気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「――ここだけの話し、ストレス要因はともかく遺伝子検査ではガンのリスクが極めて低いことは調査済みです……。だからその点についてそれほど心配はしていないのですが」
 今回の話しというか呉先生との相談事とは論点がずれているのは承知の上で言った。何事にも親身になって考えてくれる人なだけに杞憂はして欲しくなかったので。
「遺伝子検査までしたのですか……。あれってとてもお金がかかりますよね。日本の厚労省はケチなのでそこまで面倒を見てくれていないのが実情です。
 愛情ゆえですね。まあ、私の場合、語学力の壁も加わるのでハードルは高いですが……」
 呉先生が感心したような表情で笑いかけてくれた。
「語学力の壁ですか?その問題はグーグ○とかの翻訳機能を使えば大丈夫かと思いますよ。結果はEメールで来るので、パソコンでコピー&ペーストで貼り付ければ」
 本題から脱線しているのは承知の上だったが、呉先生も真剣そうな眼差しで聞いて来たので付き合うことにした。誰しも愛する人の健康を案じる気持ちには変わりがないと思いながら。
「グ○グル翻訳は専門用語には対応していないのです。医学論文の場合なんて基礎的な単語は大丈夫ですが、学術論文レベルになると英語の単語そのままで平気で表示されますよ。
 私も泣く泣く辞書を引いています。
 それに、日本語の細かなニュアンスまで対応していなくてですね……。
 例えば『良い年をしてそんな幼稚な考え方』とかを入力すると『Good year』と『名訳・珍訳』されます。
 だから余りアテにしていません」
 翻訳ソフトは使わないので知らなかったが、そういうモノらしい。つい笑ってしまった。
 もしかして呉先生は、深刻になりがちな会話にワザとこの話題を振って場を盛り上げようとしてくれたのかもしれない。
 笑いの効用は免疫力の強化にまで及んでいるのは知っていた、精神医学以外でも。
「そういうモノなのですか。『良い年』を機械的に当てはめたら確かにそうなりますが、新年の挨拶文のようですね……。まあ、AIの導入でこれからどんどん改良されていくでしょうが……」
 二人の笑い声が古いけれども趣きの有る空間に響いた。
「それはともかくとして、田中先生の件は当分の間黙って見守っておくしかないと思います。そして、先生自身が心の傷を認めた瞬間に『いつでも手は差し伸べる』と意思表示というか何らかのサインを出す必要が有りますね。
 ご存知だとは思いますが、精神的なモノの場合、時間が掛かるモノなので。
 心臓とは逆ですよね」
 逆とはどういう意味だろう?

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