気分は下剋上 chocolate&cigarette

こうやまみか

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「そうですね。ゴディバの桃色の銀紙で包まれたチョコ以外は殆んど私が食べますね。
 その報酬代わりと言っては何ですが……、贈って下さった女性の名前と所属する科は――名前を見れば即座に思い出せるので――私がエクセルで控えておいてホワイトデーのお返しも裕樹名義ではありますが、私も多々協力しています」
 チョコを延々食べ続ける行為自体は――トラック単位で来るような人気アイドルグループではないのが幸いだ。流石にそこまで数が集まったら慈善団体とか、とても他人事とは思えない施設などに寄付してしまうだろうが――そんなに苦痛ではない。
 もともと好きな食べ物の一つだし、さほど好きではないし嫌いでもないカレーなどの日持ちのする食料を纏めて作って一日三食食べ続けても全く苦痛を感じないので好物なら尚更だった。しかもチョコの場合、ブランドが一つというわけでもないので味はそれぞれに美味しいと思ってしまうし。
「それは凄いですね。田中先生が貰うミカン箱程度の大きさの段ボール一個とか二個分とか風のウワサで聞いたことが有りますが、それをお一人で?」
 呉先生がちょうど食べていたマロンの香りのする感嘆のため息をついている。
「祐樹も10分の移1くらいは手伝ってくれますが……。いや5分の1かもです。ただ、チョコは日持ちもしますし、風味にさえ拘らなければ大丈夫ですよ。
 話しはずれましたが、桃色の銀紙のチョコを買って帰った方が良いですか?」
 呉先生との話は面白いし、充分過ぎるほどの気休めにはなったものの、本来この場所を訪ねた目的は裕樹との「夜」をどうするかという、自分にとっては切実な問題を含む祐樹の心のケアについてだったので本題に戻すことにした。
「そうですね……。まずは教授の方の問題をクリアしてからですよね。
 フラッシュバックが起きないようにまずはリラックスしてコトに臨むのが大切かと思います。
 その行為がスムーズに出来なければ、田中先生は更に心の傷が深くなりますので。
 まあ、フラッシュバックもそうなのですが、心の傷の場合、本人の意図とは全く異なる結果を生むこともありますからくれぐれも慎重になさって下さい……としか」
 呉先生もあぐね切ったという感じの表情で答えてくれた。
「事件の直後に『灯りを煌煌と点けて欲しい。愛の行為の時は』みたいなことは伝えて有ります。
 祐樹と恋人というか、深い関係になった……いえ、なれた時には本当に嬉しくて……どんな場所でも明るさも全く問題なく応えて来ましたが。
 そもそも」

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