気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「うわぁ、何でウチの同居人が好きそうなトリュフが分かるんですか。何だか物凄く的確に選んで下さっていますよね?」
 呉先生が感心したような表情を浮かべている。
「森技官も祐樹と同じく苦いのがお好きなようなので、祐樹が好きなのを選んでいるだけです。
 ほら、バレンタインの日に祐樹が貰うチョコの数はお祭り好きなウチの医局中心に賭けまで行われるほどの盛り上がりを見せているでしょう。ナースや事務局勤務の女性がウチの医局にわざわざ渡しに来るのが年々増加の一途を辿っています。
 せっかくの厚意ですから受け取るものの、ご存知のように祐樹もそれほど甘いものが好きではないので、私が味見して『これなら祐樹でも食べることが出来る』というモノを選別しているのです。
 だから、自然と覚えてしまいました」
 特に「ゴディバのチョコが好き」と祐樹が公言した時からこのメーカーのチョコが殺到していた。
 そして、その殆どを自分が食べてはいるものの、祐樹の好きそうなのは――そもそも貰ったのは祐樹だし――率先して分けているのが現状だった。
「ああ、香川外科の医局のバレンタインの風物詩みたいなものですよね。ウワサは私のところまで入って来ています。
 本命チョコ価格のモノが山のように来るとか。
 ――それって、嫉妬とかはなさらないんですか?」
  呉先生は興味津々といった表情を浮かべている。
「嫉妬はしないですね。祐樹の恋愛対象は同性だと知っていますから。
 流石に医局に同性がチョコレートを持ってやって来ることはないですし、私達と縁の有るゲイバーだったら、そういう懼れが無きにしも非ずですけれど、ずっとお店には行ってないので当然チョコも貰っていませんし……。祐樹に近づいて来る、綺麗な同性はいまのところ居ないので一安心です」
 呉先生は朝日を浴びたスミレの花のような笑みを浮かべている。
「『綺麗な同性』に対して穏やかならぬ気持ちを抱かれるのも尤もだと思いますが、香川教授の外見『も』田中先生のド・ストライクだとご本人から聞いた覚えが有るので大丈夫ですよ。
 そんなに気になさらなくても」
 祐樹に愛されているのは知っている積りだったし、それにお互いの気持ちは離れないだろうという確信めいたものは持ってはいた。ただ、やはり不安が残るのも事実だったが、呉先生の確信に満ちた口調で断言されると何だかもっと自信を持って良いような気はした。
 そして。
 

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