竜界と人間界とずっとこんな感じだったんだなあと思ったよ。
すると向こうから制服を着た女の子が走ってくる。


「もー、駆流かける。やっぱりここにいた」


「うるっせ華穏かのん
何だよこんな所まで」


セーラー服のその子は大きな瞳で髪型は黒髪のショートボブ。
左側の毛が少し長く肩甲骨辺りまで伸びている。


「全くいつもそんな事言ってー。
あ? ハートウィルちゃん、こんにちは」


華穏かのんちゃん、こんにちは】


僕は声をかけてみた。


「言葉が解るの? 君も竜河岸?」


「いえ、私は普通の人間です。
だから唸り声しか聞こえないです。
でも雰囲気と言うか空気で解るんですよね」


確かにマッハは嬉しそうだ。


「全く駆流かける
今日補習じゃなかったの?」


「うっせ! 勉強が何だってんだ。
お前こそなんだよ日曜に制服で」


「あたしは部活の帰りよ。
駆流かけるこそ補習サボって大丈夫?
本当にバカになっちゃうよ?」


「勉強なんかに時間つぶしてたらF1なんか乗れやしねえ」


「そんな事無いわよ。
前におばさんに聞いたもん。
F1レーサーは勉強が出来ないと務まらないって」


「ぐっ……前のテストじゃそこそこ点数取ってたし……」


「ウソ! 赤点ギリギリだったって知ってるもん!」


「ぐっ……」


この子の言い分に言葉も出ない様子だ。


「ねぇ? 駆流かける。勉強頑張ろ?
このままだとおじさんみたいになれないよ?」


この子の優しい言葉に駆流かけるは語気を荒げた。


「親父は関係ねぇ!
別に親父になりたくてカートやってんじゃねぇっ!
それに女に教わるなんてできるかっ!」


そう言って勢いよくその子を突き飛ばした。


「キャアッ!」


その子は尻もちをついた。


「へん! ざまあみろ! 行こうぜマッハ!」


【え……でも……あ、待ってよ駆流かける―】


オロオロしながら駆流かけるとその子を見たマッハは駆流かけるの方に行ってしまった。


「立てる?」


僕はその子に手を差し伸べ、起こしてあげた。


「あ、ありがとうございます……」


駆流かける君……お父さんの事嫌いなの?」


「いえ……おじさんの事は尊敬しているはずです」


「何やってる人なの?」


「知りません?
F1レーサー“中院宗次なかのいんそうじ”って」


僕はこの名前を聞いた瞬間、ふと見たニュースの記憶が引き出された。


「……確か日本人初のモナコGPの優勝者で確か異名が“世界最速の男”……あっ」


駆流かけるの言ってた言葉とリンクした。


「そうです。
だから駆流かけるはおじさんのようになりたいはずなんですけどねえ……」


僕は久しぶりに父さんの事を思い出した。


「何となくわかるな……多分今日失敗しちゃったみたいだし。
そんな時にお父さんの名前を聞いたからイラついちゃったんじゃないかな?」


「全くアイツは子供なんですよ」


「僕も父親が凄い人だから解るけどね。
あ、僕は皇竜司すめらぎりゅうじ。十四歳 竜河岸たつがしだよ」


「初めましてすめらぎさん。
私は花園華穏はなぞのかのん駆流かけるの幼馴染です」


華穏かのんはぺこりと頭を下げる。


駆流かけるくんの成績ってそんなに悪いの?」


「ええ、一学期の期末は何とかギリギリセーフだったみたいだけど中間テストは五教科中四つが赤点だったらしくて……」


「それは酷いね……」


僕は中学に最初から行っていないからよくわからないが
学園物のアニメとかでキャラが赤点で苦しんでいるのは知っていた。


「だから私も何とかしたいんだけど、いつも女にって断られるんです……」


「……良かったら僕が教えようか?」


バッとこっちを見る華穏かのん


「いいいやっ、もちろん良かったらだよ!?
こんな素性の知れない人間に教えてもらうなんてねぇ?」


「お願いできますかっ!?
あの子このままだとだと補習とかでカート所じゃ無くなるだろうし。
同じ竜河岸の方の言う事なら聞くと思いますっ!
どうか宜しくお願いします!」


この子は良い子だなあと純粋に思ったよ。


「ああ、良いよ」


僕は了承した。


とりあえず僕と華穏かのん、ガレアの三人はバスに乗り、白子駅に帰って来た。
白子駅のホームに行くと駆流かけるとマッハが居た。


「あれ? 駆流かける? 電車に乗ったんじゃなかったの?」


駆流かけるは少し項垂れながら顔は華穏かのんの方を向いているが眼だけ逸らしている。
何となく頬も赤い。


【ほら? 駆流かける


「わかってる……」


すると急に頭を下げ


華穏かのん! さっきは突き飛ばして悪かった!」


「え?」


急な謝罪の為戸惑う華穏かのん


「お前は俺の事を考えて言ってくれたんだよな?
でも俺も今日の大会に出てポイントを少しでも多く取りたくてよ……」


「そうだったんだ。
なら学校で言ってくれれば良かったのに」


「そうゆうのを女に相談するのって何か男じゃねえ……
突き飛ばした事も謝る気は無かったんだ。
でもマッハが謝ったらって言うから……」


「そうなんだ。フフッありがとねハートウィルちゃん」


そう言ってマッハの肩辺りを優しく撫でる華穏かのん


「でもな華穏かのん
こいつの名前はマッハだ!
ハートウィルなんてナヨナヨした名前じゃねえぞ!」


「えー、だって前に駆流かけるが言ってたじゃん。
この子の本名マクベなんとかハートウィルって。
名前にハートって可愛いじゃない?
ね? ハートウィルちゃん」


【僕も好きー】


「なっ!?」


「今何て言ったの?」


華穏かのんが笑顔で下から上目遣いで駆流かけるを見る。


「何でもねーよっ!」


おそらく駆流かけるはそういうだろうと思い、助け船を出した。


「今僕も名前が好きって言ったんだよ」


「ほらやっぱり!」


華穏かのんが両手を前でポンと叩き喜ぶ。


「にーちゃん! 余計な事は言わなくていいっ!」


駆流かけるが僕をジロリとにらむ。


「確かにマッハって名前も速そうでカッコいいけどね。
マクベス・ツノン・ハートウィル。
部分の頭文字を取ってマッハだろ?
本来はマツハになるけど、そこはレーサーらしい名前だと思うよ」


僕は一応持ち上げといた。
駆流かけるは人差し指で鼻を擦りながら


「ヘヘッ わかってんじゃん」


とご満悦。


「そういや、にーちゃんの竜は何ていうんだ?」


「こいつはガレア 本名はガ・レルルー・アだよ」


そんなことをしているうちに電車が来た。
電車に乗り込む僕ら五人。
乗り込んだ後もチラチラガレアを気にしているマッハ。


【まさかこっちに来るとはなあ。マクベス】


【ヒエッ……う・うん……】


「ガレア何で?」


僕は聞いてみた。


【こいつはよう“弱虫マクベス”で有名でな、ケンカ売られてもすぐに自分の洞穴に帰って震えてたっけ。
とにかく昔から逃げ足だけは速かったのよ。
てっきりまだ竜界にいるもんだと思ってた】


「ふうん」


何となく判った気がした。


「マッハ何でこっちに来たの?」


【花です……】


「花?」


【そうです……竜界の映像で一面のひまわり畑を見た時感動して。
それで人間界への斡旋に志願したんです。
それで宗次さんの所に行くことになって……】


「ガレア、竜界に花ってないの?」


【ねーよ。
草と木ならあるけどな】


「何が花だっ! ナヨナヨしやがってよ!」


駆流かけるが息巻いている。


「あら? それはうちにケンカ売ってるの?」


ガレアじゃないけど僕はキョトンとしてしまった。
それに気づいた華穏かのん


「ああ、ウチ花屋なんですよ。
ハートウィルちゃんにも時々手伝ってもらっちゃってね」


「全くこいつの花好きは異常だぜっ!
学校の花壇にも水やりしてたりするんだぜ?」


駆流かける
それ以上言ったら学校の全園芸委員が黙っちゃいないわよ」


「わかったよ。
そういやにーちゃん三重の人間じゃないだろ?
こんな所で何してんだ?」


「ああ、僕はちょっとした事情で横浜まで旅をしているんだ。
それで三重に立ち寄ったってわけ」


「へーっ。
なあなあにーちゃん、ほかの所ってどんな感じだ?」


駆流かけるが興味津々で聞いてくる。


「ああ、それはね……」


(近鉄四日市―近鉄四日市―)


「あ、着いちまった。にーちゃん今日は三重に泊まるんだろ? 話聞かせてくれよっ」


「ああ、いいよ」


僕ら六人は駅に降りた。


###


「さあ、今日はこれでおしまい」


「パパー? 駆流かけるってどうなるのー?」


「ああ、駆流かけるは今F1レーサーとして大成したよ」


「パパ、凄い人と知り合いなんだね」


たつでも凄さが解るらしい。
僕は誇らしくなった。


「ああ、今日はもうお休み……」


バタン

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