気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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 呉先生も祐樹の好みを知っているので、快くお裾分けしてくれるに違いない。
 そんなことを思いながらチョコの豊潤な甘さとコーヒーの香ばしさで口の中が幸せいっぱいになった。
「クリスマスはご自宅で、ですか?
 でしたら、クリスマス用の電飾ってありますよね?ウチの近所でも――まあ、昔風の人達にはあまり評判も良くないですが――家の窓というか外から見える所にサンタだのトナカイだのを飾ってイルミネーションを通行人にも楽しんで貰おうという家が数軒あります。
 同居人と吉野家などに行った帰りにそういう家をわざわざ遠回りまでして見に行くのが12月の習慣です。
 そういう時にはたこ焼きとかを二人でつつくのも楽しいですよ」
 呉先生はともかく「あの」森技官がそういう庶民的なことをしているというのは正直笑ってしまう、「らしく」なさ過ぎて。
 ただ、アルマーニのスーツで一分の隙もない「官僚様」という仮面を付けているだけで、実際は庶民的なのかもしれない。――といっても、祐樹や自分などと異なって実家が開業医を営んでいるという点でお育ちの良さを感じるが。
「電飾ですか?」
 呉先生のたこ焼きの件よりも、祐樹と二人で過ごすクリスマスの方が優先順位が高いのは当たり前だったし、しかも「事件」のことに一旦はピリオドを打つという「特別」なクリスマスだ。
「そうです。あの電飾の明かりって、本とかは読めない程度しか煌めいていませんよね?
 部屋の電気を真っ暗にして……そのう……恋人達の『夜』を過ごせるようになった!というアピールだったら、言葉は必要でしょうが。
 でもクリスマスツリーの電飾だったら仄かに明るいという程度ですよね?
 お互いの顔が見えるか見えないか程度の?
 それを寝室にでも用意しておいて、教授お手製の見事なお料理の後は、寝室に招き入れるだけで田中先生なら直ぐに察してくださると思いますが?」
 ああ!それは良いかもしれないな!と思ってしまう。
 電飾ならばクリスマスムードもばっちりだし、明るさ的にも丁度良いような気がする。
 やはり呉先生に相談しに来て良かったと心の底からシミジミと思った。
「そうですね。それが良いかと思います。クリスマスなので、今までの全ては水に流して、再生というか『誕生』の日にも相応しいですよね」
 正確にはクリスマスイブはイエス・キリストの誕生日の前日というほどの意味しかない。
 しかし。

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