ドラゴンフライ

ノベルバユーザー299213

第六話 ガレア野球を面白がる

「やあこんばんは、この前は甲子園で降りた所までだったね」


「うん! 僕まだ甲子園球場行った事無いんだよねーパパ、連れてってよ」


「そのうちね、じゃあ、話していこうか」


###


僕も甲子園球場は来た事なかったからね。
思ったよりも大きくてビックリしたよ。


【おい見ろよ竜司。人が全員あそこに入って行くぞ】


「今は……高校野球か……」


ちょうどその頃、第九十九回全国高校野球が開催されていたんだ。


でも興味のあまり無い僕からしたらふうんって感じだったよ。
野球のルールは小学校低学年で何度かやった事あるし、ゲームもした事あるから一通り知っていたんだ。


後、高校野球は外野がタダって事も知っていた。
僕とガレアは外野のゲートに向かった。


中に入るにつれて大きくなる歓声。
まさに大地にヒビが入るかと思うほどの歓声だった。
ガレアを連れて階段を上がり座席に座った僕とガレア。


【なあ竜司。これ何だ? 何でアイツグルッと回ってるんだ?】


脇から聞こえるラジオからアナウンサーの声が聞こえた。


(四番岡本君 待望の勝ち越し点……)


「ガレア、あれはホームランと言って打ってこの辺りまで届いたらチームに点数が入るんだ」


【打つって何を?】


ガレアはイマイチ把握していないらしくキョトンとしている。


「ホラ見てみなよ。真ん中の人が投げるボールを向かいの人がバットで当てるんだ」


【それで?】


「さっきはその当てたボールがここまで届いたんだ」


まだキョトンが収まらないガレア。


【ここまで届いたらどうなるの?】


この純粋に疑問をぶつけてくる時のガレアはちょっと可愛いんだよ。


「すると一点入ってその点数が多い方が勝ちなんだよガレア」


【勝ったらどうなるの?】


「次に進む事が出来る。
最後は優勝を目指してるんだよ」


それを言い終わるぐらいにまた場内が沸き立った。


【ど、どうしたんだ!?】


球場を見ると一塁に走っていく球児が見えた。


「ああ、ヒットを打ったんだね」


【ヒット?】


ガレアキョトン。


「点数が入るのはホームランだけじゃ無いんだ。
ホラ見てごらん。
菱型に白線が引いてあってそれぞれの角に人が立ってるだろ?」


ガレアは一生懸命に聞いている。


「野球で点数が入るのはこの菱型をどう回るかなんだ」


【え? じゃあ、アイツ何で右側で止まってるんだ。
回ればいいじゃん】


「相手チームもそれを邪魔するんだよ。
さっき打ったボール、それを手で持って触れられたら戻らないといけないんだよ」


とまあ、こんな感じで僕は知ってる知識をほとんど話した。
次第にドヤ顔になるガレアが印象的だったなあ。
ルールを理解したガレアは凄くテンションが高かったよ。


【打てー!】


とか


【何やってんだ馬鹿野郎!】


とか、まるで地元の阪神ライオンズのファンを見てるようだった。


説明も終わり落ち着いて見回してみるとちらほら竜河岸たつがしと竜も見かけた。
周りには運良くってのか竜河岸たつがしは僕らだけだった。


すると、ガレアが気に入った岡本君がツーベースぐらいのヒットを打った時だ。
相手チームのセカンドと接触したんだ。


【あーー!】


隣でガレアが震えているのを感じた。
怒っているのだとすぐに解ったよ。
僕とケンカする時とは違う、空気が震える程だった。


「ガ、ガレア……?」


僕が声をかけた瞬間、ガレアの口からまばゆい閃光が空に放たれた。
その閃光はバックネット上の屋根を掠めて空に消えた。


ホントに一瞬だったよ。
それだけでガレアの怒りは収まらないらしく、何発も閃光を空に放った。


【何してくれとんのじゃあ!!】


最初の閃光の時は周りは何が起こったか理解できていない様子でラジオも含めてしんと静まり返っていたよ。
でも二発三発と打ち出された瞬間周りはパニックになった。


あたりが騒然とする中、二人の翼竜がガレアを取り押さえた。


【ちょっと……お前落ち着けって!】


【あんなのは野球じゃ付き物だから!】


同族を見て落ち着いたのかガレアは静まり、観客もちらほら戻って来た。


ウグイス嬢が


(竜の皆様、球場で魔力を放出するのはご遠慮ください)


「ガ・ガレア……? 大丈夫?」


【竜司……すまねえ……ついカッとなって】


この時ガレアが謝る事が出来る奴だって事を初めて知ったんだ。


【おいお前、竜河岸たつがしか?】


取り押さえた竜が話しかけてきた。


「そうだけど……」


【こいつと竜儀の式はしていないのか?】


「……まだ……」


【何? じゃあ何でこいつと一種に居るんだ?】


「……友達だから……」


【ふんまあ良い。


早く竜儀の式を済ませる事だな。


竜儀の式を済ませた竜河岸たつがしは竜の魔力制御が出来るようになるからな】


「そうなの?」


僕は竜儀の式は形式上のものと思い込んでいたんだ。
あの事件の後その言葉を聞くのも嫌だったしね。


【あと……コイツ……まあそれは良いか……早くしとけよ……全く準決勝だってのに……】


翼をはためかせて自分の竜河岸の処に戻っていった。
言いかけた部分が少し気になったけど。


試合は無事再開終了したよ。
僕とガレアの周りは誰も寄り付かなくてすっかり危険人物扱いだったよ。
球場を出たガレアはケロッとしていて、野球が面白いものだと認識したらしい。


【面白かったなあ竜司!
岡本君すげぇなあ。
非力な人間なのにあんな所まで球を飛ばすんだからな!】


興奮冷めやらぬガレアに僕は少し嫌な予感がしたんだ。


「そうだね」


と僕が返答しガレアの顔を見上げた。
案の定あのいつものキラキラ目をしていた。
ああ多分これはと思ったね。


【なあ! 竜司! 俺も野球がしたい!】


やっぱりなと僕が感じたその時の時刻は昼の二時だったなあ。


###


「さあ、今日の話はこれでおしまい」


「僕もガレアと野球したい!」


たつは自分の願いをストレートにぶつけてくる。


「そのうち出来るかもしれないよ」


僕は気休めを言った。
気休めなのはその願いはもう二度とかなわないから。


それじゃあおやすみ……また明日……


バタン

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