No title_君なら何とタイトルをつけるか

天ノ

.*GoodNight☪︎ *.

「雲砅さん 皆さんがいらっしゃっています」
京子が誰も居ないグレイの部屋を開けた。
京子の脳裏には普段は机に向かいながらも返事をするグレイがいた。



「改めまして、ご結婚おめでとうございます!」
アイの声とともにグラス同士がぶつかる甲高い音が響いた。
「ありがとうございます…」 
ヴェルザは顔を真っ赤にして俯いた。

目的を果たせた自分はその次の年、団長…いや、ハイネさんから求婚された。
それはあまりにも突然で雨の日 仕事帰りに傘を忘れた自分を見かけたのかハイネさんは寄ってきて…
「はぁ…探したよヴェルザ、伝えたい事があるんだ」
「え、あ…はい?」
「僕と結婚してくれないかい?」
「…っはい!?」
「ダメかな…?」
ハイネは照れ隠しなのか困っているのか分からないような表情をしていた。
「よ、宜しくお願いします…!」
急に頭が真っ白になった自分は無意識に求婚を了承していた。
その後はなんやかんやあって式まであげた。
指揮官やアイ、メコさん、イグニス…それにエイダンさんや師匠、マリーちゃん。そして…協会の階段上から路上に停めてあるパトカーが見えた。目を細めるとウキが居たような気がした。
「…ありがとう、お兄ちゃん」
「なんか言った?」
隣で笑っているハイネがヴェルザの顔を覗き込んだ。
「い、いえ、何も…」

「いやぁ…まさかハイネがヴェルちゃんと結婚するなんて予想外だったよ」
「そうですね…サラ指揮官の予想を超える出来事は相当凄いことです」
「やろ?」
「はい」
グレイとイグニスが騙されたような顔をしてヴェルザを見た。
「な、何ですか…」
「…良かったね。おめでとう」
「幸せな人生歩めよ」
微笑みながら2人は言った。
「私より早く結婚するなんて!ズルいわよ」
アイは酔っているのか缶ビールを揺らしながらヴェルザに差し出した。
「…アイ。その指輪」 
「え?あぁこれね」
アイはつけている指輪を見せるように手の甲を顔に寄せた。
「実はね、婚約者から一昨日 プロポーズされたのよ!再来月くらいに式をあげようと考えてるの」
「…え!?」「私のお嫁さんになるって言ったじゃないか!」「ん?!」「ほぉ」「あら…」
「言ってないよ!?」
「相手はどんな人なの?」
メコが興味あり気にアイを軽く押した。
「えー…優しい人だよ?近所の料亭の跡継ぎよ」
「へーそれは良い人材だな」
ハイネが感心したように応えた。
「はぁ…」
「あははは、イグニスは気が重そうだな」
容赦無くイグニスの求婚が失敗した事を言うグレイを見てヴェルザは苦笑した。
「アイも…ヴェルザも…そしてメコやサラ指揮官までも…」
「グレイは無いだろ」
「はぁ~?それどういう意味かい?」
ハイネの言葉にグレイは突っかかった。
「…メコさんは料理が美味しくて家庭的なので結婚しそうですけど指揮官はなんというか…はい、無いですね」
不満そうにグレイは頬を膨らませた。
「別にいいもん!」
「あれだな、私は結婚とか考えてないが皆からはそう思われてるのか」
メコは少し意外そうな顔をしていた。
その隣でイグニスの目が死んでいたのを見てしまった自分は見なかったふりをしようと缶ビールを一気に飲んだ。
「イグニスの目が死んでる…そんなにショック受けてるの?ちょっと引きずりすぎ」
また無神経な事を言われたイグニスにヴェルザは同情した。
「うっ…五月蝿いです!」
「まぁまぁしっかりしなさいよ」
「そうよ!メコの作ってくれた料理食べたら元気出るわよ」
「ほら、食べな」
メコとアイは笑いながらもイグニスを慰めていた。
在り来りなこの日常がずっと続いてくれるといい…と思っていた。自分だけではなく皆さんも思っているのだろう。
けれど 幸せはいつまでも続く事がない。
マリーのような事もそうだ…幸せだったあの時だってあの時もあの時も、一瞬にして壊れた。

パリンッ!))…

グラスが割れた。
はっと気付くと畳が濡れていた。
「指揮官!!」
ヴェルザは隣で倒れているグレイの肩を揺らした。
「サラ!?」「…グレイ!?」「どうした!」「サラ指揮官!」
額に冷汗が出ているグレイを見たアイは直ぐに救急車を呼んだ。
目の前で苦しそうに意識の無い倒れているグレイを見てヴェルザは急いで京子のいる部屋へ尋ねた。
「京子さん!指揮官が急に倒れたんです!」
「…!?」
京子はグレイに駆け寄って深刻そうな顔をした。
何が起こっているの!急にどうして…混乱したヴェルザはどうする事も出来なかった。
「アイさん、救急車はいりません」
「何を言ってるの!倒れたのよ?救急車はいるわ」
「いりません!」
京子の強い声に圧倒されたアイは再び救急車に連絡した。
「どうしてこんなことに…京子さん?」
ハイネが問ても京子は黙ったままだった。
グレイを部屋のベットに寝かせた京子はまた黙ったまま部屋を出て行った。
それから4時間…昼過ぎにグレイの目が覚めた。
安心したように全員が肩を下ろした。
「良かった…指揮官、大丈夫ですか?」
「…」
「指揮官…?」
グレイは何かを思い詰めているようにヴェルザを見つめた。
「い…いやぁごめんね?急に目眩がしちゃってさ」
「嘘はやめろよ」
「…っ」
ハイネの重たい声にグレイが一瞬ビクリとした。
「本当はどうなの?ただの目眩による気絶じゃなかったわ」
「……」
「私にも答えられないの?私は…医者よ?信用してちょうだい」
「…」
「サラ指揮官、黙ってないで何か言ってください」
「…実は…もう」
小さな声で何かを話そうとしているグレイの背中をメコが押した。
「ほら!話してくれると有難いのよ?1人で抱え込まないで」
「…実はもう長くない」
「何がですか?」
初めて見る指揮官の姿に自分は違和感を感じた。
「余命があと5ヶ月なの」
寂し気に笑ったグレイを見た全員は黙った。
「実はね?終戦後に身体に苦痛を感じたから病院に行った。そしたら癌だった…直ぐに手術をした。けど遅かったらしくてね?脳に転移しちゃってた…」
「…そんな。あんなに元気だったじゃない!」
「アイ、黙って聞いてやれ」
今にも泣き出しそうなアイは俯いた。
「脳腫瘍を取り出す手術をするべきなんだと思った…けど「完全には取り出せない。もう助からないと考えた方がいい」ってさ。もし手術が成功しても記憶障害が後遺症とあるらしくて、その時はまだハイネや皆を忘れるわけにはいかなかったんだ」
「…」
「それでね?私 もう諦めたの!これが定められた時間だから…」
「自分がもっと早くに行動していればこんな事には…!」
「ヴェルちゃん、自分を責めるな。これは私、自分自身の責任だ」
「5ヶ月って…サラ指揮官はアイの結婚式に出られるのですか?」
「さぁ…?私はアイの花嫁姿見たいなぁ」
軽々しく淡々話すグレイをみてヴェルザは腹が立った。
気付けば自分は指揮官の頬をつねっていた。
「な、なに!?」
「…そんな軽く話さないでください!」
道化師みたいに笑うグレイの仮面の奥に泣きじゃくる弱虫な少女がヴェルザには見えた。
「ごめんね…」
「時間のままにか…」
ハイネが青ざめた顔で呟いた。

3ヶ月後
桜の花びらが舞う協会の外ではアイと優しそうな男性が囲まれて賑やかな様子だった。
「アイ!おめでとう」
ヴェルザはアイに駆け寄った。
アイは白い花柄のレースで顔が隠れていたが美しさは充分に伝わった。
「綺麗だね」
グレイはアイの手を握った。
「ありがとう」
アイは涙目になっていた。
「本当に綺麗ね!」「あぁ綺麗だ」「似合っていますよ」
「皆さん…本当にありがとう」
あと少しだけ…この時間を進めないで欲しい。
指揮官がいつまでも今のままの状態で…。
「アイさん…おめでとうございます」
京子がバラの花束をアイに差し出した。
「京子さんまで…ありがとうございます」
幸せそうに微笑むアイと皆の幸せなこの時はいつかは壊れる。
それが今日なんて誰も思っていなかっただろう…。
突然グレイが体を丸めた。
京子が密着するような体制でいた。
ヴェルザは見えていた…
京子が花束の影からナイフを取り出し、グレイを刺したことを。
「指揮官!!」
「京子さん何をやっているのですか!?」
イグニスが京子を取り押さえた。
グレイの血のついたナイフは地面に落ちた。
「おい、救急車を呼べ!」
ハイネが協会の人に怒鳴った。
「サラ!大丈夫か!?」
メコがグレイの腹部を止血しようと強く押えた。
「サラ…」
新郎が慌てていながらもアイはグレイの手を握った。
「…ごめんね、結婚式台無しにしちゃった」
「う、ううん…大丈夫よ…お願い、血が止まらないの…生きて…!」
グレイの顔は段々顔色が悪くなっていた。
「…京子さん」
グレイは京子を呼んだ。
信頼し合える自分達ではなく自身を刺した京子を…。
「雲砅さん、私は誰だと思う…?」
「…京子さん。佐久 京子…貴方に頼みがある」
「…」
「私を…許して…」
「貴方は人を殺しすぎた」
グレイはか細い声で静かに涙を流してそう言った。が、京子はグレイを許そうとはしなかった。
「あ、い…いやああぁぁぁぁ」
鼓動が聞こえなくなったグレイ…。
アイがグレイにしがみつくように泣き叫んだ。
ヴェルザはハイネの胸の中で泣いていた。
イグニスは涙も出さずにただずっと死人みたいな顔をしていた。
メコは俯いて何も言わなかった。
式に来ていたエイダンやハルカ、マリー。ユウワやアイの父はグレイを見て最後の別れの挨拶をしたのだった。
他の5人は協会にグレイを運び 眠らせた。
せっかく手に入れた幸せがまた壊れたヴェルザは絶望していた。何も考えられないで…ろくに歩くことも出来なかった。
「…グレイ。僕について来てくれてありがとう」
ハイネはグレイの乱れた髪を戻した。
悲しみに浸るハイネさんや皆さんを見た自分は京子さんに怒りを覚えた。
「…っ!どうしてこんなことを!」
「復讐よ…愛する息子の」
「息子…?」
「アイク・ザック…私の大切な一人息子を殺したのは雲砅さんよ」
「…復讐なんて」
「復讐なんて?なんてじゃないわ。子供を殺されて正気でいる母親がどこにいるのよ!?アイクの死が知らされた後 夫とは上手くいかなくって出て行ったわ…私の人生は壊れた…幸せは壊れた…なのにあなた方は幸せを手に入れた!」
「復讐したところでアイクさんは戻ってきませんよ…指揮官だってもう…!」
京子を殺してやりたいヴェルザだが必死に耐えた。復讐をしたところで戻っては来ないのだから。
「……もういいわ。役目は果たしたの…早く私を警察に出しなさい」
突然 ヴェルザの視界にイグニスが現れた。
イグニスは京子の胸ぐら掴んだ。
「ふざけるな!アイク殿を殺したのはサラ指揮官じゃない!戦争だ!醜い反逆戦争だ…それをサラ指揮官のせいにするな、許しを求めてきたのはサラ指揮官が京子さんとアイク殿に対して罪を感じていたからじゃないのか!?」
「…嘘よ。指揮官という立場上 部下を見捨て 勝利へ導く事はどうも感じてないわ!」 
「違う!いつだってあの人は部下を大切に思っていた…けれど団長との約束を守る忠誠心には逆らわないと決心していた。アイク殿は望まれて殺されたんじゃない!サラ指揮官は…部下を殺めるなんて事は1度も望んでいなかった…」
「…じゃぁ私は…一体 誰を恨めば良かったのよ…」
京子が泣き崩れた。
「京子さん…僕を恨んでください」
ハイネが京子に手を差し伸べた。
「…え」
「僕が全て悪いんだ…長としての力がなかったばかりにアイクや部下達を失ってしまった。僕に従っていてくれたグレイまでも…」
桜の花びらが舞った。
春風とともに無邪気で生意気そうな少女の笑い声が流れた。



「雲砅さん 皆さんがいらっしゃっています」
京子がグレイの部屋を最後に訪れた。
「…貴方は殺しすぎた。それが決して望んだ事ではなくとも…家族を殺め 使用人達までも殺めた。部下や敵の人間も…罪な事よ」
誰も居ないはずの部屋から幻聴が聞こえた。
「…ごめんなさい。ありがとう」
耳元でそう囁かれた気がしたが京子は瞳を閉じた。
「地獄でまた会いましょう」
5人に連れられ京子は警察の元へと出て行った。 

足の無くなった私はふわふわと沈黙の広間へ向かった。そこには今にも泣き出しそうな5人がいた。
ハイネとヴェルちゃんとアイとメコとイグニス。皆 私の大切な友人。
私少し眠くなっちゃったなぁ…つまらないくらいに皆 静かだな…幽霊になった私は此方へ5人が来る日まで気ままに待っておこうか。

指揮官の居なくなった屋敷はとても静かだった。毎度 仕掛けてくる悪戯もない…それにひっかっかったイグニスの驚き声も今じゃもう無い。
「…これからどうしましょうか?」
ヴェルザは問いた。
「この屋敷はこのままにしておきませんか?僕とヴェルザが管理します」
「賛成です…サラ指揮官が戻って来た時に屋敷が無かったら困ってしまいますからね」
イグニスが困ったように微笑んだ。
「そうね…」「うん」
アイやメコも賛成した。
「…自分も賛成です。指揮官が頬を膨らませて「屋敷を返して」なんて言ってきたらイグニスが処置するしか無いですもんね」
「あぁ…それは有難い。事前に対策することは大切だ。あの人の取扱説明書にもそう書いてあるはずだ」
「なにそれ?」
「さぁな。あった方が便利だろうな」
「確かに…」
ヴェルザは想像を膨らませた。
こんなめちゃくちゃな人生…名前なんてつけられないな。そんな事を唐突に考えた。

「おやすみなさい」
全員がそう言った。


「…おやすみ」
ヴェルザ達から見えないグレイは1人1人の背中をタッチした。


















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