魔法使いが迫害される世界で賢者の弟子になります!

ユーガ

プロローグ

  きっかけは小学校五年生くらいの頃、家族で旅行に行っていた時だ。
  その日は山に来ていたのだがその日はあいにくの雨で、車で帰ることになった。




「お父さん、雨凄いね」


  隣で心配そうに父に声をかけるのは妹の愛莉だ。
  崖にあるこの道路をこんな大雨の中通るのは不安なんだろう。
  

  俺だってそうだ。
  いつ土砂崩れが起きるかヒヤヒヤしている。




「大丈夫、お父さん達は何回も来てるから」


  お父さんは車を運転しながら優しい声で愛莉に言った。
  うーん、そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ……




「お父さんの運転なら大丈夫だからあなた達は寝てなさい。もう夜だからね」


  お母さんは助手席から振り向き、優しい表情でそう言った。
  俺はやはり心配だったのに窓から山を見ていた。


  しばらく見ていても特に何も無いので寝ようかと思ったその時、パラパラと小石が落ちて来たのが見えた。




「お父さん!  スピード上げて!  土砂崩れ!」




「くそ、ちゃんと捕まれよ!」


  お父さんはスピードを一気に上げる。
  その直後、


  ドドドドド!!


  と地面を揺らしながら大量の土砂が崖の上から一気に流れてくる。
  大量の土砂は木をなぎ倒し、石をも巻き込み、かなりのスピードで流れてくる。




「お兄ちゃん、大丈夫かな……」


  愛莉は目を潤ませて体を寄せてくる。
  俺は愛莉を抱き寄せる。




「大丈夫、きっと助かる……」


  すると、目の前に木が倒れてくる。
  雨で地面が緩くなって倒れてきたようだ。


  大変だ、道が塞がれた……それより……




「ぶつかるぅ!!」


  お父さんは全力でブレーキを踏む。
  だが、かなりのスピードが出ている上、雨で地面が滑りやすくなっているため、すぐには止まれない。




「みんな、衝撃に備えろ!!」


  ドォン!


  俺達の乗っている車は目の前の木にぶつかり、そのままガードレールも飛び越え、崖から落ちた。


――――――――――――――――――――――――――――


「このままだと死んでしまう……とりあえずこれで魂を繋ぎ止めて……」


  気がつくとそこは森の中だった。
  上を見てみると酷く壊れたガードレールが見えた。
  恐らくあそこから落ちてきたんだろう。
  

  自分の体を見てみると着ていた服はボロボロで血だらけだ。
  更に全身から血が出ているが、何故か痛みは感じない。


  誰か知らない声が聞こえるけど助けてくれたのかな……?




「……聖なる魔力よ。再生回復リゼネレーション・ヒール


  女性が何かを呟き、俺の体に手をかざすとみるみるうちに傷が癒えていく。
  どういうことなんだろう?
  もしかして……夢?




「うっ……」


  起き上がろうとするとずっと寝ていたせいか腰が痛んで声が出てしまう。




「大丈夫?」


  目の前にいた女性は金髪で目が青色の外国人の様な見た目の人だった。
  ただ明らかにおかしいのが、服がよく映画で見るようなドレスだったのだ。




「うん。それより家族は……?」


  俺だけじゃなく、お父さんもお母さんも妹も一緒に落ちてきたはずだ。
  みんなも怪我しているはずだからとても心配だ。




「……ごめんなさい。助けられたのはあなただけよ……」




「え……」




「あなた以外全員、既に手遅れだった。せめてまだ助かるあなただけでも……って」


  金髪の女性は申し訳なさそうに下を向いた。
  

  そんな訳がない、これは夢なんだ。そうに違いない。
  実際はみんな生きてて俺は病院で夢を見ているだけなんだ。


  じゃないと傷が一瞬で治ったのに説明がつかない。




「……さっきのは?」


  あのリゼネなんたらってやつだ。
  一瞬で傷が癒えたんだ、あんなの今までに見たことがない。




「……隠しても意味無いわね。あれは、魔法よ」




「魔法……」


  魔法、あの火を出したり、雷を落としたりするあの魔法だ。
  魔法があるなんてもうこれは夢で間違いない。


  そう絶対に……夢なんだ……




「えぇ。救助を呼んでたんだけど……あ、来たわね。じぁ私はここで」


  金髪の女性は救助隊のヘリを見るとその場から立ち去ろうとする。




「待って!  お姉さん名前は?」




「ルーナよ」




「おーい、そこの君ー!  大丈夫かー!?」


  すると、崖の上から救助隊の男性が声をかけてきた。




「お姉さん、ありがと……ってあれ?」


  救助隊が来たことを確認した後、金髪の女性の方に振り返るとそこには誰もいなかった。




「君、服が血だらけじゃないか!  怪我は……無いだと?」


  ヘリに俺以外誰も家族が乗っていないのを見てやっと家族が全員死んだことを実感した。
  さっきは魔法やらなんやらで夢見心地だったがこうして周りに知らない人ばっかりいると一人取り残された、と痛感する。


  夢じゃ……なかった……


  薄々気づいていて気づかないフリをしていたがもう間違いない。


  家族は皆……死んだんだ……
  だったらあの魔法も本当の事……?


  

  それから家族の居場所や、何故怪我が無いのに血だらけなのかしつこく聞かれた。


  病院に行って検査してもらっても傷があった形跡はあるがバッチリ治っていると驚かれた。
  

  知らないお姉さんが魔法で治してくれたと言ったら今度は精神科に連れていかれた。
  もちろん異常は無かった。


  

  家族を亡くした俺はその後色々あって静岡の親戚に引き取られた。
  これがまた酷いもんで俺の家族の遺産を使って海外旅行に出掛けたのだ、俺抜きで。




「衣食住は提供してやるがそれ以上は望むな。何か欲しかったりするなら自分で働け」


  中学生の頃、ゲームが欲しいと頼んだらこう言われたのだ。
  その言葉の通りバイトしようとしたら面接の時にバレて学校に連絡されてめちゃくちゃ怒られた。










  それから俺は18歳になった。
  今ではバイトをして、娯楽に使っているが大半は貯金している。
  それは家族が死んだあの場所に行くための旅費にするためだ。




「よし、これなら今月の給料で貯まるな。ようやくこれで……」


  俺は自分の通帳を眺め、そう呟いた。


  俺は高校には行かせてもらえたものの、バイトをひたすらしていたために友達はいない。
  それに魔法を本気で信じているヤバい奴、と思われていて誰も近寄って来ない。


  だが、俺は友達がいない位では諦めない。
  あの場所に行ったら何か起こるかもしれない。
  それにあのお姉さんにまた会ってちゃんと感謝の気持ちを伝えたい。


  そう思って俺はバイトをより一層頑張るのだった。




――夏休み――


「荷物は……これでよしっと」


  俺はリュックに登山用の荷物を詰め、玄関の扉を開けた。




「大悟、どこか行くの?」


  リビングから声が聞こえてくる。
  叔母だ。娘第一で俺の事は全く気にかけてくれない。




「ちょっと旅行に行く。数日帰ってこないと思う」




「分かった。ご飯は用意してないからしばらくは遊んでてね」


  俺は少し嫌な気分になりつつも玄関を出た。
  新幹線から私鉄に乗り換え、その後タクシーで移動し、現場に着いた。
  ガードレールはきちんと直されており、事故の痕跡は全くない。ただ、確かにここだ。




「よし、降りるか…」


  俺はガードレールにロープを括りつけ、ゆっくりと崖を下っていく。
  落ちないように慎重に……




「カァ!  カァ!」


  突然、俺の鞄の中の食べ物の匂いに惹かれてかカラスが何十羽と俺の周りに集まってきた。




「危ないから離れろ!  って、あっ……!」


  カラスを振り払っていると片手だけでは耐えきれず、ロープから手が離れてしまう。
  俺は背中から崖の下まで落ちていく。


  俺今度こそ死んだな……


  そこで意識が途切れた。

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