気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

154

 クリスマスのディナーとか飾りつけを自宅で――インターネットニュースの関連記事として偶々たまたま上がっているのを見てしまったのだが「樅の木の電飾とか綿を雪代わりにするとかの細かい作業は苦手だし、したくない」という主婦の本音を暴露されていたが、自分はむしろそういう細かい手作業をしていた方が落ち着くので(そんな人も居るのだな)とむしろ驚いて読んだ記憶が有る――行える方が嬉しい。
 確かにホテルのディナーを二人で楽しむのも好きだった。しかし、自宅の方が落ち着けるし自分が作った料理を祐樹が美味しそうに食べてくれる方が嬉しいイベントのような気がする。
 飾りつけ……にかこつけて「自分はもう大丈夫だから、愛の行為の時でも電気を消して欲しい」というメッセージを伝えたいと思った。
 ただ、言葉に出して伝えるとなると、自分の拙い表現力も考え合わせるにつれはなはだ心許ない。
 (さて、どうするかな?)と思ったらやっぱり思い浮かぶのは折に触れて相談してきた呉先生しか居ない。
 自分の精神状態も完全に癒えたと思うし、祐樹の精神の奥底に負った傷も快癒ではないかもしれないが、多めにというかざっくり見積もっても寛解状態なのは間違いがない。
 ただ、秋から冬にかけてゆっくりと時間が流れているうちに祐樹の精神こころの傷もゆっくりゆっくり治って行っているのは何となく分かった。
 具体的な言動は全て呉先生に報告してアドバイスを貰っていたし、自分の――ほぼ素人に近い――判断にお墨付きというか折り紙付きを貰っていた。
 明日にでも不定愁訴外来に行って相談してみようと密かに決意した。

「お早うございます。何か有りましたか?」
 出勤してから直ぐに執務室に入って秘書に聞いてみた。まあ、これは毎朝の決まり文句のようなモノだったが。
「お早うございます。いえ、特にはありません」
 入室して直ぐに席を立ってコーヒーを淹れようとキビキビと席を立った有能な秘書は会釈をしながら報告してくれた。
「そうですか。手術中にお願いしたいことのリストに加えて頂きたいことが有ります。
 申し上げますが良いでしょうか?」
 敏腕秘書なので、大丈夫だとは思っていたが、一応聞くのが礼儀だろうと思っている。
「はい。承ります」
 コーヒーの良い香りが漂ってくる。その香りにつられて不定愁訴外来のあの由緒のある建物と呉先生、そして彼が淹れてくれる格別に美味しいコーヒーがとても恋しくなった。
 そして。
 

「気分は下剋上 chocolate&cigarette」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く