気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「ほらケチな厚労省ですら、AEDを各所に設置しています。あれは本来ならば医療行為が出来ないハズの素人も巻き込んで発作を起こした人間を救おうとしています。
 まあ、音声ガイダンスに従って実行しさえすれば大丈夫なようには出来ていますけれど、街の色々な所に設置してありますよね。一秒でも惜しいという『ご英断』ですけれど、心臓の場合――教授には釈迦に説法だということは承知しています――秒単位ですよね。
 精神科の場合、月単位では早い方で下手をすれば年単位ということになります。ああ、これも教授はお分かりかと思いますが……」
 確かにそうだった。知識としては充分過ぎるほど知っていた積もりだったが、実際当事者になってみれば、遥かに長くて遠い道だと実感した。
 本来ならば、自分一人が耐えて待っていれば良いと理性では分かっている積もりだったが、そういう自制が出来なくて呉先生に頼ってしまっている。そのことについては反省しなければならないような気もしてきた。
 呉先生はそういう心情を察してくれたのか、スミレの花のような笑みを浮かべた。
「田中先生の場合、ご自分が強いという実体験に裏付けられた自信をお持ちなので、介入は難しいです。
 しかし、本当のところ専門医か臨床心理士のカウンセリングを受けて、話を聞いて貰いがてらご自身の気持ちを整理したり吐きだしたりした方が回復は早いのです。
 教授の場合も同じで……お一人で悩むのではなくて一緒に解決出来るようにしましょう。
 辛い気持ちも人に聞いて貰うことによってトランポリンのように圧が分散されるのは良いことなのです。
 私も及ばずながら尽力しますので、また寄って下さい。
 とにかく今は様子見しかないですし、それはそれでお辛いとは思います。だから、その気持ちを……宜しければ私がお聞きします。だから色々お話ししましょうね」
 呉先生が力付けるように言ってくれて、何だか気持ちが楽になったような気がした。
「有難うございます。
 そうさせて頂きますね。ただ、私は口が上手くない上に何を言って良いか分からなくなるのです。
 仕事場では決められたことを言えば良いので大丈夫なのですが、プライベートな面ではサッパリです。ですから、祐樹に対しても――今回のようなことが有ったので尚更に――何を言って良いのか……」
 正直自分の未熟振りに情けなくなってしまっていた。
 すると。

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