気分は下剋上 chocolate&cigarette
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「宜しければご一緒しますか?
ここは都会の中の、しかも空中庭園みたいなものですから条件は変わるかも知れないですが、金木犀が最も香るのは夜気に触れて、そして気温が下がってくる頃です。
私も救急救命室帰りに通る道は、ウチの外科の仕事を終えて気分転換の一服を味わってからも足早に向かう所なのですが、鼻がツーンとする寒さは当然ながら帰途につく時ですよね。
その時の方が凄く香りが良いです。
ただ、普通の道と空中庭園とはいえビルに隣接しているので条件が違うかも知れませんが……。
それに鈴虫とかのすだく音も日本第二の大都会とはいえ、車の通行量も減っている時間なのでもっと良く聞こえるかも知れませんよ……」
祐樹がタバコを吸いたいと思ったことは「事件」以前にはごくごく稀になっていたので少々気になったが、少なくとも自分を誘ってくれたことはとても嬉しかった。
救急救命室で搬送される患者さんが立て込んで「普通」のセンターでは受け入れ不可能と無情に断られるようなレベルでも杉田師長は受け入れる。そういう激務がひと段落ついた後で祐樹が一人きりになりたい場所を複数確保していることは知っていた。
そして、その隠れ家めいた場所を誰にも教えていなくて、完全に祐樹だけの空間に籠りたいというのも分かる。
「分かった。一緒に秋の気配を楽しもう。」
少なくとも拒否はされていないことに心の底から安堵してしまった。
「毎日それなりに忙しくしていると時間の経つのはあっという間だな……。年々そう思うようになった。
もうすぐ冬が来るな……」
喫煙所に――と言ってもこのホテルに相応しい瀟洒な灰皿が置いてあるだけの場所だが――二人して肩を並べて鈴虫の鳴き声を聞きながら、金木犀の香りと祐樹のタバコの香りが相俟ってとても心が安らいだ。
そして愛の行為の後の甘い気怠さを心地よく感じながら祐樹の指に指を絡めた。
祐樹も指の付け根まで深く絡めてくれる。そして祐樹の広い肩に頬を載せた。
ホテル備え付けのボディソープをお互いに使っているので同じ香りがするのもとても嬉しい。
「そうですね……。毎日忙しくしていると、本当に日が経つのは早いと実感します。
ただ、貴方とこういう時間を過ごせるのは本当に心の底から寛げます」
祐樹の愛の言葉の語彙は多いのは知っている。そういう言葉をシャワーのように、いや砂漠に降って来た雨のように受け止めていた自分だったから。
祐樹の言葉数の少なさから未だ心の奥底の傷は快癒には程遠いことを感じつつも、それは時間が経てば大丈夫のような気がした。
それに。
ここは都会の中の、しかも空中庭園みたいなものですから条件は変わるかも知れないですが、金木犀が最も香るのは夜気に触れて、そして気温が下がってくる頃です。
私も救急救命室帰りに通る道は、ウチの外科の仕事を終えて気分転換の一服を味わってからも足早に向かう所なのですが、鼻がツーンとする寒さは当然ながら帰途につく時ですよね。
その時の方が凄く香りが良いです。
ただ、普通の道と空中庭園とはいえビルに隣接しているので条件が違うかも知れませんが……。
それに鈴虫とかのすだく音も日本第二の大都会とはいえ、車の通行量も減っている時間なのでもっと良く聞こえるかも知れませんよ……」
祐樹がタバコを吸いたいと思ったことは「事件」以前にはごくごく稀になっていたので少々気になったが、少なくとも自分を誘ってくれたことはとても嬉しかった。
救急救命室で搬送される患者さんが立て込んで「普通」のセンターでは受け入れ不可能と無情に断られるようなレベルでも杉田師長は受け入れる。そういう激務がひと段落ついた後で祐樹が一人きりになりたい場所を複数確保していることは知っていた。
そして、その隠れ家めいた場所を誰にも教えていなくて、完全に祐樹だけの空間に籠りたいというのも分かる。
「分かった。一緒に秋の気配を楽しもう。」
少なくとも拒否はされていないことに心の底から安堵してしまった。
「毎日それなりに忙しくしていると時間の経つのはあっという間だな……。年々そう思うようになった。
もうすぐ冬が来るな……」
喫煙所に――と言ってもこのホテルに相応しい瀟洒な灰皿が置いてあるだけの場所だが――二人して肩を並べて鈴虫の鳴き声を聞きながら、金木犀の香りと祐樹のタバコの香りが相俟ってとても心が安らいだ。
そして愛の行為の後の甘い気怠さを心地よく感じながら祐樹の指に指を絡めた。
祐樹も指の付け根まで深く絡めてくれる。そして祐樹の広い肩に頬を載せた。
ホテル備え付けのボディソープをお互いに使っているので同じ香りがするのもとても嬉しい。
「そうですね……。毎日忙しくしていると、本当に日が経つのは早いと実感します。
ただ、貴方とこういう時間を過ごせるのは本当に心の底から寛げます」
祐樹の愛の言葉の語彙は多いのは知っている。そういう言葉をシャワーのように、いや砂漠に降って来た雨のように受け止めていた自分だったから。
祐樹の言葉数の少なさから未だ心の奥底の傷は快癒には程遠いことを感じつつも、それは時間が経てば大丈夫のような気がした。
それに。
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