傷心ヘタレが異世界無双!?~ユニークスキル【臆病者】って馬鹿にしてる?~

ユーガ

ヘタレの決意

ザシュッ


「……え?」


「ガハッ……レイナ、大丈夫……か?」


「どうして!フィリップ!」


フィリップがレイナを庇ったのだ。


「俺のスキル……カバーでレイナを庇ったのさ……」


「フィリップ、今治すから!
汝の傷を……」


「無駄だ……レイナ、よく聞け……
    必ず親父を助けるんだぞ……」


レイナの手を握っていたフィリップの手が力を失う。


「フィリップさん!!」


「フィリップ!!」


「ガッハッハッ!!馬鹿め!オンナを助けて自分は死ぬだなんてな!」


「フィリップを馬鹿にするなあああ!!!」


レイナは牧師に魔法を撃ちまくる。
だがギガントタイガーにそれを阻まれる。


「ガッハッハッ!無様だな!
自分が弱えばかりに男を死なせ、俺に攻撃も当てられない!
安心しろ、すぐにお前もあいつの元へと送ってやる!やれ」


牧師の合図とともにギガントタイガーがゆっくりとレイナに近づいていく。


クソっ、体が動かない!
ダメージはポーションを使ったので大丈夫なはずだ。なのに!
僕は大事なときに動けないのか!


「くそぉぉぉぉぉぉ!!」


ギガントタイガーの爪が振り上げられる。


「レイナは僕が守るんだあああああ!!!」


動いた!


僕は臆病な心を振り払ってレイナの元へと走る。


ギガントタイガーの爪が振り下ろされる。


間に……会えぇ!!


僕は脇差で爪を受ける。


受けきれない!
ならっ!!


爪の進行方向に僕は受け流す。


「レイナ!下がって!」


「でも……」


「大丈夫、僕に任せて」


僕は笑顔でレイナにそう言った。
もちろん笑っていられる状況じゃない。
まともな対策方法もない。
それでも僕はギガントタイガーと向き合う。


「ハッ、僕に任せてだとぉ?1度攻撃を受け流せただけで何いい気になってんだぁ?
こいつはCランク上位のギガントタイガーだぜ?」


「相手が何であろうとやることは変わらない!」


「ハァ……そうか。行け」


来るっ!


ギガントタイガーがこちらに向かってくる。


そして僕は奴の体の下に潜り込む。


こういう体の大きい魔物は体の下に行くのが1番だ!


僕は引きこもり時代にやっていたモンスターをハントするゲームの知識を活かす。


下に潜り込んで腹を斬りながら後ろに回る。


やっぱり腹は弱点だったな


ギガントタイガーは弱点をつかれて怒り狂う。
そしてすぐに振り向き、爪の連撃を繰り出す。


受け流しきれない……!


僕は数発は受け流すことは出来たが、全ては受け流しきれず、まともにくらってしまう。


僕は壁に打ち付けられたがすぐに立ち上がり、脇差を持ち直し再び突進する。


「ふっ!」


今度はギガントタイガーの顔に向かってペンキ玉を投げつける。


よし、目を眩ませた!
そんでからっ!


僕は飛び上がり、ギガントタイガーの顔に乗る。


ギガントタイガーは嫌がるように僕を振り払おうとする。


足でなんとか捕まり、脇差を逆に持ち、右目を潰す。


ギガントタイガーは更に激しく動き、僕は振り落とされてしまう。


だか良かった、片目だけでも潰せた!


「ガルルッ!」


ギガントタイガーが吠えると刹那、


ゴロゴロドガーン!


黒い雷が落ちてきたのだ。


嫌な予感がして後ろに飛んだが間に合わず、掠ってしまう。


体が……痺れる……


「ハル!えっと……ケア!」


レイナから放たれた光が僕を包むと体の痺れが消えた。


「痺れ効果がある雷か……」


「当たり前だろ?こいつがなんのスキルも使えないとでも思ったのか?」


そうだ。僕はその攻撃、その攻撃に夢中でそんなことも考えられていなかった。


奴はまだ本気を出していなかったのだ。


それから斬っては壁に叩きつけられ、斬っては叩きつけられを繰り返した。


たまに黒い雷が降ってくるがそれはレイナが治してくれる。


ヒールもして欲しい所だがヒールは近距離出ないと使えないらしい。
もう1つ上のランクのヒーリングだと遠距離でも大丈夫らしいが。


ヒールして貰えないため、ダメージはどんどん溜まっていく。


今は脳内麻薬ドバドバなので動けているが、それもそろそろ限界を迎え始めている。


身体中が悲鳴を上げている。


「どうしたぁ?もうボロボロじゃねぇかよ!そろそろ諦めて死んだらどうだ?」


「僕は、諦めない!」


「どうして……そんなにボロボロになって、勝てる見込みなんて無いのに……」


「僕は今まで辛くなったら逃げてきた。誰かが困っていても無視して逃げてきた。でも!そんな自分はもう嫌なんだ!」


「ハル……」


「うおおおおあああ!!!」


「ハル、頑張れ!!」


[スキル【明鏡止水】を獲得しました]


ん?スキルを獲得した?
どういったスキルだ?
ステータスで確認している暇なんて無い。
とりあえず使ってみるしかない。


「明鏡止水!」


「……ん?」


「おかしい、何も起こらない……」


「一体何をするかと思えば、拍子抜けだなぁ!もう終わりだな、やっちまえギガントタイガー」


「クソっ!」


僕はギガントタイガーの攻撃に備える。


ギガントタイガーは爪を振り下ろす。


すると


カキィン!


自然と体が動き、カウンターをする。
それだけでなく、今まで全く刃が通らなかった腕に傷を付けることが出来た。


「もしやこれが明鏡止水の能力……」


腕に傷を付けられたギガントタイガーは驚いたようにこちらを見ている。


そして、これなら!と爪の連撃を繰り出す。


「明鏡止水!」


再び自然と体が動き、全ての攻撃を受け流す。そして連撃が途切れた瞬間、先程よりも早い速度でカウンターを繰り出す。


今度は右腕を切り落とすことが出来た。


「なっ!何故だ!
奴の腕はまともに傷すらつかない程硬いのだぞ!
それを切り落としただと!?」


腕を切り落とされたギガントタイガーは明らかに狼狽えている。


そして僕は飛び上がり


「スラッシュ!!」


ギガントタイガーの鼻先から縦に斬る。


苦しそうに唸った後、ギガントタイガーは霧となって消えていった。


「う、嘘だ……うわあああ!!」


「逃がさない!」


僕は逃げようとする牧師を捕まえる。


「ここから出せ」


「ハル、解毒剤手に入れたよ!」


「わかった……」


牧師は服の中から魔道具らしきものを取り出し、ボタンを押した。


すると階段が通れるようになった。


「じぁな」


「すまねぇ、俺なんにも出来なかった……」


「気にやまないでくださいマックスさん。
それに、まだやることはあります」


僕達はまず最下層の倉庫に行き、棺桶みたいな形をした箱にフィリップさんの死体を入れた。
アジトに持ち帰って近くに埋めるようだ。


「さぁ行きましょう」


「おう」


「うん」


僕達は階段を上り、特別房へと向かった。


――特別房――


「お父さん!今度こそ助けに来たよ!」


「聖水ぃ……聖水を寄越せぇ!!」


「レイナ、解毒剤を飲ませて」


「治ってね……えいっ」


レイナは解毒剤を父親の口の中に流し込んでいく。


「うがっ、ゴホンゴホン!」


「どう?お父さん……?」


「……レイナ?」


「お父さん!良かった!」


「オレは今まで何を……」


「詳しい話は戻ってからしましょう、マックスさん」


「おう!解錠アンロック!」


ガチャンと音がし、レイナのお父さんが房から出てくる。


「ありがとう、お前達」


「さぁ帰りましょう!」




――反教会派のアジト――


「フィリップ、お父さんを助けられたよ。ごめんね、ありがとう……」


アジトに帰るとまずフィリップさんの埋葬が行われた。
この世界でも火葬を行うらしい。
もっともアンデッドとして復活しないためらしいが。


「それで、お父さんは何故捕まったのですか?」


「俺は教会の秘密を知ってしまってな」


「それはどんな?」


「あの尋問の時に使われた聖水は洗脳の魔法がかけられてたが、普段教徒に配っているのは洗脳魔法は弱くしかかけられていない」


「というと?」


「教徒に配られているあの聖水は身体強化の魔法がかけられているらしいんだ」


「身体強化か……それにどんな問題があるのですか?」


「実はな、この身体強化魔法は普通のもんじゃないんだ。聖水を使った人はバーサーカーになるらしい」


「バーサーカーか……」


「なぁ、バーサーカーってなんだ?」


「マックスは知らないのか。バーサーカーってのはな身体能力が劇的に上がる代わりに敵味方構わず暴れ回ってしまうんだ」


「それなら教会も大変なんじゃ?」


「そこで洗脳魔法さ」


「そうか!」


「待ってくれ、どういうことだ?」


「バーサーカー状態になっても洗脳しておけば教会のために動くようになる。そうすれば教会の思い通りに動く、無敵の兵隊が完成するってことだ」


「それは大変だな」


「だからこの国は戦争に負けたことが無いのさ」


「まぁとりあえずお父さんを助けることが出来て良かったです」


「ありがとうな」


終わりよければ全てよしとは行かないが、この先なんとかやっていけそうだ。


そんな風に僕とレイナのお父さんとマックスさんと話していると反教会派の仲間が焦ったように入ってきた。


「ハルさん!あんた指名手配されてるよ!」


前言撤回、前途多難だ。

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