気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「え?ご自身で作られるのですか?業者を呼ぶのではなくて……」
 クリスマスの電飾で思いの丈を伝えるというのは呉先生のナイスアイデァだった。
 だから当然、呉先生もそういうのに興味を持っていて、しかも隣近所の動向にも詳しいのかなと思っていた。
 「事件」の直後にお邪魔した感じでは、マンションの同じ階にどんな家族が住んでいるか全く知らないし、興味もない自分達の住環境と異なって昔ながらのご近所付き合いも濃厚なようだった。自分のマンションはワンフロアに二部屋しかないゆったりとした間取りが特徴で、二人で住むには広い部屋だ。まあ、帰国の時には引き継ぎや挨拶回りで多忙を極めていたせいもあって、日本での住居選びは長岡先生に任せていた。
 そもそも、母校からの破格の教授職でのオファーが来たから帰国を決めたわけでは全くなくて、祐樹にもう一度会ってみたいという気持ちの方が強かった。それに会ったとしても祐樹が自分と付き合ってくれるなどという「大それた」考えは当時持っていなかった。振られる前提での「一時帰国」の積りでいたので、マンションに時間を割いている暇はなかったし、振られたらアメリカかヨーロッパの病院で働こうと考えていたせいもあって著名な外科医の先生とかへの根回しを兼ねた挨拶の方が重要だと「当時」は考えていた。
 そんな事情だったから最初は賃貸での入居だったが、まさかの展開で祐樹と恋人同士になってしかも一緒に住むことが確定したし、ある程度は長く付き合えるなと確信した段階で購入したというオマケのような話まである。 
 それはともかく、イルミネーションに凝った家の奥さんとか子供さん、そして電気や機械関係なので女性よりも男性の方が得意っぽい印象なのでご主人も加わって飾りつけをする家も知っているような気がした。
 母校には工学部も有って、医学部と同様に夜の遅くまで電気がついている。人っ子一人居ない文系学部の建物とは異なっている点で親近感を抱いていた。
 工学部に出入りするのは男子ばかりというイメージだったので、何となく電気とかを扱うのは男性という先入観めいたものを抱いていた。
 まあ、忘年会シーズンの時期にその家のご主人が在宅していないかも知れないが、そういう時は呉先生とか、近所の評判は物凄く良い森技官辺りも手伝いに駆り出されているのかなと思ったが、そうではなさそうな言い振りだった。
「え?業者に頼むのですか?」
 すると。
 

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