No title

(´・ω・`)

56.VSアダラ~ニビ目線~

 対戦相手として出てきたのは、どこにでもいそうな猫目の青年だった。
武器として取り出した大鎌を携えて、彼はニッコリと笑う。

「よろしくね」
「こちらこそ」
「あ、僕アダラって言います」
「ニビです。よろしくお願いします」

挨拶もそこそこに、俺も自分の短剣を抜く。
昨日は対戦相手がパワー型だったからスピードでなんとかなったけど、この人はなんとなくそう簡単にいきそうにないなぁ…。大丈夫かな。


「それじゃあいくよー!レディ……ファイッ!」


進行役の声で試合が始まると同時、相手が鎌を勢いよく横に薙ぐ。
それを両手で受け止め、力を込めて押し返す。
押し返された反動を利用して、今度は流れるように下から攻撃がくる。
上手い具合に手元を隠されて反応が遅れ、躱すのがギリギリになったせいで若干の焦りが生まれた。
四方八方から攻撃は滑り込み、時間が進むにつれ目が追いつかなくなってきた。

まずいなぁ……俺もしかしたらこの人と相性悪いかも。
試合開始から速すぎる相手の攻撃に、心做しか考えもネガティブになる。

俺の戦闘スタイルは奇襲とスピードに特化した感じだってレイスが言ってた。
でも実際のところ、奇襲はなんなら先に仕掛けられたしスピードだって俺より早いと思う。

防御一辺倒を促す強力な連続攻撃と予測を妨げる小細工。
重ねてさっきみたく俺の力を利用して自分の負担を減らす技術。
鎌という武器も、刃が弧を描いているからかどうしても調子が狂ってしまう。
しかもこれ多分だけど本気だしてないぞ?

(この時点で俺に勝機がない気がするんだけど…これ絶対負け試合じゃん…)

こうしている間にも続く攻撃は、少しずつ俺に疲労と焦りを与えてくる。
蓄積されたそれらは思考を滞らせ、呼吸を浅くさせて徐々に視界を狭くする。

「っ!」

僅かに切れかけた集中を突かれ、短剣が手を離れて宙を舞う。
距離を置こうと下がるが、そんなものは最早ないに等しいようだ。

カシャン…

金属が地面に落ちる頃には、眼前の鎌と俺を見下ろすアダラの顔によって俺の敗北がほぼ決定していた。

全く歯が立たない。
俺が弱いとかそんなの関係なく、彼の能力が純粋に高い。
そういう才能だろうか?だとしたら俺に対抗する術はないじゃないか。

「一応聞くけど……降参する気は?」
「…ないですよそんなもん」
「そっか…じゃあちょっと意識とばすよ」

鳴り止まない歓声の中で、アダラの無機質な声が不思議な程よく聞こえる。
薄い笑みを浮かべたまま、彼は俺を気絶させようと死神の鎌を振りかざす。

俺が失神し、アダラがこの試合の勝者になる。
誰が見てもこの流れはそうだっただろう。
しかし、ここには空気の読めない人間が存在したらしい。
奇しくも俺は、その人物をよく知っていた。


「おいコラァァァァァァァ!!」


会場から少し離れた屋根の上。
突如聞こえた叫び声の主は、黒い髪をなびかせて仁王立ちしていた。

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