気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「カツラって高価な物だと300万円とか普通に有るらしいですよ……。そう考えると『美味しい』業界ですよね、髪の毛関係は……。
 だからT京大学博士号ホルダーでR球大学内科に飛ばされたのでしょうね……。医局での出世は諦めてお金儲けに走ったのでしょうか?」
 祐樹は火の通ったお肉にニンニクを載せて綺麗に巻いて唇に運んでいる。
「このタレも絶品ですね。ニンニクが甘く感じます」
 祐樹の食欲につられた感じでお箸が進むのも嬉しい。
 ゴマをベースにした円やかな味とニンニク味噌みたいな味が混ざったタレは正直ご飯が欲しくなる。
「ああ、とても美味しい。出来ればご飯が欲しいなと……。
 ――え?あれはお金のためにしているのか?カツラってそんなに掛かるのか?それは知らなかった。普通の車が買える金額だな……」
 祐樹の目配せで職人さんがご飯をよそってくれている。もしかして新米なのかもしれない。季節が季節だけに。
「そうですよ。ほら、そういう髪の毛関係は物凄く市場規模が大きいので動くお金も半端ではないそうです。
 それに今はR球大学所属とはいえ、腐ってもT京大学医学部博士号ホルダーなのですから、一般人は恐れ入ります。
 髪の毛に不自由な感じのタレントを使って高額なギャラを『芸能人枠』で渡すよりも、それよりも少し控え目な金額の『知識人枠』を使って宣伝する方が良いのでしょう。
 ――昔の話ですが、貴方と出会う前に良く行っていた例の店でも、研修医とはいえ医師を名乗ったら、無料医療相談を持ちかけられてしまって閉口しました。
 『皮膚病なんて知らないし』と思いながら患部を診ていました。ただ、一般人はそれで安心してくれるみたいで……。
 そういう『権威』を利用して宣伝を売って会社は儲かるし、どうせ窓際内科医の悲哀を感じている先生ですから開業する資金を貯めようとしたのではないのでしょうか。まあ、医局では白眼視されているでしょうが……。ただ、あの先生は内科専門医らしいですが、臆面もなく髪の毛関係のCMに出るのですから、診療科目は『全部』とか書きそうです。
 ああ、この香りは新米みたいですね」
 小ぶりのお茶碗を手に取った祐樹は嬉しそうな表情を浮かべている。祐樹の解説にそんなものかと感心して聞いてしまう。
 そして、その屈託のない笑みを見ていると自分の心までピカピカの新米の光りに照らされたような気がする。
「本当だ。しかも、このお米は、兵隊さんみたいに綺麗に粒が揃っているな……。
 とても美味しそうだ……」
 すると。

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