果ては未来を担う者

あおいろ

三話・罠

 小男が大仰に苦しむ。
 喉を掻きむしるフリをして「かはっ」などと言ってわざとらしく倒れ込んだ。俺の上に。

「おい」
「しーっでやんす。こっちの方がリアリティあるでやんすよ」
「後で覚えとけよ、この野郎」

 大して重くないとはいえ、今日会った汚らしい男に乗っかられるというのは気分が良くない。あとでぶん殴ってやる。
 俺と小男の二人でそうすること二時間。
 もう諦めて下手な演技をやめようとした時、

「誰か来るでやんすね」
「は?」
「気配がするでやんすよ。一人でやんす」

 小男がボソリと呟く。
 訳の分からないことを言っていると思ったがそれが事実だと言うことが直ぐに分かった。
 静かな足音を俺が聞き取った頃にはもう影が折り重なる俺たちの間近だった。
 そしてその影の数も一つ。
 小男の言う通りだった。
 あれ、このちっこいのって何気に凄かったりするのか?
 俺と小男は話し合っていた通り、その影が俺たちに触れようとしたところでタイミングを合わせて立ち上がり、飛びかかった。

「きゃっ!?」
「確保ぉぉぉおお、でやんす!」

 何とも驚いたことに小男は一人でその影を組み伏せた。
 やっぱりこのちっさいの意外と役に立つな。
 組み伏せられたのは小男と同じような身長のローブを被った人相の見えない小柄な人物。
 ドタバタと暴れ逃れようとしているがしっかりと捕まっているのかなかなか逃れる事ができないようだ。

「よくやったぞ、小男!」
「それってオイラのことでやんすか!?」
「だってお前チビだし」
「まだ18でやんすよ、オイラ。まだまだ伸び盛りでやんす」
「嘘だろ!? んな、見た目してて俺より二つ下なだけ!?」
「そうでやんすよ。あとオイラにはペペっていう立派な名があるでやんす!」

 衝撃の事実。
 汚らしい格好をしたボサボサの髪を伸ばしっぱなしにしたこの小男。確かに声は高めだなーとは思っていたがまさかまさかの俺よりも一つ若かったらしい。
 まあ、髭も伸ばしっぱなしで顔も汚れててよく人相は分からないが明らかに俺よりも歳上だと思っていた。
 しかもペペとかいう何とも何処かのキャラクターのような可愛らしい名前があったらしい。

「そんなことより早く手を縛るでやんすよ! こいつ、かなり力あるでやんす」
「お、おう」

 小男改めペペの持つポーチから縄を取り出すと苦戦しつつも後ろ手に縛り上げる。
 二人で捕まえた奴を近くの木まで運んで括りつけた。
 これはぺぺに任せたがかなり手慣れていて少し引いた。
 まあ、容赦なく人をクロスボウで撃つような野蛮人だ。
 人を縛るのに慣れていても不思議ではない。

「でこれからどうするんだ?」
「術は解けてねぇでやんすからこのチビッ子どうにかして解いてもらうでやんす」

 ちびっ子とかお前が言うな、とか言いかけたがここは余計なことを言わずに従うとしよう。
 手慣れているみたいだしここは任せる。

「そんでどうやって解かせるんだ」
「取り敢えず、顔を見せてもらうでやんす」

 暴れるローブのチビ(ぺぺにあらず)のご尊顔を拝見させてもらうとしよう。
 ぺぺは顔を隠すフードを外すと

「………女でやんしたか」
「あ、マジだ」

 女の子だった。
 光を受けて綺麗に輝く長い金髪。
 森の木々の葉を思わせるような深緑の瞳。
 見たこともないくらい美少女だった。
 年齢は15、6っていったところだろう。
 でもなんだろう。何処と無くこの子には違和感を感じる。
 何がと言われると何かは分からない。
 分からないということは大したことはないのだろう。気にせずにおこう。
 美少女は縛り上げた俺とぺぺを殺さんばかりに睨み付けていた。 綺麗な顔付きなだけに迫力がある。

「離しなさい、このゲス!」
「ゲスだってよ。言われてんぞ、ぺぺ」
「オイラじゃないでやんすよ。多分、アンタのことじゃねぇでやんすか?」
「両方よ!!」

 まるで動物が威嚇でもしているようなにも見えて今にも唸り声が聞こえてきそうだ。
 警戒されまくってんな。まあ、縛り上げられれば警戒もするか。

「女、この結界をさっさと解くでやんす。解いたら解放してやるでやんすよ」
「嫌よ。こんな怪しい奴らがいるのに解けるわけないでしょ!」

 ごもっともだった。
 見た目的に怪しいペペとその仲間と思わしき俺。
 結界どうこうはよく分からないが何かしらで迷わせている方法があるとしてもそれを解除するなんてことは出来ないというのは納得だった。
 怪しい奴ではないと証明したくとも拘束を解く訳にもいかない。
 今頼れるのはこの女の子だけだ。正直、疲労も溜まってきているからこんな森からはさっさと抜け出したいからこそ解放する訳にはいかなかった。

「どうすんだよ」

 ぺぺに耳打ちする。

「どうすると言われてもでやんすねー。根気よく説得するしかねぇでやんす」
「つってもなー。これが協力してくれると思うか?」
「その時はその時で考えがあるでやんす。ここはオイラに任せるでやんすよ」

 なんてウインクをして自信満々なぺぺ。
 ここはやはり任せるしかないようだ。
 俺は二人のやり取りを黙って見守ることにした。

「さて、ちびっ子、取り引きでやんす」
「ゲスと取り引きなんてしないわよ」
「………立場が分かってないでやんすね。オイラたちの方が上ということは誰が見ても明らかでやんす。素直に取り引きをしといた方がアンタの為でやんすよ」
「立場? 知らないわね。ワタシは脅しになんて屈しないわ」
「………あまり舐めてると兄貴が黙ってないでやんすよ。ですよね、兄貴!」

 振り向いたぺぺは俺を見て同意を求めた。
 そして口パクで「話を合わせるでやんす」なんて言ってる気がする。
 いつから俺がお前の兄貴になったんだよ。
 兄貴はあのデカブツだろと思いもしたが任せると決めたので仕方なく女の子を脅すように目一杯に睨み付けた。
 女の子と俺の視線がぶつかり合う。
 なんていう目付きしてやがる。普通にビビるくらいに怖い目をしてるぞ。だが負けじと睨む。
 すると先に視線を逸らしたのは女の子だった。
 なんか悪いことをした気分だ。実際、しているのだけど。

「な、何よ。そんな男怖くも何ともないんだから」
「こんな身なりをしてるでやんすけど兄貴は奴隷商人とも繋がりがあるでやんすよ。機嫌を損ねたら……想像するだけで怖いでやんす」

 ブルブルとわざとらしく体を震わすぺぺ。
 こいつは俺を一体何に仕立て上げるつもりだ。
 だが仕方なし。今は甘んじて受け入れるとしよう。
 誤解は後からとけばいい。
 それからも女の子が折れるまでぺぺは永遠と俺にいらんイメージをつけて行く。
 強姦魔やら巷を騒がす大量殺人鬼やらそう言ったのだ。
 普通なら信じないようなものなのだが女の子はどうやら信じやすい性格なのか俺を見る目がどんどん怯えたものになっていく。
 ……ツラい。何もやってないことで怯えられるとかツラい。だがそれも今更、もう既に女の子は此方を見ようともしなくなった。

「わ、分かったわ。乗るわよ。取り引きするんでしょ?」
「頭のいい子は嫌いじゃないでやんすよ」

 ぺぺは振り返り、やりましたよと言わんばかりに親指を立てた。不満を表すために親指を下に向けておいてやった。



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次回、初戦闘です。

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