ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第三十五話 思わぬ所でアステバン

「やあ、こんばんは。今日も始めて行こうかな」


何やらたつの様子がおかしい。


「パパ~? 今のお話し退屈だよ~。 もっと戦いとか無いの?」


「奈良でも戦いはあったよ。
もうちょっと先だから聞いてくれないかな?」


「わかったー」


たつには宗教の話は難しかったらしい。


###


僕とガレア、氷織ひおりは外に出た。
広い境内を進んでいるとすれ違いに男性が本堂に走っていった。
何やらすごい剣幕だ。


その男は境内に顔を出していた天涯に喰ってかかった。


「この詐欺師野郎! 金を返しやがれ!」


飛びかかろうとしたその男は数人のスーツの男に取り押さえられた。


「くそっ……くそっ……」


這いつくばった男は悔しそうだ。


「全く何なんですか? 貴方は」


「お前のせいで俺の家族は……ちくしょう……ちくしょう!」


「貴方は徳が足らない様子。
天竜の洗礼を受けていきますかな? おい!」


取り押さえていたスーツの男等に連行されそうになった。


「ちょちょ、ちょっと待って下さい」


「おや、何ですかな? 竜司さん」


ヤバ気な空気だったので思わず呼び止めたがその先を考えていなかった。
もう思いつかなかったので咄嗟に出た言葉がこれだった。


「……その人は僕の知り合いで……この後落ち合う予定だったんです……」


「ほう? 旅をしていると言っていた竜司さんの知り合いねえ……」


そらそう来るだろうと思ったよ。


「まあ、いいでしょう。
私も慈悲深いので本日は良しとしましょう。オイ!」


男は解放された。


「貴方も徳を積むよう勤しみなさい。
ハァッハァッハァッ!」


天涯は高笑いして去っていった。
僕は両膝をつくその男の側へ駆け寄った


「ああ……助けてもらったね。ありがとう」


僕とガレア、氷織ひおり、そしてその男はとりあえず総本部の敷地外に出た。


「大丈夫ですか?」


僕は自販機で買ってきた飲物をベンチで座る男性に差し出した。


「あぁ、ありがとう……ふーっ」


男は飲み物を飲んで一息入れた。


「俺は並河健なみかわけん、改めてお礼をさせてくれ。ありがとう」


「いえっ僕もあの宗教に思う所がありますし……」


「あのまま連れていかれたら洗脳させられていたよ……」


やはりそうだ。
またあの竜が来て、あの光で催眠状態にするつもりだったんだ。


「あの……あなたは竜河岸たつがしですか?」


「いや、俺は普通の人間だよ。
でも本当に竜っているんだな。
初めて見たよ」


ガレアを見上げてけんはそう言う。


「何故普通の人が洗脳されるって分かったんですか?」


けんは複雑そうな顔を見せる。


「それを話すには俺と天涯教の関わりを話さないとな……俺の場合は母親だよ。
母親が友人の勧めで天涯教の催しに顔を出してしまったんだよ」


「それで……」


けんは首を縦に振った。


「ああ、帰って来た時にはもう様子がおかしかったよ。
それからは酷かったよ。
定期預金を解約。家や土地も売り払い。
見る見るうちに俺たち家族は無一文になった。
親父とも毎日喧嘩して最後は離婚」


「お、お母さんは今どうされているんですか?」


「ようやく預かってくれる施設が見つかって今は長野だよ」


「良かったですね」


「あれが!?
完全に隔離されて外界の情報は入らない。
面会も制限がかかっているあれが!?」


けんが声を荒げた。


「す、すいません……」


けんが我に返る。


「あ、スマン! 君に言ってもしょうがないよな!
それで俺は情報を集めたよ。
俺達みたいな家庭はほかに居るって。
そしたらいるわいるわ県内県外まで山程いたよ。
その中に脱洗脳に成功した人が居たんだよ」


「その人から聞いたんですね」


けんは首を縦に振った。


「そう、そして今は「天涯教被害者の会」を作って活動してるのさ」


(大天神様、こんにちは)


通行人が氷織ひおりに手を振る。


「彼女は?」


嘉島氷織かしまひおりちゃん……その……天涯教の大天神です……」


「あんな少女がか!?」


けんの顔が変わった。


「いやっ!
それには事情があるんですっ!
僕はあの宗教から脱却させたいと思っているんですっ!」


「そうか……その事情って聞いてもいいかい?」


「聞いてみます。
氷織ひおりちゃーん!」


「何ですか?」


「あの……ね?
嫌がらないで聞いて欲しいんだけど……
この人に何で大天神なんてやってるのか説明してほしいんだ」


「……いいですけど……私は家計の為に大天神をしています」


けんが間髪入れず質問する。


「それが人の迷惑になっているとしてもかい?
両親は何て言ってるんだい?」


「私に両親はいません。
あなたは私に飢え死にしろっていうんですか?」


「じゃあ、どうやって生活しているんだ?」


僕はこれはラチがあかないと思って助け舟を出す。


「すいませんっ並河なみかわさんっ!
後は僕が説明します……実は……」


僕はヒビキに聞いた事を説明した。
氷織ひおり竜河岸たつがしと言う事。
使役している竜に育てられている事。
日本語が話せないため仕事が限られ収入が足りない事。


「そうか……竜ってのは一般人と話すとどんな感じで聞こえるんだ?」


「唸り声です」


「唸り声?」


「やってみましょうか?
ガレア?」


【何だ? 竜司】


「この人に何でもいいから話してみて」


【お前アステバン知ってる?】


ガレアが話す。
けんが絶句している。


「確かに……唸り声にしか聞こえない……」


「ちなみに今はアステバンを知ってるか? と聞きました」


内容を言うのは恥ずかしかったよ。
でも反応は意外だったよ。


「アステバンってあの「宇宙警察アステバン」かい?
懐かしいなあ! 昔よく見ていたよ。
アステクラッシュとかよく真似してたなあ」


一般人でアステバンを知ってる人は初めてだ。
僕も少しテンションが上がってしまった。
ガレアも同様だ。


並河なみかわさんもですか!?
僕もあの頑固な特効のこだわりが好きなんですよ!」


【お前も知ってるのか! アステバン! わかってるじゃん!】


「えー今アステバンを知ってて嬉しいと申しています」


「アハハ……そうかい?」


【アステーークラーーッシュ!】


テンション上がったガレアが必殺技のポーズをする。


「おっ声は唸り声だけどポーズでわかったよ。
アステクラッシュだね」


僕達三人が盛り上がっていると氷織ひおり


「……男性っていつまでも子供なんですね……」


「しょうがないよ。だって面白いんだから」


「私にはわかりません……」


「あ、ちなみにカンナちゃんも好きだよ」


これを言ったら氷織ひおりの顔が変わった。
焦っている様子だ。


「…………見ます!! どうやったら見れますか!?」


「フフッ。今DVD持ってるよ」


「見せて下さい!
全部で何話あるんですか!?」


「ええと、TV版は全部で五十話だね」


ガーン


またこんな音が聞こえてきそうな表情を見せる氷織ひおり


「ご・五十話もあるんですか……」


「でも、TV版だけでも全部見たらカンナちゃんとは話し合うよ」


僕もアステバン信者を増やしたくてね。


「じゃあ、早く帰りましょう! 一刻も早く!」


五十話見てやるんだと鼻息荒く僕の手を引っ張る氷織ひおり


「ちょ・ちょっと待って!
並河なみかわさん、また会えますか?
僕もあの新興宗教は野放しにはできないので」


「わかった。じゃあ、明日の十八時天涯駅で会おう」


「わかりました十八時ですね」


僕は並河なみかわさんと約束をして別れた。
僕らは氷織ひおりの家に帰って来た。
帰るなりすぐにTVの前に座する氷織ひおり


「ガレア、アステバンのDVD出して」


【おっ、今から見るんだな。はいよ】


ガレアが亜空間からゴソッとDVDを出した。
その量を見て若干ひく氷織ひおり


「こ……こんなにあるんですか?」


「これ高画質で保存してるから一枚に二話しか入らないんだ」


アステバン上映開始。


(西暦二千三百年……宇宙から地球を狙う悪の組織「ボーマ」からの総攻撃……)


正直ね。
全く予備知識の無い賢い子にアステバンを見せるのは止めようと思ったよ。
とにかく質問が多かった。
しかも身も蓋もないものが。


「何で変身するまで敵は待ってるんですか?」


「そうしないと番組が成立しないからね」


「何で地球を征服する組織が幼稚園のバスを襲うんですか?」


「この番組対象年齢が低いからね」


全体的にこんな感じだったなあ。
でもね、劇中で出てくるサイボーグハンターには何か共感を覚えたのかお気に入りになってたなあ


(サイボーグは全て俺が滅殺するっ!)


「おお……」


このサイボーグハンターキメ台詞の時の氷織ひおりの顔が印象的だったなあ。


そしたらガレアがまた前の話を蒸し返したんだ。


劇中。
サイボーグハンターが自身のメンテナンスをするシーン。


【だからサイボーグを狩る奴が何で自分もサイボーグなんだっちゅーの】


「ガレア、前も言ったけど親の仇だからね。
だからこそ自分もサイボーグになるという悲しさが解らないかなあ」


「そうですよ、私の両親の仇がいるのなら、サイボーグになってでも殺します……」


今回は氷織ひおりという味方がいる。
若干語尾の「殺します」が気になったが。
でも二対一でもガレアは怯まない。


【親の仇に自分もなってどーすんだっちゅーの】


「やっぱりそこはガレアにはわかんないかぁ」


「ジャニスを馬鹿にするやつは許さない……」


ジャニスというのはサイボーグハンターの名前だね。
そんなこんなで十五話まで見終わった段階でヒビキが帰って来た。


「ただいまー」


###


「今日はここまで」


「パパー、アステバンってそんなに人気だったの?」


「そうだね、僕はリアルタイムでは見てないけど幼稚園児はほとんど見てたそうだよ」


「へー凄いね」


じゃあ、早く寝なさい……おやすみ……


バタン



          

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