気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「それこそ、精神疾患とか覚せい剤を摂取した人間は物凄い力を出しますからね。
 しかも、判断能力がないものですから、高い医療器具などお構いなしに破壊行動に出たりして。
 いや、こちらも必死で止めますよ。得てしてそんな人は弁償出来るようなお金を持っていませんから、
 しかし、大の大人が三人がかりで行っても振り切られてしまう可能性が有りますので、本当に怖いです」
 精神疾患という言葉も祐樹的にNGだと思っていたが、こういう「あの」研修医以外の一般例だと話せるようになったのが嬉しい。
 今まではそういうNGワードを聞くと途端に顔を強張らせていたのに――普通の人には分からないレベルではあるものの、ずっと祐樹だけを見てきた自分には一目瞭然だ――祐樹から言っているというのは多分進歩なのだろう。
 精神の奥底の傷が徐々に癒えているという。
「ああ、確かに暴れた人間が何を仕出かすか分からないからな。
 心神喪失や心神耗弱とかが理由で裁判の判決が軽すぎるとかいう世論は見てきたが、躁状態の人間だとかは自分が何をしているのか分からない状態で罪を犯すのである意味仕方ないというか。
 そういう人に会ったことがないとか身近に居ないから分からない側面もあるだろうし。
 泥酔状態で罪を犯した人も弁護士の先生の決まり文句として上記二点を挙げるが、ああいうのは裁判では認められない」
 金木犀の香りと祐樹のタバコの匂いに包まれながらしっとりとした気分で他愛のないことを話せることが嬉しくて堪らない。
「そういえば、飲酒で心神喪失でしたっけ?そういうのは認められないっていうのはどこかで読みました。
 何でもロープでぐるぐる巻きにされて、無理やり口を開けさせられて無理やり飲ませでもしない限りそういうのは認められないとか。
 つまり、自分の意志でお酒を呑んだ場合は厳格に罰せられるそうですね……」
 祐樹がカチリとライターを点けた。多分、空中庭園の秋の気配を楽しんでもらいたいというホテル側の配慮なのだろうが、照明は極力抑えられている。その中で浮かび上がる祐樹の顔は事件の前と変わらない穏やかで安らいだ眼差しが輝いている。
 それを見たらこちらまで幸せになるような類いの光だった。
 そして。

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