ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第八話 萌えたガレア球場入り

「やあ、こんばんは。昨日の話は覚えているよ。
ガレアが萌えた話からだったね」


「パパ、ガレア可愛いね」


「そうだね、ガレアはずっと萌えている事を認めなかったからね。
そこがガレアの可愛い所でもあるんだけど」


じゃあ、今日も始めて行こう。


###


まずカンナがガレアに話しかけたんだ。


「ねーねー、あなたお名前は?」


【ガ・レルルー・ア……】


そっぽ向いているガレア。
全然いつもの感じじゃ無い所がまた。


「なんか呼びにくい」


【だからガレアって呼ばれているよ……】


「そっかー、ガレアちゃんね、よろしくーあたしカンナ!」


見上げて白い歯を出して満面の笑顔のカンナ。
更にガレアの頬が赤くなった。


「ねえ、竜司君。
ガレア、どうしたの?
うちの娘が何かしたかしら?」


凛子さんが心配そうに僕に話しかけた。


「いえ、あれはいわゆる”萌えている”という奴です」


僕の返答に凛子さんがはにかみながら


「わかるわー、ウチの診療所でもあの娘人気だもの。
お婆ちゃんやお爺ちゃんにね。
診療所のアイドルよあの娘」


僕が凛子さんと話している間、ガレアはカンナの質問攻めにあっていた。


「ねーねー、ガレアちゃんって何で体の色緑色なの?」


【知らねえよ、生れつきだ】


「ママの竜は真っ白で綺麗だよー、おけけもねーふわっふわなんだから」


カンナが誇らしげにそう語る。


雰囲気が無くて気がつかなかったけど、凛子さんも竜河岸たつがしなんだ。
竜が傍らに居るはずだ。
察したのか、凛子さんが口を開いた。


「私の竜はね聖竜なの。
今は診療所でお留守番兼診察をしてもらっているわ」


「診察!? 竜がですか!?」


「癒しの力が凄くて、私の診療所を手伝ってもらっているわ。
無くてははならない存在よ」


僕は世界の広さっていうのかな?
当然と言えば当然なんだけど、世の中には色々な竜と竜河岸がいるんだなと改めて認識したよ。


カンナとガレアも少し変化があった。
慣れたのかガレアがカンナの方を向いて話していた。


「ねーねー知ってる? 竜はねーにんげんかいに好きなものが一個あるんだよー。
ガレアちゃんは何が好きで来たのー?」


【俺はアステバンだな?
知ってるかカンナ。宇宙警察アステバン】


「知ってるー!」


カンナは大きい目を更に見開いて答えた。


「あれでしょー? アステー! クラーーッシュ!」


ポーズをとるカンナ。


【ちげぇよ! こうだ! アステー! クラーッシュ!】


ポーズをとるガレア。
僕には違いが解らない。


【そう! そこで! 一気に手を振り下ろす!】


何か緑色の竜と幼女の妙な稽古場みたいになったんだ。
それを見てた凛子さんは笑っていた。


「ホントガレアは面白い竜ねえクスクス」



「ちょっと待て! 反則やろ! それは!」


そんな暖かい輪を破るように声が聞こえてきた。
僕らが球場内を見ると一人の竜と中年の男がマウンドに立っていた。


ピッチリ七三でメガネは紫。
趣味が悪いって思ったね。


それを指差して怒鳴り声を上げる向かいの中年。
多分相手チームなのだろう。
髭面で野球出来るのかってくらい腹が出ていた。
何やら揉めているようだが、その様子から原因は大体察した。


「おや、何ですかな? 八百屋のワタナーベさん」


「試合に竜を持ち出すのは反則やって言ってるんやろ!」


「おやァ、これはおかしな事を……
ハイ! 鳴尾町草野球規定!
スケーットは三人までとあーりますよ?」


「そりゃ“人”とちゃうわ! “匹”やろ!」


「おんやーあ?
ワタナーベさんはこれだけ竜が認知されている世界で種差別をするのでーすか?」


確かに今の世の中は何かと竜には甘い。
学校の授業でも(竜とは仲良くせよ)(竜を怒らせるな)とすっぱく教わって来た。
納得していない人が多いのも事実でまだ排斥運動する運動家もいるらしい。
でも、凛子さんの竜みたいに人助けをする竜もいるし、犯罪を犯す人間もいる。
竜それぞれ、人それぞれだと僕は思う。


「ぐっ……」


街ごとに差別側が強い所と弱い所があるってネットで見たよ。
多分この町は差別側が弱かったんだろうね。


ワタナベさんはすごすご自軍ベンチに引っ込んでいった。
そんなこんなで試合スタート。
向こうのピッチャーはもちろん向こうの竜だ。


話を聞いていて注意して見てなかったが、まさに真っ黄色の竜だったよ。
カラシ色っていうのかな?
翼は無いから多分陸竜だろう。
背丈はガレアと同じぐらい。
竜の中で流行っているサイズなのかな?


そんな事を考えている内にすぐチェンジで三者凡退だ。


七三側の攻撃。


一番がシングルヒット。
二番がバントでセーフ。
三番三振。


そこでさっきの黄色い竜が出てきた。


ガン!


カキンと音がしないのが竜のパワーと言った所か。
簡単に場外まで球は消えていった。


三対0


ビックリするぐらいゲームはスムーズに進んで六回表。
打者一巡し、相手の竜がソロホームランを打った。


四対0


「タ、タイム!」


ワタナベさんがたまらずタイムを入れた。
ベンチで作戦会議を始めている様子だ。
僕は傍まで行って声を聞いてみた。


「……ナベさん、どうします? このままじゃ負けてしまいますよ」


「うっさい! わかっとるわ!
くそっ町長が竜河岸たつがしなんて聞いてないわ」


「うちのチームの竜河岸たつがしは凛子さんの所だけですしね……」


竜河岸たつがしなんか頼らずとも勝ってやるわ!」


ワタナベさんは竜が嫌いだったんだよ。


「でも困ったなあ……
立ち退きって言われても新しい物件探さないといけないし……」


「負ける前提で話すんなや!」


何やら雲行きが怪しかったよ。
僕は中に入って声をかけた。


「あのー……」


「あぁ!?」


近くで見るとワタナベさんはえらい強面で怖かったよ。


「ちょっとワタナベさん。少年が怖がってますよ」


センター分けで長身のスレンダーなお兄さんが助けてくれたんだ。
見た感じ副監督っぽい。


「ごめんね君、どうしたんだい?」


「竜が必要なら一人居ますけどどうかなって」


「君、竜河岸たつがしか!? 是非お願いしたい!」


「おい! おりゃあ嫌やぞ!」


「ワタナベさん!」


そのお兄さんの目が鋭くなった。


「もし負けて立ち退きってなったら行き場所ありますか?
あったとしても明日から新天地ですぐに働けると思ってるんですか?」


「ぐっ……でもそんなよそ者に……」


「この際四の五の言ってられないでしょう」


ずっと気になっていた部分を僕は聞いてみた。


「何か事情がおありですか?」


「向こうのチームに居るだろ?
黄色の竜を連れた」


「七三の人ですね」


「そう、あの人は東雲しののめさんっていって鳴尾町長なんだよ。
あの人が超巨大なショッピングモールを作るって話を持ってきて、建設区画にウチの商店街を入れたって言うんだよ」


僕は大体察しがついた。


「もちろん僕らはそんな話は聞いていないし、立ち退き料も雀の涙しかもらえない」


「でしょうね」


「僕らは反対したよ。
ビラや署名なども集めた。そしたら東雲さんから提案が来たんだ」


「野球で決めようじゃないか……って事ですね」


「馬鹿げた話だと思うけど、ウチの代表はワタナベさんだからね野球好きの。
OK出してしまったんだよ」


僕も大人のやる事じゃない、馬鹿げた話だと思ったよ。
でもチャンスだとも思った。
これで僕の目的は達せられる。


「こちらとしても好都合です。
ウチの竜が野球をやりたいって言ってどうしようか悩んでいたんですよ」


「そうか! お願いできるかな?
あ、僕の名前は瀬戸賢治せとけんじ
よろしく」


すめらぎ竜司りゅうじです。
よろしく。
じゃあ呼んできます」


僕は凛子さんとガレアの元に帰って来た。


「事情を聴いたのかしら?」


「はい概要は。
おーい! ガレアー!」


僕はガレアを手招きした。


「ガレア喜べ。野球が出来るぞ」


【キャッホー! さすが竜司君】


カンナも凛子さんの元に戻って来た。


「ガレアちゃん、やきゅーすんのー?」


【ああ、見てろよ。カンナ大活躍してやるからな!】


「うん! いってらっしゃーーい!」


「無理はしないでいいからね」


満面の笑みで赤い髪を揺らしながら手を振るカンナと優しい微笑の凛子さんに見送られて僕らは球場に入った。


###


「さあ、今日はここまで」


「ガレア活躍する?」


たつは本当に野球が好きだなあ


「そうだね、もうガレア大活躍だよ」


さあおやすみ……また明日


バタン

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