傷心ヘタレが異世界無双!?~ユニークスキル【臆病者】って馬鹿にしてる?~

ユーガ

ピィの本気

「ん?  行き止まりか……」


  俺達は恐らく最後の部屋までなんとかやって来た。


  道中、落とし穴などのトラップもあった。
  ヒロが助けてくれたので落ちることは無かったけど。




「多分ここが最後の部屋でしょうね……」


――ハル、気をつけろ。凄い殺気を感じる。


『奥に怖いモンスターがいるの……』


  ああ、僕も感じてる。
  奥に何かいる。




「ヒロ、奥に……」




「ああ、フェンリルドラゴンだ。間違いない……」


  僕はあまりの殺気に一歩後ずさりする。




「ガォォォ!!」


  その瞬間、奥から何かが目にも止まらぬ速さで飛びかかってきた。




「うおっ!?」


  僕は咄嗟に横に飛び、それを躱す。




「ほほう、今のを避けるか……なかなかやるようだな」


  僕は飛びかかってきたものを見るとそこには巨大なモンスターがいた。
  フェンリルに翼と長い尻尾をつけたような見た目で正直言うとアンバランスでかっこ悪い。


  フェンリルドラゴンとか言うから期待してたのに……


  カッコイイ×カッコイイ=カッコイイじゃなかったらしい。




「はぁ……」


  つい、ため息が出てしまう。
  僕の期待を返せ!




「何故ため息をついた!?  まさかお前もこの見た目を馬鹿にすると言うのか!」




「いや別にそんなつもりは!」


  僕は慌てて否定する。
  ヘイトを向けられるのはゴメンだ。




「待て、お前も、とはどういうことだ?」




「ああ?  さっき来たやつも我の事をダサいだの言いよったのだ!
封印を解除してくれたのは感謝しているが腹が立ったので攻撃したらどこかに転移したのだ!」




「封印を解除って……」




「ああ、また奴らだ」


  また魔術師が関係しているのか。
  本当に魔術師達は封印を解除して回って何がしたいのだろうか。




「なぁフェンリルドラゴンよ。ここで大人しくしていてくれないか?  人間に被害が出てしまうんだ」


  ヒロがダメ元で説得を試みる。




「お断りだ!  我は我をかっこ悪いなどと言った人間共を絶やさねばならん!」




「説得は無理か……」




「モンスターですからね……戦うか!」




「だな!」




「我はカッコイイんだ!!」


  フェンリルドラゴンは僕に突進してくる。




「大障壁」


  ヒロは僕の後ろに大きな土の壁を生み出す。




「明鏡止水!」


  そして、僕は村正で受け流す。
  そして振り向き、カウンターに転じる。


  フェンリルドラゴンは角が壁に刺さって動けなくなっている。




「うおお!」


  僕は飛び上がり、背中に斬りかかる。




「アオーン!!」


  フェンリルドラゴンは吠える。
  すると空気がビリビリと震え、それと同時に体も動かなくなり、何も出来ぬまま地面に叩きつけられる。




「なっ!?」




「これは……ハウル!?」


  え?  ハウル?  あのお城?  ……違うか。




「ガォッ!!」


  フェンリルドラゴンはその鋭利な爪を振るう。
  すると、爪から風の刃が飛んでくる。


  何とか逃げようとするが体が全く動かないので風の刃が僕を襲う。




「ぐあっ!」


  風の刃は僕の腹部を切り裂く。
  腹部からかなり出血をしてしまう。




「エクスヒール!」


  僕が痛みで膝をついているとヒロが高位の回復魔法をかけてくれる。
  ヒロから放たれる優しい光は僕の傷を癒していく。




「ありがとう。ヒロ、回復魔法も使えたんだね」




「魔法が得意なだけだよ。さぁ、集中力して」




「おう!」




「ピィ!!」
『ハルを怪我させるやつは倒すの!』


  そう言ってピィはドリルのように回転しながらフェンリルドラゴンに突進する。


  その瞬間、フェンリルドラゴンの翼に穴が空いた。




「ぐおおお!?」




「ピィ、凄いよ!  変身しなくても強いんだね!」




『ピィ凄いの?  嬉しいの!  もっと頑張るの!』




「お前の従魔、強いんだな」




「まぁドラゴンですからね。来ますよ!」




「グルオオオオ!!」


  フェンリルドラゴンは怒りで完全に我を失っている。
  冷静な判断が出来なくなったモンスターの攻撃を避けるのは容易い。


  フェンリルドラゴンは爪の連撃を放つ。
  爪を振る度に風の刃が生まれる。
  僕はそれを明鏡止水で淡々と受け流す。




「アオーン!!」


  確実に攻撃を当てるためか今度はハウルを発動する。
  僕はそれを耳を塞いで防ぐ。




「かかったな!!  風竜巻ウインドストーム!」




「何っ!?」


  その瞬間、僕の周りに竜巻が生まれる。


  その竜巻は僕の全身を切りつける。
  さすがに全方向から攻撃されたら逃げるところも無いので防ぎようがない。




「ぐああああ!!」




「ハル!!  」


――ハル、弐の型を使え!




「分かった……村正、弐の方、破魔の剣!」


  僕はそれで周りを斬る。
  すると、魔法が霧散する。




「何だと!?  魔法を斬っただと!?」


  フェンリンドラゴンは大魔法を無効化されて驚いている。




「まだまだぁ!  村正、壱の型!」


  俺は村正に禍々しいオーラを漂わせ、フェンリルドラゴンに向かって走り、斬り掛かる。




「くっ、風神の気ウインド・オーラ!」


  フェンリルドラゴンは自身の周りに吹き荒れる鎌鼬を纏い、僕の接近を拒む。


  これじゃ近づけない……!


  僕は一度距離を置く。




「ピィピィ!」
『ハル、任せて!  すぐに終わるの!』


  僕が困っているとピィが自信ありげにそう言ってきた。
  

  そう言ってくれるなら任せるけど大丈夫?




「ピィー!  ピィ!」
『僕は強いの!  でも皆危ないから離れてての!』


  分かった。とりあえず部屋の入口位まで離れとくよ。




「ヒロ、ピィが何とかしてくれる!  巻き込まれないように離れるよ!」




「ピィが?  まぁ、分かった。何かあるなら任せよう」




「ピィ、もう大丈夫だよ!」




「ふっ、そんなチビドラゴンにやられる程我は弱くないぞ!」




「ピィ!!」
『チビって言ったの!  絶対許さないの!』


  うわ……ピィを怒らせちゃった……


  ピィが魔力を解放するとピィの体を真っ白の眩い光が包み込む。
  そしてピィは 火山で見た巨大な龍に変身する。
  いや、気のせいか火山で見たのよりも大きい。




「変身しただと!?  そんな龍我は知らんぞ!?」




「ピュオオオオオ!!」


  純白の鱗の龍は大きな口を開けて咆哮し、フェンリルドラゴンに突進する。




「馬鹿め!  これがある限り誰も我には近づけん!」


  ピィはあの鎌鼬をどうするつもりなんだ……?


  ピィはそのまま速度を上げた。
  魔法もスキルも発動する気配がない。
  まさか特攻!?




「さぁ、来い!  切り刻んでやる!」


  ピィは鎌鼬を纏って待ち構えるフェンリルドラゴンにそのまま突進し……


  パクッ


  何と、食べたのだ。




「え?」




「ピュオォ!  ピュオ?」
『やったの!  ハル、僕偉い?』




「う、うん……それより鎌鼬で体内ボロボロになってない?」




「ピュオオ!」
『僕の体の中は魔法を無効化するんだよー!』


  あらま……




「おいハル、お前とんでもないもの連れてるな……」




「僕でもびっくりしましたよ……」


  もしかしたら村正とピィを仲間にしている僕は思ったよりこの世界では強いのかもしれない。




「ピィ!」
『何だか力が湧いてきたの!』


  ピィは元の大きさに戻っていた。
  そしてフェンリルドラゴンを食べて得た風魔法で町まで連れていってくれた。




「ハル、ありがとう。次はどこに行く予定なんだ?  一緒なら同行するが……」




「王国に行こうかと思って」




「逆だな……じぁまぁ大丈夫だと思うが気をつけて」




「ありがとう」


  こうして何だか締まらない結果だが僕達はクーリアを後にするのであった。

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