神の使徒

ノベルバユーザー294933

第二十三話 「権利②」

赤髪の少女手馴れた動きで束になる書類を一枚一枚テーブルに置いていく。それと同時並行で筋肉さんが厳かな口調で告げる。

「では、改めまして私はこの町で異世界人の保護と生活支援担当官をしております、ヴォルガン・セルジオです」

……筋肉、もといヴォルガン・セルジオさんが厳かな口調で自己紹介をする。あまりに凄みのある自己紹介に威圧感すら感じる。

「あ、ああ。はい、よろしくお願いしまス……」

やべぇ、語尾が変になった。
彼はそれに気にした様子もなく、テーブルに広げられた書類を手にして俺の前に差し出した。

「ご紹介できる仕事はまずこれだけです。商業ギルドの職員としての雑用係、農耕地帯での小作人、それらに係る運搬員━━」

そうヴォルガンは告げて、テーブルをコンコンと叩きながらリリエールが笑みを浮かべて告げる。

「……働くのなんてさぁ、ダルいから僕達をこのまま保護し続けてよ」

はは、マジかよ、普通そんなこと正面切って言うか……。
俺の視線は自然とヴォルガンへ向けられる。怒るか? いや、まぁニートのまま金下さいなんて穀潰しもいい所、普通なら処分か放逐されるだけだろう。だが、リリエールの言葉を聞いた彼は極めて冷静な顔で受け止めた。

「……残念ながら、それはできませんよ」

ヴォルガンの言葉、そして会話を聞いた赤髪の少女はキリッとした顔で続く。

「現在の異世界人の保護制度発足には異世界に渡り来た多くの先達異世界人と各国に名を残した歴史的偉人達が携わりようやく形になりました。ダルいなどと甘えた考えで国の保護下になろうなど、厚顔無恥とはこの事、さっさとこの国から出て行って別の国に保護を求めては?誰も、働かずただ寝ているだけの無能を飼う余裕はないと思いますけれど……如何ですか?」

赤髪の少女が眼鏡をくいっと位置を調整する。ちょっとキレてないか? 怒る理由はわかるけどさ。
……まぁ、キレたのは彼女だけではなかったけれど。
リリエールの目が据わってる。
いつもの、愉しげとした表情ではない。
この顔、あの聖域騎士団と戦った時と同じ人殺しの顔だぞ。

「君さ? 僕に喧嘩売ってんの?」

リリエールが少女の言葉へ応じる。
一触即発が場を支配した。俺はリリエールを見やり、慌てて彼の腕を掴んで止めさせる、このまま何もしなければ、何をやらかすかわからないぞ! そう思えてならなかった。
気付けば、相手側の赤髪の少女へもヴォルガン氏が言い過ぎだぞと嗜めるように言っていた。赤髪の少女は、はい、と返事はしたが、目力が凄いリリエールを睨んで離さない。
……まったく、と思いながら、俺は場を治める為に言う。

「すみません、俺達の考えが甘かったです……文句はありません。働かせてもらいますよ」

「……わかりました、此方もお二人の紹介状を書いて先方に渡しておきますので、時間に余裕ができましたら訪ねてみて下さい。場所は此方になります」

ヴォルガンさんが紹介した場所を告げ、それらの詳細が書かれた地図と書類を受け取る。
とりあえずは、これで働き口は見つかったか、……あ、忘れる所だった。

「一ついいですか? 本来は最初に此処へ来たときに聞けば良かったんですけど、この世界の貨幣基準について、貰った金を……その、……言われるがままに支払っていて不安もあったんです。詳しく説明してもらっても? 勝手がわからなくて……」

尋ねると、それについては赤髪の少女が答えてくれた。

「なるほど……。
 と、言ってもそう難しいものでもありませんよ。下から順番に銅貨、銀貨、金貨となっています、値段的には銅貨十円、銀貨千円、金貨十万円となります、一応紙幣もありますが、あれは金額が大き過ぎるので、今は手が出ないと思いますし、説明の手間なので省きますね。戻りますが、これら貨幣は貴方の予想通り変動します。此方を……見て下さい、全ての貨幣には裏側に国章が付けられています。我が国の保証ですね。国家の経済成長率で国家間ごとに価値基準が変動し貨幣での売買交換にも影響します。この国にいる間は特段問題などは起こらないでしょう。物価の価値が分からなければ我が国が発行した、あのプレート(身分証明書)を提示して下さい。それで詐欺など起こす輩はいませんので……」

「……細部まで調べると色々ありそうですね、ただ、そこまで分かれば元の世界と似通っているので、慣れると思います」

「慣れる、確かに言葉よりもやってみた方が良くわかると思いますし、もしも困ったことがあれば相談に乗らせてもらいますよ」

「すみません、ありがとうございます」

そう告げて会釈すると、赤髪の少女がにこやかに笑みを浮かべた。
ただそれを見たリリエールの顔がやたら怖かったのは印象的だった。
それから、また少しばかり雑談をして俺達は役場を後にし、帰りの帰途についたのだった。


そして……、

「ムカつくかな……」

案の定というか、予想通りというか、彼は不満げな顔で、戻ってきたホテル、〈シュプラー〉の泊まっている一室でベッドに横になって天井を見上げて唸っている。
俺はため息混じりに彼へと告げる。

「……なんだ? 
 まだ、あの娘の言葉を気にしているのか? あれは彼女の方が正しいと━━」

ムギュと口を塞がれた。手が唇をつまんでいる。お前な……。

「ちょっと君は黙っていて……」

彼はにべもなくそう告げた。
そして、何を思い至ったか外側の窓を開け放つとそこから飛び出そうとして、俺はそれを全力で阻止するようにして羽交い締めにして押し止める。

「何をするのさ?」

「どう考えても何かしに行くつもりだろ?
あの赤髪ちゃんに!」

「そりゃ勿論!」

こいつ……、悪びれもせずに言いやがるな?

「だったら大人しくしろ、いいから! とりあえず寝ろ! もう夜も遅いし!」

「遅いだって? まだあの赤髪の夜は始まったばっかりだよ?」

「……お前は、何をしにいくつもりだ」

あーだ、こーだ、と俺達の口論は結局朝方近くまで続き、俺が寝かけた所でリリエールがもういい、僕も寝るよ! とふて腐れて眠り始め俺もようやく気を抜いて眠った、というのが事の顛末だ。
ちなみに、俺が眠りこけて目を覚ました時間はとうに昼を過ぎている、どうやら紹介して貰った仕事に行くのは昼からになりそうだ……。










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