No title
52.屋根上の笑い声~コール目線~
夏の夜ほどいいものはない。
冬のように寒さに凍える必要もない。
誰の目も気にしなくていい。
ただ、時折聞こえる気がするさざ波の音やクビキリギスの鳴き声に耳を傾け、それに浸るだけでいられるから。
「皆は寝てるの?」
宿屋の屋根の上、長く続いていた夜の静寂を鈴のような声が優しく壊す。
三日月を背に現れた声の主は、銀髪をなびかせながら僕の隣に立っていた。
「うん」
「良い人達でしょう彼らは?」
「うん。’’才能はとりあえず置いとくとして’’なんて初めて聞いたよ僕」
「言いそうだねぇレイスさん達なら」
彼女はそう言って嬉しそうに笑ってみせた。
名前はいいから才能を話せ、とかはよく聞くけどその逆は本当に初めてだ。
良い人だけど変わった人だったなあの人…。
「新しく名前も付けてもらった」
「シャルカも君も名前あるのに新しく付けてもらったの?」
「うん。面白そうだと思って。僕がライで…」
「私がランだって」
突然入った第三者の声。
声のする方を見ると、深くフードを被ったシャルカ…否、ランが僕を見下ろしていた。
「ニビって人が付けてくれたの」
「ニビくんが…。じゃあ明日からライとランだね」
「間違えないでよ?」
「気をつけまーす。というかなんでライとランなの?由来とかあった?」
思いついたように聞いてきた彼女の疑問は最もだ。
そして僕は名前の由来を思い出して思わず笑いながら答える。
「好きな動物を聞かれてさ。部屋に獅子の置物があったからライオンって答えたんだ」
「なるほどね…」
由来の安直さを理解した彼女は「なんにせよ良かったじゃない」と呟いた。
「そういえば僕ら兄妹と勘違いされてたよな」
「うん。私とコールが似てるのなんてせいぜい目の色ぐらいなのに」
「そう?私からすれば兄妹みたいなもんだよ二人共」
「どういうことルミス」
「僕がシャルカのお兄ちゃんかー」
「やだよコールの妹なんて」
物音一つしなかった屋根上に、三人分の静かな笑い声が響く。
誰にも見られない場所でしか本当に笑うことが出来ない僕らは、寂しい存在なんだろうか。
変わらず佇んでいる三日月を横目に、僕はふとそんな事を思ってしまっていた。
冬のように寒さに凍える必要もない。
誰の目も気にしなくていい。
ただ、時折聞こえる気がするさざ波の音やクビキリギスの鳴き声に耳を傾け、それに浸るだけでいられるから。
「皆は寝てるの?」
宿屋の屋根の上、長く続いていた夜の静寂を鈴のような声が優しく壊す。
三日月を背に現れた声の主は、銀髪をなびかせながら僕の隣に立っていた。
「うん」
「良い人達でしょう彼らは?」
「うん。’’才能はとりあえず置いとくとして’’なんて初めて聞いたよ僕」
「言いそうだねぇレイスさん達なら」
彼女はそう言って嬉しそうに笑ってみせた。
名前はいいから才能を話せ、とかはよく聞くけどその逆は本当に初めてだ。
良い人だけど変わった人だったなあの人…。
「新しく名前も付けてもらった」
「シャルカも君も名前あるのに新しく付けてもらったの?」
「うん。面白そうだと思って。僕がライで…」
「私がランだって」
突然入った第三者の声。
声のする方を見ると、深くフードを被ったシャルカ…否、ランが僕を見下ろしていた。
「ニビって人が付けてくれたの」
「ニビくんが…。じゃあ明日からライとランだね」
「間違えないでよ?」
「気をつけまーす。というかなんでライとランなの?由来とかあった?」
思いついたように聞いてきた彼女の疑問は最もだ。
そして僕は名前の由来を思い出して思わず笑いながら答える。
「好きな動物を聞かれてさ。部屋に獅子の置物があったからライオンって答えたんだ」
「なるほどね…」
由来の安直さを理解した彼女は「なんにせよ良かったじゃない」と呟いた。
「そういえば僕ら兄妹と勘違いされてたよな」
「うん。私とコールが似てるのなんてせいぜい目の色ぐらいなのに」
「そう?私からすれば兄妹みたいなもんだよ二人共」
「どういうことルミス」
「僕がシャルカのお兄ちゃんかー」
「やだよコールの妹なんて」
物音一つしなかった屋根上に、三人分の静かな笑い声が響く。
誰にも見られない場所でしか本当に笑うことが出来ない僕らは、寂しい存在なんだろうか。
変わらず佇んでいる三日月を横目に、僕はふとそんな事を思ってしまっていた。
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