ミコト様の眷属

二郎マコト

踏み出した一歩

 「キャアッ!ジャアアッ!!」
 「ととっ、わわっと!」

 あれから俺は、おぼつかない体さばきながらも、敵の攻撃をかわしつつ、一体ずつ倒していく。
 ホントにやばいときはミコト様の援助も入っているが。
 さっきなんて後ろを取られたのに気付かず、危うく鬼火の火炎放射を食らうとこだった。
 まぁミコト様が思い切り爆風で吹き飛ばしてくれたのだが。
 その時に、「全く!こんな雑魚相手に手こずるなよ!」と、言われたのだが、初めてなのだし大目に見てはくれないのだろうか。
 まあそれはいいとして、
 さて、残る敵は見た感じ3匹。最初の三日月のような笑い顔は何処へやら、切羽詰まった表情をしている。

「ギイエエェエ!」

   3匹いっぺんに横一列に並んで飛びかかってきた。
  さて、この力、神力を使っていて、わかってきたことがある。
  まず俺の力は"光"、体に纏って走る速度を極端に上げることができる。ということ。そして、その光は変幻自在に纏うことが出来る。この二点だ。

 例えば鋭利な刃のようにして相手を貫いたり、拳に纏ってパンチの速度、打撃力を上げたり・・・エトセトラ。
  要するに、こんな風に敵が横一列に飛びかかってきた場合・・・

「ほっ!!」

  光を刃のようにして、リーチを伸ばして一気に薙ぎ払う!
  こんな風な使い方をして戦っていくのだ。
  薙ぎ払われた敵は、跡形もなく消滅した。
  –––これで全部終わったか?
  俺はなんの気もなしにミコト様の方を向いた。

「おし、これで終わりだな。ま、まだ危なっかしいとこもあるけど、初めてだったらこんなもんだろ。」

  おぉ、これで全部か、よかったぁ。

「ふう〜〜っ」

  緊張が一気に解けたせいで腑抜けた声が出てしまう。

「おいおい、そんな腑抜けた声出すなって。」
「初めてだし緊張してたんだよ。しょうがないだろ。」
「ったく、速く慣れてもらわなくちゃな。そんなんじゃこれから先・・・ッ!?」

  突如、ミコト様の表情がこわばる。
  その顔から伺えるのは、焦燥感と、恐怖。
 「バカな・・・!!じゃあさっきのは・・・!」
「おい、一体何が・・・」

  突然、熱風が吹き荒れる。

「熱っ・・・!」

  肌がチリチリと焼けるほどの熱さ。
  でも、なんでだ?

  –––なんでこんなに熱いのに・・・こんなに背筋が泡立つんだ?

 反射的に後ろを振り向く。

「え?」
「くけけけけけっ!」
  さっきの鬼火の何倍も、何十倍もの大きさの鬼火が、そこにいた。



「おい・・・何だあれ。」

  愕然としすぎて、逆に呆然としたセリフしか出てこない。

「さっきのは・・・時間稼ぎだったんだよ。ここまで大きくなるためのな。アタシらが雑魚とやりあってる間に、少しずつ集まって大きくなってったのさ。」

  ミコト様も、額に汗を滲ませ、表情を強張らせながら、そう呟く。

  こいつは、ヤバイ。
  流石に俺でもわかる。

  これ・・・ミコト様でも何とかなるかどうかわからないんじゃないか?

「多分無理だな、これ。」
「え?」

  無理なのか?
  じゃあ、どうすんだよ。
  このどうしょうもない奴を、どうやって–––

「今のアタシじゃ、絶対無理だ。ヤバイ妖の気配はしてたが、こいつのことだったか。でも、逃げるわけにゃいかねえよな、アタシはここの神さまだから。」

 そういってミコト様は、グッ、と体に力を貯める仕草をとり、

「とりあえず羅一、お前は逃げろ。」
「ちょっ・・・!」

 声をかける間も無く、ミコト様は鬼火に向かって飛びかかった。

 「たぁぁあぁあっ!」

  ミコト様は不安を払うように全力で叫ぶ。ミコト様の全力の正拳突き。さっきよりも激しい突風が、鬼火を襲った、が、

 「チッ・・・。逆に燃え上がらせただけか。」
「けけけけけけけけけっっっっ!」

  さっきよりも激しい炎で鬼火は荒れ狂う。
  そして鬼火の、炎が弾けた。

「ぐっ・・・があっ!」

 ミコト様の、悲鳴が聞こえた。
 炎の光が眩しくて、思わず目を閉じてしまう。
 目を開けた瞬間見えたのは、

「つうっ・・・!」

 鬼火に掴まれたミコト様の姿だった。
   鬼火はミコト様をつかんで、ニタリと笑う。
   体が、動かない。足が棒のように硬くなって、一歩も、前に進めない。
 –––何でだ?
 何で体が動かないんだ?
 ミコト様は、このままじゃ危ない。助けに行かなくちゃ。なのに、何で––––
  あ、そっか。
  あの時から、何も変わっちゃいないんだ。
  バカにされても、言い返せない。人が人をバカにしてても、助けてやれなかった、最低で、最悪なあの時と。
  あのときの記憶が、フラッシュバックする。
 –––おい!バカ!クズ!死んじまえ!
 –––おい、羅一が見てるぜ〜?
 –––いいよあいつは、何も言えねーし。
  あの時から、何も、何も変わってねえじゃんか。
 俺は、何のために・・・
  絶望感、自己嫌悪に苛まれかけた、その時、

「負け、られ、ねぇっ!!」

 必死に足掻く、ミコト様の声が聞こえた。

「こんなところでっ・・・アタシはっ、アタシはっ! う、ぐ、あぁっっ!」
     足掻く。苦しみながらも彼女は、現状を打破するために、足掻く。

  諦めてない?

 力の差は歴然なのに、怖くて、痛い、はずなのに。

 –––––ああ、そっか。
   これが「覚悟」だったのか。
   なにかを「守る」っていう––––––。
    

 –––情けない。
    ふと、自分の中で、何かが切れた。

  情けない情けない情けない情けない!!
  目の前に、あんなに必死になってる人がいるのに!

 目先の恐怖に、怯えてた。屈してた!
    力があろうが、踏み出す勇気、これがなきゃ変わんねえってのに! わかってたはずだろちくしょう!
 
 とにかく今は、あの人を守りたい!
 そう心で叫ぶと、自然と敵に向かって飛んでいた。
 敵の、ミコト様をつかんでいる腕のところまで飛び上がる。そして、

「離せやごるぁぁぁあ!!」

  相手の腕に、光を纏った拳を叩き込んだ。
  少しダメージを与えることが出来たらしく、敵はミコト様を離した。
  俺は空中でミコト様をキャッチし、着地する。ミコト様は、少し弱って、でも、かすかに怒りを滲ませて、

「アホ・・・!何やってやがる!なんで!」

  そう叫んだ。それは、少し悲痛な声でもあるように感じた。

「アホって、無謀なのはお互い様だろ。」

  確かに無謀なのはわかってる。余計なお世話だ、ということも。
  ただ、本当にただ、

「もう、逃げたくないから。守りたいって想いを、無視したくないからさ。」

  多分他にも理由はあるんだろうけど。
  とっさには出てこないよ。俺そんなに口上手いわけじゃないし。

 「ギャオアァァアッ!」

  さっきの攻撃で怒った鬼火が俺たちを握り潰そうと手を伸ばしてくる。
  さあ、どこまでやれるかな––––
  そう思い身構えた、その時、鬼火の手が寸前のところで止まった。


「ありがとよ、羅一。お前が起こした奇跡だ。」

 気がつくと、鬼火の手をミコト様が片手で受け止めていた。
  突然のことで、少し困惑する。

「アタシも今、気づいたんだがな。」

 そう言ってミコト様は話し始める。

「どうやら、アタシの力は、眷属であるアンタがアタシのことをプラスに想えば想うほど–––アタシの力が本来のものに近づくみたいなんだよ。」

  ミコト様は、俺を安心させようとするように、にこり、と笑う。
  さっきとは比べものにならない程の大きさと、安心感を感じた。
「お前の想いも、伝わってきたぜ。覚えておけよ?今日のこと。それがお前の、大きな一歩だ!」

  そう言って俺に向かってグッとサムズアップする。
  想う力が、奇跡を起こした、ってことでいいのかな?
  それにな、ミコト様、
  感謝するのは、こっちの方なんだよ。
  ミコト様が、一歩踏み出すきっかけを与えてくれたのだから。
  あんたが諦めなかったから、俺も立ち上がれたんだ。

「少し、本来の力が戻ったからな。今なら、武器を具現化させることが出来る。見せてやるよ、お前にな。アタシの力を。」

  そう言って、ミコト様は鬼火の方に向き直り、

「はぁっ!」

 思い切り気合いを込めた。
  半端じゃない程の威圧感を感じた。
  気合だけで、周囲に風が起こる。
  鬼火は驚き、後ずさる。
  本当に少し回復しただけなのか?

  さっきとは考えられないくらい、ミコト様から力を感じる。そんなことを俺が考えている傍ら、ミコト様は詠唱を唱え始める。

「天をも砕く、鋼の拳よ!今、ここに!我に力を貸せ!出でよ!神拳!」

  力が拳一点に集まり、拳に光がともり、
  そして、叫んだ。
天砕あまくだきっ!!」

 天に向かってミコト様は拳を掲げる。
 瞬間、まばゆい光が、周囲を包んだ。

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