気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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 祐樹のタバコとチョコの香りがする唇を深く重ねて、見た目よりもずっと柔らかい唇の感触をひとしきり確かめた後に輪郭を舌で辿っていると、祐樹の唇が開かれて、舌同士が絡み合った。
 そのチョコよりも濃厚なキスに酔いしれる。
「そうだな……。マツタケを食べるとその気になるかもしれない……。
 カウンター割烹で職人さんがザクザクといった感じで無造作に割っていく様子を見ながら食べて、自宅に帰るのも良いし。大阪のリッ〇の和食レストランでも季節に相応しく最高級のを出してくれるだろうし……。
 それにワインも『そういう効果が有ると祐樹が言ってなかったか?
 リッ〇の和食レストランは鉄板焼きも看板の一つにしているだろう。美味しい肉料理に合わせた赤ワインも自慢とかクラブフロアに天ぷらを揚げに来た和食レストラン所属の職人さんが言っていたな……。
 赤ワインとお肉の取り合わせも『そういう』効果があるみたいなので」
 祐樹がリッ〇と聞いても全く表情は変わらなかったので安心して話を続けた。リッ〇に行って「愛の行為」をすることも嬉しい、しかし、やはり怖さは残っている。というのも、祐樹しか開くことを許していない門に――過去一人だけ一夜切りの関係を持った祐樹によく似た日系人も居たが――無理やり硬いモノを押し付けられて、力加減とか「そういう門」の有りかも全く分かっていない感じで強く押された。
 同意のない「そういう行為」すらしたことがない自分だったので、その件もトラウマになっている。
 祐樹のソレが花園の門に当てられた時にそのフラッシュバックが起きないか心配だった。
 精神医学でも、似たような体験をすればフラッシュバックが起こりやすいという臨床実験のレポートを読んだこともあるのでなおさら。
 その上、祐樹が駆けつけてくれるという確信めいたものは有った。根拠は祐樹らしくない「贈り物」をしてきたことだった。ネクタイピンを貰った時はそこまで思わなかったが、よく考えてみると口上が不自然だったなと。そういう「祐樹らしくない」プレゼントとか――他人は貰ってもそれほど嬉しくないだろう、付箋紙に書かれたメモも自分には宝物だったが、あれもGPSが入っていたとまでは気付かなかったけれども何らかの意図があって手渡してもらったのだと漠然と思っていた――だから必死に時間を稼ぐことだけを考えていたのだが、腱の上にメスが押し当てられた時には文字通り目の前が真っ暗になった。
 それに。

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