No title
45.有名人
全員揃っての久々の会話も端的に終え、さっきの騒動とルミスの仕事を考慮して泊まる宿の場所だけ教えてもらうことにした。
そんな失礼なことできないと彼女は慌てていたが、しばらくして首を縦に振ってくれた。
「「「おぉ…」」」
言われた場所にあったのは、一般の観光客が泊まりそうな至って普通の良い宿屋だった。
国が用意した宿ということもあり、場違い感が出ないかと心配していたが良かった。
空は既に緋く染まっている。
道中、あの騒ぎの渦中にいた人達にルミスとの関係性をしつこく聞かれたり、彼女を抱えて飛んだことへの冷やかしの言葉をかけられたりしていたから随分遅くなってしまった。
最後はもう屋根の上を走って移動する始末だ。
尊敬を越えて騎士団員それぞれのファンクラブさえ存在するらしいから仕方ないとは思うが。
「すいませーん。ルミスさんの紹介で来させて頂きましたレイスという者なんですが…」
少し年季の入った扉を開け、中の様子を伺いながらそういった瞬間、従業員と宿泊客からの視線が一気に集まった。
「あー……えっと?」
確かここで合ってたよな?来るところ間違えたか?
「あんたがレイスか!?まさか会えるとは思ってなかった…!」
「話聞かせてくれよ!あんた今この国の有名人なんだぜ?」
「…………」
なんだろうこの…悪い人じゃないんだけど人の話聞いてくれないやつ…。
ていうか俺を有名人にするなよ…。
有名なのはルミスだけで十分だろう…?
そうこうしている内に見物人は集まり、ロビーには結構な人だかりが出来てしまっていた。
「じゃあ…少しだけ?あ、でもその前に泊まる手続きとかしてきます」
俺の一言に歓声が上がる。
後ろには悪ノリしたカイが共に歓声を上げ、ニビはそれを見て唖然としていた。
目覚めて早々だが一発殴ってやろうかこいつ…。
カウンターの方へ歩いて行くと、そこに立っていた銀髪と蒼い目の女性従業員は照れたような恥ずかしがるような赤面で言った。
「あの…手続きやその他諸々はルミス様がもう済まされていますので大丈夫です…」
消え入りそうなその声は、やけに静まり返ったロビーによく響く。
「あぁ……そう、ですか。ありがとうございます…」
気遣いは時に人を苦しめるらしい。
背後には需要のない拍手。
眼前には発熱を疑うほど赤面して俯く女性従業員。
「よかったな。ウルクラグナの有名人」
「俺このまま部屋行って寝ていいと思う?」
「いや駄目だろ。絶対叩き起されるぞカイに」
「………」
ニビとのやり取りの中、幼い子供に袖を引っ張られた。
何やら紙とペンを持って、何か言いたげに口をパクパクと動かしている。
「どうした?ちゃんと聞くからゆっくり話してみな」
視線を合わせて最大限明るい声で尋ねる。
するとその子は舞い散る花びらが見えてきそうなほど嬉しそうな顔でそれを差し出し、こう言った。
「ルミスさまの婚約者さま!サインください!」
「………ん?」
何を言っているのか分からず、数秒止まってしまった。
否、考えても分からない。
爆弾発言をした当の本人は、ちゃんと言えたことへの喜びでそれどころではなさそうだ。
俺が?ルミスの?婚約者…?
何歳差婚だよあいつの年齢しらんけども。
「お!いいな坊主!俺もサインもらお」
「じゃあ俺も!」
話をするだけだったはずが、いつの間にやら現場はサイン会へと変化している。
正直全くもって理解が追いつかなかったが、ヤケになった俺は強い。
「じゃあ1人ずつお願いしまーす」
完全に光を失った目と表情で繰り出された棒読みは、大体の人は「やっぱいいです…」と身を引くのかもしれないが、ここの人は違うらしい。
「おぉまじか!気前いいなお前さん!じゃあ頼むわ!」
目の前に広がる人の大行列。
かつて一度としてサインを書いたことのない少年は、ただ無心で白い紙に自分の名前を書き始めた。
そんな失礼なことできないと彼女は慌てていたが、しばらくして首を縦に振ってくれた。
「「「おぉ…」」」
言われた場所にあったのは、一般の観光客が泊まりそうな至って普通の良い宿屋だった。
国が用意した宿ということもあり、場違い感が出ないかと心配していたが良かった。
空は既に緋く染まっている。
道中、あの騒ぎの渦中にいた人達にルミスとの関係性をしつこく聞かれたり、彼女を抱えて飛んだことへの冷やかしの言葉をかけられたりしていたから随分遅くなってしまった。
最後はもう屋根の上を走って移動する始末だ。
尊敬を越えて騎士団員それぞれのファンクラブさえ存在するらしいから仕方ないとは思うが。
「すいませーん。ルミスさんの紹介で来させて頂きましたレイスという者なんですが…」
少し年季の入った扉を開け、中の様子を伺いながらそういった瞬間、従業員と宿泊客からの視線が一気に集まった。
「あー……えっと?」
確かここで合ってたよな?来るところ間違えたか?
「あんたがレイスか!?まさか会えるとは思ってなかった…!」
「話聞かせてくれよ!あんた今この国の有名人なんだぜ?」
「…………」
なんだろうこの…悪い人じゃないんだけど人の話聞いてくれないやつ…。
ていうか俺を有名人にするなよ…。
有名なのはルミスだけで十分だろう…?
そうこうしている内に見物人は集まり、ロビーには結構な人だかりが出来てしまっていた。
「じゃあ…少しだけ?あ、でもその前に泊まる手続きとかしてきます」
俺の一言に歓声が上がる。
後ろには悪ノリしたカイが共に歓声を上げ、ニビはそれを見て唖然としていた。
目覚めて早々だが一発殴ってやろうかこいつ…。
カウンターの方へ歩いて行くと、そこに立っていた銀髪と蒼い目の女性従業員は照れたような恥ずかしがるような赤面で言った。
「あの…手続きやその他諸々はルミス様がもう済まされていますので大丈夫です…」
消え入りそうなその声は、やけに静まり返ったロビーによく響く。
「あぁ……そう、ですか。ありがとうございます…」
気遣いは時に人を苦しめるらしい。
背後には需要のない拍手。
眼前には発熱を疑うほど赤面して俯く女性従業員。
「よかったな。ウルクラグナの有名人」
「俺このまま部屋行って寝ていいと思う?」
「いや駄目だろ。絶対叩き起されるぞカイに」
「………」
ニビとのやり取りの中、幼い子供に袖を引っ張られた。
何やら紙とペンを持って、何か言いたげに口をパクパクと動かしている。
「どうした?ちゃんと聞くからゆっくり話してみな」
視線を合わせて最大限明るい声で尋ねる。
するとその子は舞い散る花びらが見えてきそうなほど嬉しそうな顔でそれを差し出し、こう言った。
「ルミスさまの婚約者さま!サインください!」
「………ん?」
何を言っているのか分からず、数秒止まってしまった。
否、考えても分からない。
爆弾発言をした当の本人は、ちゃんと言えたことへの喜びでそれどころではなさそうだ。
俺が?ルミスの?婚約者…?
何歳差婚だよあいつの年齢しらんけども。
「お!いいな坊主!俺もサインもらお」
「じゃあ俺も!」
話をするだけだったはずが、いつの間にやら現場はサイン会へと変化している。
正直全くもって理解が追いつかなかったが、ヤケになった俺は強い。
「じゃあ1人ずつお願いしまーす」
完全に光を失った目と表情で繰り出された棒読みは、大体の人は「やっぱいいです…」と身を引くのかもしれないが、ここの人は違うらしい。
「おぉまじか!気前いいなお前さん!じゃあ頼むわ!」
目の前に広がる人の大行列。
かつて一度としてサインを書いたことのない少年は、ただ無心で白い紙に自分の名前を書き始めた。
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