ミコト様の眷属

二郎マコト

初めて視た

  きっかけは些細なことだったのだ。

   二週間前、学校が終わった放課後、部活が珍しく休みだったあの日、特に学校に残る用事もなかった俺は、とりあえず帰宅することにした。

  学校の駐輪場から自転車を出し、家までの道を軽快に漕いでいく。

  春先、高校に上がって一年。大麦羅一おおむぎらいちとして俺が生を受けてから16年。俺は、自転車を漕ぎながら、少し今までの自分に関して思い返していた。

  思えば、中学時代まで少しオドオドしてて、弱っちそうで、物忘れが多かったせいで、少し他人にバカにされていた。
  バカにされても、何も言い返せない。そのせいで、後悔したこともある。

  そのせいか、高校は中学時代の知り合いが誰もいない高校を受験し、進学した。
  一応自転車で通える範囲内だが、少し家からは距離がある。

  高校に上がってからは、変わりたい、ただその一心で体を鍛えるために陸上部に入り、他人と積極的に関わっていくよう心がけた。

  –––––俺はあの時から少しは変われただろうか?

  強く、なれたのだろうか。
  もっと強くありたい。助けるべき時に、人を助けられるくらいに。
  心なしか、ぐっとペダルを漕ぐ足に力がこもる。

  帰り道を半分くらい過ぎた時だろうか。ふと、ある場所が目につき、自転車を止める。
  雑木林。昔良くここで、親と、妹と一緒に虫取りに来ていたことがある。
  小さい頃の遊び場といったら、大体ここだった。

  鬱蒼とした雑木林の中にひょろりとした獣道が伸びている。ここが入り口ですよ、と言わんばかりにぽっかりとトンネルができている。
  確かこの先にお社があったはず。そこまで久しぶりに行ってみるか。

  そう、思ったことが、俺が少なからずこの異変に関わることになったきっかけかもしれない。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 獣道をしばらく歩いていくと、少し大きめのお社が見えてきた。

  そしてそこには無論、誰もいない。

  普通のお社よりも大きいところから見ると、昔はきっと信仰の深い神様であったことが想像できる。
  しかし、あくまでもそれは昔の話。今は違う。

 今は祭殿の扉は開けっぱなし、中にまで落ち葉が入り込んでおり、お社全体にも、一面に砂埃やらなんやらが積もっている。
  時の流れによって、信仰が薄まり、廃れてしまったことは明白だった。

 –––あの時よりも、さらに古びてないか?

  一応このお社にまつわる言い伝えは小さい頃に祖父から聞いたことがある。
  この町に住む人であれば少しは聞いたことはあるだろう、と思っていたのだが、

 「もう誰も管理する人がいなくなったってことか?」

  確かにこんなところにあるんじゃ、管理するのも一苦労だろう。
  思えば、俺が子どもの頃からこのお社は相当寂れていた気がする。

「はぁ・・・少し掃除していってやるか。って、こんなところに御神体落っこってる!?」

  御神体、というのは神様の代わりとなるもので、御神体となるものは神社によって異なっていて、刀であったり、鏡であったりする。

  この神社は鏡らしい。というか、御神体がこうして外に落ちていること自体、いくら寂れた神社とはいえ滅多にない、と思う。
  とりあえず落ちている御神体をひょいと拾う。

  何か、すっと神秘的なものが流れてくるような気がした。
  お社の上に置こうと、鏡から目を離し、お社の方を見る。

 すると、

「あれ?」

  一瞬、目を疑った。だってそこには、

  古びた着物を着た、短い黒髪に、茶褐色の肌、そして健康的に発達した体の、綺麗な女の子がいたからだ。
  先程までは、そこに女の子なんていなかったはずなのに–––––––。

「アンタ・・・アタシが見えるのか?」

  俺はミコト様を、ここで初めて視た。

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