ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第四十六話 竜司、勉強を教え始める。

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうかな」


「パパー? 学校行ってなかったのに勉強なんて教えれるの?」


たつの言う事ももっともだ。


「僕は学校こそ行ってなかったけど自分で勉強してたんだよ」


「ふうん」


###


僕達五人は駅から降りた。
駅前は割と開けている方でバスのロータリー等もあった。
そこそこ高いビルもあるが、大阪に比べると空が広い印象だ。


「こちらですすめらぎさん」


華穏かのんに連れられて進むと左手に商店街が見えた。


四日市一番商店街


【なあなあ竜司! 前のゲーセンの時もそうだけど何でここって上に屋根がついてんの?】


「ああ、ここは商店街って言う店がたくさん並んでいる所で上の屋根は雨用だよ」


【人間って雨にぬれると嫌なの?】


「嫌だよ。風邪もひくしね」


【風邪?】


「そうだよ病気にかかるんだ。
ガレアは病気にかかった事無いの?」


【無いよ。
てか竜自体病気にかからないよ。
水に濡れても鱗はすぐに乾くしな】


「やっぱり竜って便利だね」


【人間が不完全なんだよ】


「そうか」


僕らは一軒の花屋の前に着いた。


花の花園


「じゃあ私はこれで……お母さんただいま」


華穏かのんが店先で花の手入れをする中年女性に声をかける。


「ああ、華穏かのん、おかえり。
部活は午前中だけだったんだろ?
遅かったね」


「うん、鈴鹿サーキットに行って来たから」


「また駆流かけるちゃんの所かい?」


「そうよ」


その中年女性は華穏かのんを方を見ずに作業を続けている。
作業がひと段落したのかようやくこちらを見た。


「何だ今日は大所帯だね。
そちらの方は?」


中年女性は僕に目線を向ける。


「鈴鹿サーキットで知り合ったの」


皇竜司すめらぎりゅうじです。
こちらの竜はガレアと言います」


僕は会釈をした。


「よろしくね」


「おばさん、ちわっす」


駆流かけるはぺこっと頭を下げる。


駆流かける
何よその挨拶。
“こんにちは”でしょ!?」


「うっせ! いいだろ別に!」


「挨拶はちゃんとしないと駄目じゃない!」


「フフフ、相変わらずねえ」


華穏の母親は笑っている。


「もーお母さんもういいから。
駆流かける
ちゃんと竜司さん達を案内するのよ。
後で私も行くから。
すめらぎさん説明よろしくお願いします」


「別におめーは来なくていいよ。
それに何だ説明って」


駆流かけるじゃなくておばさんに用があるの。
それじゃあ後でね」


華穏かのんはそそくさと上へ消えていった。


「じゃあにーちゃん行くか?」


マッハは花を見ていて、ガレアは看板の赤色灯を無言で見つめている。


「ガレア、行くよ」


「マッハ、行くぞ! 花なんて見てんじゃねェッ!」


【はあい】


駆流かける―、待ってよー】


僕ら四人は商店街を抜けて住宅街に入った。
歩いて程なくしたら大きい一軒家に着いた。
表札に目をやる。


中院


ここが駆流かけるの家か。
やはりというか当然というかかなり大きい。
門をくぐり中に入る。
大きな庭を進み、玄関のドアを開ける。


「ただいまー」


駆流かけるがぶっきらぼうに答える。


「あら? 駆流かけるちゃんおかえりなさい」


「シバタさん、俺の部屋までお茶持ってきてくれよ。客だ」


「わかりました」


最初母親かと思ったけど違うようだ。


駆流かける、この人は?」


「ん? ああヘルパーのシバタさんだよ。
ウチ広いから母さんだけじゃ家事が回らねえんだよ」


「そうか」


二階に上がり一つの部屋の前に来た。


「さあ、入ってくれよ」


中は十二畳ぐらいの部屋だった。
壁にはF1のポスターやレーサーのポスターがたくさん貼られていた。


「F1好きなんだな」


「そうだ!
このレーサーは全員凄い人たちなんだぜ。
アイルタン・セニ、ミカエル・シューベルト、オレ・ライコンタル、フェルナンデス・アレンジ……」


駆流かけるが嬉しそうに名を連ねる。
僕はガレアにアイルタン・セニが音速の貴公子だって説明しようとしたが止めた。
音速の貴公子の名をダサいと言ってたからだ。


「にーちゃん、まあ座ってくれよ」


テーブルにもフェラーリマークが大きく入っている。
本当にF1が好きなんだなあ。


「で、にーちゃん。華穏かのんに何吹き込まれたんだよ」


「ああ、華穏かのんちゃんに勉強を見てくれって頼まれたんだよ」


「ゲッ! いいよいいよ別に」


「僕はF1の事は詳しくない。
でも勉強が出来なくてもいいとは思わない。
例えば英語。
F1って大体は海外だろ?
するとスタッフとかもおのずと外国人が入るだろ?
もちろん通訳を連れて行くという方法もあるけど、F1って金かかるんだろ。
余計な費用が発生するならそれをメカニックとかにかけた方がよくない?」


「それは……確かに」


「他に数学や理科だってそうだ。
数学は風圧やグリップ力とかエンジン効率とかも理解するのに数学は必要だ。
まだ中学じゃ物理はやってないけど
物理を学ぶ基礎的な部分として必要だと思うよ」


僕は漫画やアニメで得た知識をフル動員して説得を試みた。


駆流かけるは黙って俯いている。
すると何か決心したように顔を上げた。


「わかったよ……わかった! 俺は勉強をやる。頭良くなって絶対F1に行く」


何とか説得に成功したようだ。


「じゃあ何からしたらいい?」


「じゃあ、英語、数学、理科、社会、国語とあるだろ? その中で一番苦手なのは何?」


駆流かけるは少し考える。


「やっぱり数学だな。
数字が並ぶと頭痛がする」


「そうか数学か……こう言うのは解る所からやるのが定石だ」


駆流かけるは教科書を持ってきた。


「はい、これ教科書」


駆流かけるは教科書を置く
僕はパラパラ教科書をめくってみる。


「中学入学したての頃はどうだったの? その頃から数字は苦手だった?」


「そうだな。もう数字見たら吐き気がしてたからな」


どうも駆流かけるはフェイントに弱いみたいだった。
間違いを正し、もう一度やると時間は少しかかるが正解できた。
ただ簡単な問題を二、三問挟むとまた出来なくなる。
どうしようか考えていた所


トントン


ノックが聞こえた。
入って来たのはさっきのシバタさんとは違う女性だった。


「フフフ、お邪魔します」


お盆に紅茶二つとケーキ三つを載せてテーブルの前に置く。


駆流かける、何やってるの?」


「勉強だよ。見てわかるだろ」


「ようやく貴方も解ってくれた様で母さん嬉しいわ。
あ、御挨拶が遅れました。
駆流かけるの母、中院麗子なかのいんれいこと申します」


正座し三つ指ついて深々とお辞儀をされた。
僕は恐縮してしまい


「ごごごご丁寧にっ!
皇竜司すめらぎりゅうじ 十四歳 竜河岸たつがしです」


深い茶色のロングヘア―。
毛先をくるんとカールさせている。
何より特徴的なのはその大きな瞳だ。
引き込まれそうな雰囲気がある。
こうゆうのを目力というのだろうか。


「もういいから下降りててくれよ母さん。
にーちゃんと勉強するんだから」


駆流かける麗子れいこさんを強制的に立たせ、腰を押して外に追い出す。
顔が赤面しているのが気になる。


「あらあら、わかったわよ。
それじゃあ竜司さん、息子をよろしくお願いします」


「はいわかりました」


バタン


「ふう……」


駆流かけるが一息つく。


ふと目を横にやるとゲーム機がある。


プレイターミナル4


そしてF12017というゲームが見える。


「ちょっと息抜きにゲームやらない?」


「え? 勉強するって言ってんのに何言ってんだにーちゃん」


確かにやる気が削がれるかもって懸念はあった。
しかし麗子れいこさんの登場で空気が変化した事もありリセットする意味合いもあった。


「これにもちゃんと勉強に通ずる意味があるんだよ」


「ふうん。じゃあF1で対戦しようぜ」


「いいよ」


F12017、対戦するにはどうしたら。
僕が途方に暮れていると


「にーちゃん何やってんだ?
にーちゃんはこっち。もう一台プレイターミナル4出してくるわ」


駆流かけるがもう一台のモニターを指差し、クローゼットに消えていった。
家でモニター二台の対戦なんて初めてだ。


「にーちゃん、セット手伝ってくれよ」


「ああ……にしても凄い設備だね」


「これか? 友達も来るから父さんに言って買ってもらったんだよ」


このゲームは全四戦から六戦まで選ぶ事が出来る。
それぞれ予選決勝を繰り返し、得た総合ポイントで優劣を競うゲームらしい。
レースゲーム自体はそんなにやった事無かったけどとりあえずやってみる事に。


第一戦 予選


あっけなく駆流かけるに負ける。
僕が五位。
駆流かけるは一位。


秒数は


駆流かける 五十九秒 十五P


僕 一分十秒 三P


駆流かける
次のレースで僕が駆流かけるを逆転するにはどうゆう展開になればいい?」


「にーちゃんが一位とって、俺が六位以下だな。ありえねーけどへっへっへ」


ん? 偉く計算が早いな。


###


「さあ、今日はここまで」


「パパー、僕んちもプレイターミナル二台欲しい」


「考えておくよ。じゃあ、おやすみ……」


バタン

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