ミコト様の眷属

二郎マコト

始まった非日常、続く日常

  神拳、 天砕あまくだき
  それは、身につければ、一振りで天をも砕く拳を手に入れられるとされる、幻の武器。
  しかしその強大すぎる力故に、誰一人として、使いこなせたものはいなかった。
  ただ一人、尊ノ神を除いては––––


  光が、徐々にミコト様の手へと収束していく。
  それまで光に包まれて見えなかった、ミコト様の手が見えるようになってきた。
  –––手に何かをつけている。
  俺は目を凝らして、その詳細を把握しようと試みた。
  ミコト様がつけているのは、グローブのようなものだ。しかし、当然だが、ただのグローブではない。
  
 金色に輝く、鋼のグローブ。

 心なしかミコト様も、光り輝いて見える。
  思わず、見とれてしまうほど、美しく、光り輝いていた。
  ミコト様はすっと、鬼火を見据える。
  鬼火は、動かない。
  恐怖から動けないのか、意地でも引かないと考えているのか、どちらかはわからないが。
  まぁ、多分前者の方だ。表情がこわばってるから。
  ミコト様は自身の両手の拳をごつんとぶつけ合わせ、鬼火にじり、と一歩近づき、
「さぁて、覚悟はいいか?ま、安心しろよ。時間をかけるつもりはねぇ。」
  ぐっと、拳を振りかぶり、叫んだ。
「一瞬で終わらしてやるよ!!」
  鬼火のどでっぱらに強烈なアッパーを叩き込んだ。
  いや、強烈、なんてものじゃない。
  普通の人が食らったら、即死クラスレベルの威力だ。
  叩き込んだ瞬間、爆音が轟き、ミコト様が今日吹き荒らした中でも、一番の暴風が巻き起こった。
 「グギャオゴォォォォオーーー!」
  鬼火は、顔をひしゃげて、悲鳴をあげる。
  鋼の拳が一瞬、光り輝いて、鬼火を飲み込む。
  光が消えた先には、鬼火の姿は跡形もなく消えていた。


 ただ、呆然とするばかりだ。
 あれだけ苦戦してたのに、あれだけ最初は力の差があったと思ったのに。
  本当に一瞬で終わらしちゃったよ。
  いやぁ、凄えんだな。ミコト様ってさ。
  本当に、何度でも言うけどさ、全盛期どんなんだったんだよ。割とマジで敵無しだったんじゃないか?
  そういえば中学の頃、地元の歴史について調べたことがあった。その時にこの地域は、大火事などの被害があまりなく、飢饉や、干ばつなどと言った自然災害も特に起こっていなかったことを資料で見て、少し驚いたのを覚えている。
  –––ミコト様がこんだけ強ければ、まぁ納得もするな。
  そのミコト様はふうと息を吐いた後、やり過ぎちまったかな、とぼやきつつ、
「これで、本当に終わりだな。すまん。危険な目に遭わせちまってよ。」
  少し申し訳なさそうに笑いつつ、そう言った。
「別にいいよ。ある程度覚悟してたことだ。それに、一歩踏み出すことができたからな。だから、いいよ。」
  俺は笑う。ミコト様に、心配いらないと伝えるために、笑う。
  ようやく、前に進めた気がするんだ。
  今まではずっとずっと、前に進めてるのかわからなかったけど、ようやく実感が持てた。
  この神様となら前に進める。成長していけると、直感的に、そう思えた。
 ミコト様は安堵したように一瞬目を閉じて、でも、すぐにいつも通りに戻って、
「うし!じゃあ明日っから暇を見つけて稽古だな!」
「え?」
「当たり前だろ?今のまんまじゃ危なっかし過ぎて見てらんねーよ。お前にも用事はあるだろうから、毎日ってわけじゃねえけどよ。」
  確かに、このままじゃミコト様の足を引っ張ることしかしないな。小さい雑魚鬼火相手に苦戦するくらいだし。
  俺は諦めて、
「わかりましたよ・・・じゃあ、改めてよろしく、ミコト様。」
  ミコト様に向かって、手を差し伸べる。
「おう。よろしくな。」
  ミコト様も、俺が差しのべた手を取る。
   多分、これが始まりなんだろうな。
   ぐっと、お互の手を固く握り締めた。
  そこまで来てふと唐突に、あることに気づく。
  –––睡眠時間どうしよ。
  公園の時計を見ると、1時45分を指していた。
  今から帰って2時、寝るの2時半、起きるの6時半・・・
  4時間しか寝れなくね?
  人によってはそのくらい寝れば十分だろうと言われるかもしれないが、あいにく俺は夜遅くまで起きていることに慣れていない。
  仕方なくね?本来人間は6時間以上睡眠時間取るのが適切だって聞くし。部活の疲労もあるから早く寝たいんだよ。
 「寝れねーじゃん。明日部活も学校もあんのに。どうしよ。」
 「別に大丈夫だろ。気合いと根性で何とかならぁ。」
「いやなりませんからねっ!?」
  いやいやいや。
  授業は何とかなるかもしんないけどさ。
  部活もあるって言ってんじゃん!部活の疲労はどこで取るのさ!
  俺が非難の目を向けるとミコト様は不満そうにして、
「ったくう。なよっちい奴だなあ。よし、明日しゅーくりーむ20個買ってこい!」
「どうしてそうなる!」
  ホントどうしてそうなった!?
  俺を殺す気か!?金銭的な意味で!
  俺が必死に突っ込みを入れているのを見てミコト様は可笑しそうに、嬉しそうに笑った。
「ふふっ、はははっ!やっぱいいわお前。眷属にして正解だった!」
  あーもう疲れる。神様ってみんなこうなのか?
 こんなにサバサバしてて、大雑把で、他人をおちょくって・・・
  小さい頃から俺の中にあったミコト様の像が、初めて話した時から崩されまくりだ。
  でもまぁ、やって行くしかねぇか。
  これからの不安と、期待が綯い交ぜになって、ふう、とため息が出た。
  あ、ちなみにこんな風にてんやわんややってたせいで、寝る時間がさらに縮まった。
  そのせいで翌日の授業はとんでもなく眠かった。
  ちくしょう。


 ・・・と、まぁそんなことがあったわけで、話は冒頭に戻る。
  あぁ、過去談だよ?確かにプロローグからだいぶ経ってるけどさ。わかりづらかったらごめんなさい。
   あれから俺は、朝はミコト様に供物やら持っていき、夕方は暇があれば稽古をつけてもらって、夜は妖退治、という日々を過ごしいる。
  なんだかんだでハードなスケジュールだけど、今のところは上手くこなせている。
  今日もミコト様お気に入りのシュークリームを供物として供えてから、稽古をつけてもらっている。
  今回の稽古は、組手だ。
  走って距離を縮め、ミコト様に蹴りを入れる。
  初めは抵抗感があったもんだけど、それを見抜いたミコト様にひどくボコボコにされ、「加減なんてする余裕あんのかよ、お前は。」と呆れられてから、本気で挑むようになった。
  ミコト様はフッ、と軽く躱し、俺の首の襟元を掴み、
「ほっ!!」
   綺麗な背負い投げ。俺はぐるんと弧を描いて、投げ倒される。
「ぐぇあっ!?」
  加減はしてくれたのだろうが、やっぱり痛い。
 「ったく、まだまだだな。まだアタシに一発も入れられてねえんじゃねえか?」
  ミコト様が倒れている俺を上から見下ろす。
  あぁもちろん、あれから服は着てもらっている。流石にあの状態じゃ気が散って稽古にならない。
「そうだな、速く一発くらいは入れられるようになりてえよ。」
「お前は打撃が大振りすぎんだよ。もっとこう、シュッ!て感じで、鋭くいけよ。」
「いや、ごめんよくわかんない。」
「おい。でも、初めての時に比べたら、ほんの少し、ほんの少ーーーしだけだが、ましになったかもな。」
  そう言って俺に向かって手を差し伸べる。俺はその手を掴んで、立ち上がる。
  少しずつ、近づいていこう。変わっていこう。一歩踏み出せたのだから。
  きっと、変われるはずだ。今よりも、今以上に。
  こんな感じで、俺の新しい日常は、始まった。
  そして、未来へと、続いていく。

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