転生したら防御チートを手に入れたのでので死亡予定の悪役令嬢を守ってみせる

ユーガ

別れを乗り越えて

俺達を庇ったのはアテナ様だったのだ。
  アテナ様は心臓を貫かれ、口から血を流している。




「……アル、すまんな……お前に何もしてやれなかった……」


  アテナ様は目に涙を浮かべながら悲観するように言った。




「そんな事ないです。アテナ様は俺に色んな事を教えてくださいました!  だからそんな死ぬみたいな言い方止めて下さい!」


  俺はすがり付くようにアテナ様の手を握った。
  まだほんのり温かみがある。




「もう手遅れだ……自分の死ぐらいわかる……最後にアル、頼みたい事がある」


  アテナ様は俺の手を強く握って涙目で言った。
  その目には覚悟があった。




「何でも言ってください!」




「守護神の座を引き継いでくれ……そして、この世界を守ってくれ……」


  守護神の座を引き継ぐ……?
  神の座を引き継ぐという事は神になれと言うことか?




「それは……俺に神になれと?」




「その通りだ……頼んだぞ……それとセリィ、お主には心強い仲間がいるではないか……安心しろ」


  どんどんアテナ様が俺の手を握る力が弱くなっていく。
  瞼も少しづつ閉じてきている。




「嫌だ……!  アテナ様、死なないで!」


  俺は泣きながら懇願する。
  意味が無いと分かっていても回復魔法をかけ続ける。


  アテナ様は俺の手を再度強く握り、俺に笑いかける。




「アル、守護神として世界を守るんじゃぞ…………」


  そして、アテナ様は俺の腕の中で絶命した。
  それと同時に俺は自分が別の物になった感覚がした。
  何が変わったかは分からないが確かに違う。


  神の力を引き継いだ証なんだろうか。
  だがとりあえず俺はアテナ様を殺した破壊神をどうにかしたい。


  俺はアテナ様を優しく置き、立ち上がった。




「よくもアテナ様を……!」




「人間を庇うなんて馬鹿だよなぁ?  笑っちまうぜ」


  ぷつん。
  

  頭の中で何かが切れる音がした。
  それと同時に体の奥底からマグマのような怒りが込み上げる。




「アテナ様を……馬鹿にするなああ!!」


  俺は笑っている破壊神の顔に全力で拳を叩き込む。
  ボコッと鈍い音がし、破壊神は転がる。




「ああああああ!!」


  俺は倒れた破壊神に全力の魔法を放ち続ける。
  神になったおかげで魔力量は多く、威力も何十、何百倍と上がっている。




「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」


  我に返ると辺りは砂煙で覆われて、周りにはクレーターが大量に出来ている。




「ゴホッゴホッ!  はぁ……危ない危ない」


  砂煙が晴れるとそこにはかすり傷程度しか傷ついていない破壊神がいた。




「何で……あんなに魔法を撃ったのに……」




「いいか神初心者、神の力の源はな、人々の信仰心なんだぜ?」


  信仰心?  いかにも神らしいというか……
  だが破壊神であるあいつがそこまで信仰されているとは限らない。




「俺はな、それともう一つ。恨みや呪いの気持ちも力にしてるのさ。だから恨みの込もった攻撃は効かねぇんだよ」




「恨みの込もった攻撃が効かない……?  じぁこの気持ちはどうしたらいい!  あいつはアテナ様を!」


  俺がヒートアップして大声を上げているとセリィが後ろから俺を抱きしめた。




「アル、アテナ様を殺したあいつが憎いのは分かる……でも、アルがやるべき事はそうじゃないでしょ?」




「何言ってんだ俺は……!」




「アテナ様はこの世界を救え、って言ってた……あなたがやるべき事は仇討ちじょなくて世界を救う事、そうでしょ?」


  俺は何て馬鹿な考えをしていたんだ。
  恨みや憎しみは何にもならない。新しい恨みを生むだけだ。


  俺のやるべき事は世界を救う事。
  アテナ様、俺はやってみせます。
  だから安心して眠ってください……




「すー……はー……」


  俺は深呼吸してもう一度破壊神を見る。
  俺の中にはもう怒りは無い。
  あるのはアテナ様との約束、それだけだ。




「破壊神、俺は世界を救う」




「そうか、だが俺は破壊神。壊すのが特技でなぁ?」


  破壊神は小太陽に加え、純粋な魔力弾も生成する。
  高濃度かつ、大量。
  そんな小太陽と魔力弾が破壊神の周りを漂う。






「悪いが容赦はしない。邪魔するなら死ね」


  破壊神の周りを漂っていた小太陽と魔力弾は一瞬で俺の周りに移動し、一斉に降り注ぐ。




「神・アイギスの盾」


  俺は自身の周りにアイギスの盾を発動する。
  これが神の力。破壊神の猛攻をしっかりと防いでいる。




「何故だ!  アテナはこれ程までの力は無かったはず!」


  破壊神は攻撃を全て防がれてかなり驚いている様子だ。
  そんなの俺にだって分からない。
  初めて使う力なのだから。




「恐らく、俺達を含めて王宮にいる人々や魔大陸に住む人々全員がアルを応援しているからだと思う。言うなれば全世界がアルを信仰しているから今のアルは破壊神を上回る……!」




「さぁ破壊神、覚悟してもらおうか。この世界は壊させねぇぞ」


  俺は圧をかけながらジリジリと距離を詰める。
  それと同じように破壊神は後退していく。




「く、くそ!  破壊神を舐めるな!    血に染まる紅月ブラッディムーン!!」


  すると空から血のように赤く燃えている"月"が落ちてきたのだ。
  

  奴は月をも動かす力を持っていたのか。
  とりあえず被害が出ないように空中に行かないと……!


  俺が空へ飛び立とうとすると破壊神が楽しそうに笑った。




「ここを離れて良いのか?  お前がいない間にお仲間全員殺すかも知れないぜぇ?」


  チッ、とんでもない下衆野郎だ。


  だが、どうしたものか……
  奴の言う通りここは離れづらい。




「アル、行ってこい。俺達なら大丈夫だ。何たってここには勇者パーティーも魔王もいるんだからな」


  レインと魔王は肩を組んで俺に笑いかける。
  勇者と魔王の共闘か、それなら問題なさそうだな。




「だってよ、破壊神。俺の仲間は手強いぞ?」




「ぐっ……させるか!」


  破壊神は俺を止めようとする。
  しかし、その前に皆が立ちはだかる。




「しばらく相手してもらうぜ、破壊神」


  俺は破壊神を一旦任せ、空へと飛び立つ。
  魔法防護で放射線等からも身を守る。
  もちろん呼吸も出来る。




「あれだな」


  視線の先には赤く燃える月がある。
  さて、どうしようかな……


  ただ壊すだけでは何か勿体ない。
  そうだな……あ、使うか、これ。




「とりあえず念話っと『皆、アルだ』」


  俺は仲間に念話を試みる。
  初めて使うから使えるか心配だが……




『どうした?』『これは……念話?』『頭の中にアルの声が……』と様々な声が聞こえてくる。


  成功みたいだ。




『やつをこっちに転移させたいんだが一人分の魔力だと距離が足りない!  だから空に奴を吹っ飛ばしてくれ!』


  結構無茶なお願いをしているが……大丈夫か?




『言ってる意味が分からんが……やってみる!』
『無茶させんなよ……やるけど』
『任せなさい!』




『ああ、頼んだ!』




――フロウサイド――


  全く無茶言う奴だ、アルは。
  破壊神を空に打ち上げろ?  
  死なないように逃げるので精一杯なのに……




「みんな、連携でやるぞ!  後はアルが何とかしてくれる!」




「「「おう!!」」」




付与魔法エンチャント:サンダー、パラライズバレット!」


  マーリンが麻痺属性を持つ魔弾を放つ。
  それを受けて、破壊神の動きが一瞬だけ止まる。


  だが、それで十分。


  俺は地面を蹴り、破壊神の懐に潜り込む。




衝撃斬インパクト・ブレード!!」


  俺は斧で破壊神を打ち上げ、更に衝撃波で加速させる。
  それに続き、ゲーデルが剣を投げて移動し、破壊神を待ち構える。


  ここまで0,02秒。




「コール[バウンド・ハンマー]」


  ゲーデルは剣からハンマーに持ち変え、破壊神を待ち受ける。
  そして、ちょうど破壊神がゲーデルの真横に来たその時、




「昇り龍!」


  ハンマーを振り上げ、破壊神を更に高く打ち上げる。
  そしてバウンド・ハンマーは上向きに振り上げる時にその効果を最大限に発動する。


  跳ねる。


  トランポリンのように破壊神は勢いを更に足され、更に上空へと舞い上がる。


  ここまで0,06秒。


  最後に待つのはレイン。
  結界で足場を作り、破壊神が舞い上がってくるのを待つ。


  恐らく破壊神を麻痺で止めておくのは0,1秒程が限界だろう。
  少しのタイムロスも許されない。


  来た!




「ここだ!  聖剣エクスカリバー、解放!  行っけぇぇぇぇ!!」


  レインはエクスカリバーを巨大化させ、最後の一押しをする。
  これで恐らくアルも届くだろう。
  俺が今いるところが成層圏なのだから。


  アル、俺達が出来るのはここまでだ。
  後は任せたぞ。






――アルバートサイド――


  …………来た!  みんなが繋いでくれたバトンが見えた!


  俺は微かに感じられた破壊神を紅月の中心に転移させる。
  紅月には少し手を加えさせてもらった。




「……ここは紅月の中か!?  こんなもの壊してやる!」


  破壊神は中で月を壊そうと暴れている。
  とりあえずアイギスの盾で防護してあるのでしばらくは大丈夫だ。
  だがそれだけでは無い。




「ん?  移動しただと?  ここは……最果ての惑星!?  まさか!」


  俺が紅月に加えた細工とは破壊神が作った巨大な太陽への転移魔法だ。
  

  転移魔法を仕掛けるにはかなりの魔力が必要だったが神の力を全て使って完成させた。
  おかげで俺はもう神ではなくただの人間だ。




「お前の魔法だから恨みとかは関係ないよな。せいぜい太陽の中で罪を償うんだな」




「そんな……この俺があ!!  くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


  そして太陽ごと破壊神は消滅した。




「アテナ様、俺、やりましたよ……」


  俺はそのまま地上に向かって落ちていった。
  とっくに体は限界を超えていたらしい。

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