転生したら防御チートを手に入れたのでので死亡予定の悪役令嬢を守ってみせる

ユーガ

"新世界"の化け物

「おはよう、アル」


  フロウとナージャは夜中に帰ってきたみたいで俺はその時には寝ていたので気づかなかった。




「ああ、おかえり。遅かったな」




「新世界の奴らをこっそり追っかけてたら結構時間がかかってな」




「それで、何かわかったのか?」




「ああ、アジトの場所が分かった。そっちは?」




「ちょっと戦ったよ。今は魔力反応でいつでも探せるぜ」




「戦ったのかよ。で、俺達が突き止めたアジトの場所がメイル商会の地下なんだがそっちは?」




「ああ、魔力反応もそこにある。間違いないだろう」




「じぁ、今日はそこに行くので決定だな」




「あ、ちなみに合言葉はコンテニューな」




「なんじゃそりゃ」




「センス無いなー」


  それから俺達はメイル商会に向かった。
  メイル商会とはその名の通りメイルが代表の商業施設だ。
  王国一番の商会で人気もかなりある。
  そんな場所の地下に新世界がいるなんて考えたくないな……




「ごめんくださーい」


 

「いらっしゃいませー。今日はどんな御用で?」


  俺達が中に入るとすぐに店員さんが奥からでてきた。




「……コンテニュー」


  俺は小声でそう言った。
  すると店員さんは驚いた顔をして何も言わず、奥の部屋に連れていってくれた。


  その部屋には机も椅子も何も無い。




「ローブを着ていないみたいだが何者だ?」


  部屋に入った途端、定員さんがそう聞いてくる。
  すんなりは入れてくれないか。
  黒ローブ来てくるべきだったかもな。




「入団希望者だ。詳しくは知らないからよく教えてくれないか?  それから考える」




「入ってからじゃないと教えられないな。嫌なら帰れ」


  なんて物言いだ。こんな奴がサービス業やってんのかよ。
  まぁ、こいつも新世界の仲間なんだろうな。




「分かった。入る」


  みんなが目を見開いてこちらを見てくる。
  正気か!?  と言いたいようだ。まぁ待て。




「ただし入るのは俺とこいつの男二人だけだ。いいか?」


  フロウは更に驚いて俺を見る。
  なんか……すまん……
  セリィとナージャはホッとした表情をしている。




「ああ、いいぞ。じぁ女二人は部屋から出てくれ」


  そう言われてセリィとナージャは部屋から出ていく。
  

  それを確認して店員は部屋の奥にある絵をズラした。
  するとそこにボタンがあり、それを店員が押すと部屋の真ん中が開き、地下への階段が現れた。




「こっちだ。着いてこい」


  そう言って店員は下へと進んで行った。
  俺も行こうとするとフロウが肩を掴んできた。




「おい!  なんで俺もなんだよ!」




「何だ?  お前は敵の本拠地に俺一人で行けと言うのか?」




「いや……そうだな。覚悟を決めるぜ。セリィとナージャには行かせられないしな」




「さぁ、行こう」


  俺達も地下へと進んで行った。
  そこはいかにも悪の組織、という訳ではなく言うなれば彫刻好きなお金持ちぐらいの場所だった。
  だが、その彫刻どれもが悪魔とそれに苦しめられる人々がテーマらしい。






「ボスの所に連れていく、そこで入団試験だ」


  いきなりボスに会えるのか。
  こんなヤバい集団を束ねるボス……どんな奴なんだ。


  部屋に入ると目の前に椅子に座っている人がいた。
  仮面を被っていて、フードも被っているのにどんな人なのか全く分からない。
  そう簡単に黒幕は分からないか……




「ようこそ、新世界へ。僕はレン。君達が入団希望者だね?」


  ボスは若々しい声でそう聞いてくる。
  体格もそこまでごつくないし、若そうであまり強そうには思えない。本当にこいつがボスなのか?




「僕が本当にボスなのか疑ってるみたいだね。いいよ、その姿勢。何事もまず疑ってみるのが大切だ。証明してやろうじゃないか」


  心を読まれた!?
  だが、ボスの実力を見るいい機会だ。
  じっくり見せてもらおうじゃないか。




「じぁちょっと移動しようか。こっちだ。あ、お前達はついてこなくていい」


  レンは護衛を部屋に残し、別の部屋へと向かった。
  俺達もそれに続く。


  案内された部屋は何も無いただ広い部屋だった。




「うん、ここなら戦いやすい・・・・・ね」


  戦いやすい?  まさか!


  突如、レンから凄まじい魔力が放たれる。
  ダメだ、間に合わない!




召喚サモン[邪神アポピス]」


  すると、レンの頭上に黒い霧が集まってくる。
  そして、おぞましい巨大な蛇が姿を現した。




「何だ……あれは……」


  デカすぎる……
  グランミノタウロス、いやそれ以上だ。
  なんて化け物を従えてるんだ、こいつは!




「おい、アル!  何でバレてんだよ!」




「知らねぇよ!」




「ハッハッハ!  バレてないとでも思っていたのか?  あんなに大胆に嗅ぎ回っていたのになぁ!」


  くそっ、バレてたのか……
  セリィとナージャを帰したのは正解だったな。




「さぁ、アポピスよ。行け!」


  レンがそう言うとアポピスはゆっくりとこちらに近づいてくる。うぅ、迫力が凄い……




「シャァァァー!!」


  アポピスは俺たちに向かって唾らしきものを吐く。




「よっ!」


  俺は横に跳び、避ける。
  すると、唾が地面につくと地面が一瞬で溶けた。




「マジかよ……笑えねぇな……」




「ハッハッハ!!  ご察しの通りそいつに触れると何でも溶けるぜぇ?  調子乗って敵地に乗り込んできた割には随分と弱気だなぁ!?」




「くっ、フロウ、行くぞ!」




「おう!」




「縮地!」


  俺は縮地を使い、一瞬でアポピスの真下に潜り込む。
  こういうでかいヤツは詰められると弱いのさ!




付与魔法エンチャント:ブレイズ、焔剣!!」


  俺は剣に炎を纏わせ、腹を斬る。
  すぐに方向転換して飛び上がり、アポピスの上に乗って頭まで走る。




「パラライズショック!」


  俺はアポピスに触れ、麻痺させる。
  これは近接魔法の1つで対象に触れる必要があるが、大概のモンスターは麻痺させられる強力な魔法だ。




「よし、任せろ!  闘気連撃斬!!」


  フロウは目にも留まらぬ速度で斧を振り上げ、振り下ろす。
  攻撃をする度にフロウのスキルの効果で力と素早さが上がっていくのでどんどん一撃が速く、重くなっていく。


  そろそろ離れないとやばいな。




「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


  俺が離れた直後、フロウがアポピスを吹き飛ばす。
  巨体が宙を舞う。その先にはレンがいる。




「ま、待て!  こっちに来るな!  うわあああ!!」


  ドォォォン!!


  レンの魔力反応が消える。
  潰されて死んだか……
  なんか呆気なかったな。


  だがこっちはまだまだみたいだな……




「シャァァァ……」


  アポピスは体を起こし、こちらを向く。
  完全にキレてるな。


  よく見ると首についていた隷属の輪が無くなっている。
  

  隷属の輪とは従魔契約した魔物につく首輪のようなものでこれをつけると主人には逆らえないのだ。
  他にも色々な能力があったのだが、こいつには弱体化が付けられてたみたいだな……
  

  さっきまでとは比べ物にならないほど強くなっている。




「おいおい、隷属の輪が無くなったってことはこいつ……」




「シャァァァー!!」


  アポピスは俺達を無視して、地面に入っていき、地上へと向かった。




「まずい!  あんな化け物が街に出たら……」


  主人がいなくなった今、あいつは野生のモンスターだ。
  ただ破壊行為を繰り返すだけの魔物だ。
  それにあの強さだ、すぐには討伐できない。


  それまでに一体どれほどの被害が出るだろうか。
  考えただけでもゾッとする……




「追いかけるぞ!!」


  俺達はアポピスが開けた地上への穴から地上に出る。
  するとそこは既にアポピスによって破壊し尽くされていた。


  あんなに綺麗だった街並みも跡形もなく、あるのは瓦礫と死体だけ。




「今すぐ止める!  街が破壊し尽くされる前に!  フロウ、皆を呼んでくれ!」




「分かった!!」




「さぁ、やるか!」


  クリア条件は味方が来るまで街の防衛、敵は神の名を持つ巨大蛇。
  かなり厳しいがってやろうじゃないか!




「お前の相手はこっちだぞー!」


  俺は近くにあった瓦礫をアポピスに投げつける。
  アポピスはそれに気づいてこちらを向く。


  とりあえず、広いところまで誘導しないとな……
  それも被害を出来るだけ抑えて。




「とりあえず……防御力移動:アポピスから俺」


  俺はアポピスから防御力を吸い取っていく。




「シャァァァ!!」


  アポピスは取られているのに気づいたのか、突進してくる。
  避けられないな……




「アイギスの盾!!」


  俺は目の前に巨大な光の壁を作り出し、アポピスの突進を正面から受け止める。
  くそっ!  受け止めるだけで精一杯だ……!




「シャァァァー!!」


  周りから魔力が集まっていき、アポピスの頭が紫色の光を帯びていく。
  まずい……逃げないと!


  そう思った瞬間、紫色の光が辺りを埋め尽くす。
  俺は衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされてしまう。




「ゴホッゴホッ!  何が起きたんだ……?」


  俺は周りを見渡して絶望した。
  俺が盾を発動した直線上以外、更地になっていた。
  王城は結界で守られていたがそれ以外はもう何も残っていない。


  俺の後ろの街はギリギリ残っているが、風圧で家屋などは全壊している。




「あ、あいつは!?」


  俺はアポピスを探す。
  すると先程までアポピスがいた所には何も無かった。




「どこだ?  絶対近くにいるはずだ……!」


  ゾワッ……!


  俺は凄まじい殺気を感じてその場から離れる。
  すると、


  ドゴォン!!


  さっきまで俺がいた場所に巨大なクレーターが出来た。
  俺は魔法が落ちてきた頭上を見る。




「何でだよ……何であんなのがいるんだよ!!」


  そこにいたのは禍々しいオーラを纏った漆黒のドラゴン、伝説のカオスドラゴンだったのだ。

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