神の使徒
第十八話 「町役場」
この世界に関することをいくつか知り、また次なる目的地を目指して俺とリリエールは進んでいた。無心で……。
あの村から続く獣道、畦道…つまるところ人間が快適さを求めるならば通るべきじゃない道を俺達は辿って行く。
一日を道を辿るという作業で行い、夜更け間際にて、ようやく……。
「抜けたぁ……」
気の抜けきった声で俺は息を吐いた。
それもそのはず、ようやくあの広大な大森林を抜けたのだから……一週間、まともな現代人としての生活など送れていなかった。
「……」
だがその隣で、沈黙してリリエールはムッとしたどこか怒っているといった様子で、腕を組んでいた……。
なんだ?
俺は怪訝に思い、彼の前で手を振るう。それに彼は無反応で対応した。どうしたんだろうか? 達成感で気でもやってしまったのか?
「おい、どうしたんだ?」
無反応。
「リリエール? リリエールさーん? ふーむ、むぎゅっと……」
俺は効果音も込みで彼の頬を抓る。その瞬間、ゴンッ! と鈍い音が俺の鳩尾に炸裂した。
「ぬぅ……」
「ん? え? ゴ、ゴメン! オートガードしてた」
なにそれ、凄い言い訳聞いたけど……。
「……どうしたんだよ。ぼーっと…して」
「悶絶したまま聞く様子はなかなか滑稽だけど……。ちょっとね。君が道を聞いてる間に僕の封印されていた遺跡から対魔神用の兵器を持ち出されたみたいでね?」
「え? ……まじかよ」
それにリリエールがニヤニヤと仏頂面な顔を崩す。
「あはは、君の思考ってだだ漏れだね? まぁ僕に対する感情は結構軟化したみたいだから良しとするけどね?」
そう彼は告げる。
ちぃ……あのほぼ一瞬ではあったが、リリエールへの対抗手段があったということへの歓喜と、更にもう一つ、彼へ危害を加える者達をどう対抗するか……と神の使徒としては失格的な思考を考えてしまっていた。ただ彼には恩がある簡単に裏切るなんて真似はしたくない…。
しかし、一週間と短い時間だが、随分彼への悪感情はなくなった。状況が状況だけに信ずるにたる人物が彼しかいないというのも、あるが……。
って、この思考も筒抜けか?
「筒抜け、むしろ喋ってるようなものだよ?」
「……」
「黙っても分かるんだけど?」
あぁ、やりにくい……。俺はそう思った。
と、俺は一人溜息を溢して空を見上げる、満点の星空。森の中では見られなかった光景がそこには広がっていた。綺麗だ、そう思った。現代じゃ、どうしても星を眺めるなんて機会は滅多になかったからな。こうして天体観測もまたいいもの、だ……?
眺めて、俺は言葉に詰まった。
空を見上げて、俺はある二点に注目した。
一つは、
「おいおい、なんで月が『二つ』もあるんだよ!」
「君の世界じゃ珍しいの?」
「ああ、月ってのは星の衛星軌道上をグルグル回っているかつての星の欠片だからな、そりゃ、確かに異世界とかだったらあるかもしれないとは思ったけどさ」
実際見ると驚くぜ、だって二つの金に輝く球体が空に浮かんでいるんだからな。
「ふーん。まあこの世界の月は、どちらも魔法で創られているんだけどね。しかもそれぞれ加護もあってね。どちらも同じ色をしているけれど。効果は全くの真逆で、一つは魔に属する者達を強化する月、一つは魔に属する者達を弱体化させる月、片方は古の魔神が生み出し、もう片方は人間が生み出した。そんな所かな」
「つまりプラスでもマイナスでもないと……」
「結構な歴史もあってお伽噺にもなっているから時間があった時に話してあげるよ」
確かにその話は気になるな。歴史があるからこそ現在がある。
そういうの興味あります。
それと俺が気になったのはそれだけではない、もう一つあった。
「あれは何なんだ?」
そう俺が指差す先には巨大な鏡面。鏡のような物体が浮かんでいる、それも大きく波紋が何度も繰り返しており、まるで生きているかのように錯覚してしまいそうだった。
それにリリエールは喜々と告げる。
「ああ……あれね、あれが前に君に言った次元ゲートだよ。異世界と此方を繋げる扉さ。あれが開いているから異世界人達がこの世界へと渡って来るわけさ」
「その開け放った次元魔神だったか?」
「そうだよ。アイツ結構気難しいからね。それこそ、さっきまで上機嫌だったのに、唐突にキレて相手をデコピン一発で肉片に変えるぐらいだよ?」
「次元魔神、情緒不安定と……」
できれば、そういうの会いたくない相手だな。俺の職場でもそういう奴いたからな……。人として接するのが難しいんだよ、ホント。
と、いけないいけない。過去のことを思い出すのはやめよう。……死にたくなる。
「まぁ、遭ったら会った時だな。その時考えるさ。それよりも話しを戻すけど、その対魔神兵器だっけ? 持ちだしたのはやっぱりあの白鎧の騎士達か?」
「聖域騎士団、それが彼等の属する組織の名前だよ」
聖域騎士団ね。なるほど正義に属する側としては立派な名前じゃないか。でもそんな連中がいるなら結構厄介そうだな。
「敦君、言っておくけど。兵器はまだ満足に起動していないよ。それは僕も確認したからね、だから今の所は問題はないから気にしなくてもいいかな」
「ならいいけど、でも何か対策でも考えておいた方がいいんじゃないか? いきなり奴等が現れて襲い掛かられたんじゃ溜まったものじゃない」
また、あんな襲撃があったのでは、心休まる日々はない。執着を抱いた人間ほど鬱陶しいものはないからな。
リリエールは俺の言葉に頷き同意して。
「それこそ、今向かっている町ないし王都がいいんじゃないかな? 人の多い場所なら、それこそ僕達が目立たないようにしていれば、簡単には見つからないと思うけど?」
「人を隠すなら人の中と」
俺はそう頷いて歩き出す。その後ろをリリエールは続いていく。
それから更に数日が経過……。
俺達は、王都へと続く町「デュオ」へと到着する。あのアレンやティア、二人の暮らす村よりも数倍の規模を持つ大きな町だ。道が続いていたということは、幾ばかりの交流はあるのかもしれない。
今度会ったときに詳しく聞いてみてもいいかもしれないな。
街並みを眺めると中世の趣ある家々が立ち並び、ザ・西洋ファンタジーを象っている。異世界来た……。そう改めて思える場所だ。
いや言ってしまえば今までの景色も異世界なんだけどさ。
「さて、役場だったな。戸籍とか……くれるんだろうか?」
「さあ? とにかく訪ねに行くしかないんじゃない?」
リリエールさんは余裕の様子。いやいや、簡単に言うけど。異邦人とか異世界人とかどこの国でも余所者は歓迎されないんだ。俺の国もそうだった。しかしそれは治安のためや信用などの抜本的な問題もあるからな。一概に悪いとはいえない。
役場までは守衛としてこの町に詰めている警備の人間に尋ねると数秒ほど俺を訝しんで見定めてから、異世界人か……と尋ねて、俺はそれに頷くと。
役場は町の中央にある大きな建物だと教えてくれた。警戒してはいるが、敵意を向けてくる感じではないので、まだあの騎士団よりはマシだろう。
あっちは容赦なく殺しに来たからな、魔神を復活させたのは俺だけど‥‥ね。
大通りを人々の雑踏に身を任せて進んで行けば町の中央、先ほど言われていた役所まで辿り着くことができた。多くの市民が行き交っている。
俺達もそれに混ざって役所に入ると、数種類の窓口が見て取れた。様々あるが、行く場所は決まっている。いやなんかそれっぽい受付がある……。
『異世界人課・総連事務課 受付』
なんかとんでもない受付がある。確かリリエールは異世界人が多くこの世界には現れている、こうした事務受付が存在するのもそうした要因も重なってだろう。そう思うことにした。
更にまだとんでもないを表すものがある。それは、受付に筋肉ダルマと言えばいいのだろうか、超人の位階に辿り着いてしまったかのような大男が受付に座っていたのだ。
はは、これと話せと……。どうかしている。
「何してるの? 早く行こうよ」
彼は愉しんで俺を送り出す。俺の心情を理解しながら送り出すなんて鬼ですか! 魔神ですか!
‥‥まあ、もしかしたら案外気さくでいい人かもしれないしな。人を見かけで判断してはいけない。そう俺は軽い足取りで受付に向かうのだった。
あの村から続く獣道、畦道…つまるところ人間が快適さを求めるならば通るべきじゃない道を俺達は辿って行く。
一日を道を辿るという作業で行い、夜更け間際にて、ようやく……。
「抜けたぁ……」
気の抜けきった声で俺は息を吐いた。
それもそのはず、ようやくあの広大な大森林を抜けたのだから……一週間、まともな現代人としての生活など送れていなかった。
「……」
だがその隣で、沈黙してリリエールはムッとしたどこか怒っているといった様子で、腕を組んでいた……。
なんだ?
俺は怪訝に思い、彼の前で手を振るう。それに彼は無反応で対応した。どうしたんだろうか? 達成感で気でもやってしまったのか?
「おい、どうしたんだ?」
無反応。
「リリエール? リリエールさーん? ふーむ、むぎゅっと……」
俺は効果音も込みで彼の頬を抓る。その瞬間、ゴンッ! と鈍い音が俺の鳩尾に炸裂した。
「ぬぅ……」
「ん? え? ゴ、ゴメン! オートガードしてた」
なにそれ、凄い言い訳聞いたけど……。
「……どうしたんだよ。ぼーっと…して」
「悶絶したまま聞く様子はなかなか滑稽だけど……。ちょっとね。君が道を聞いてる間に僕の封印されていた遺跡から対魔神用の兵器を持ち出されたみたいでね?」
「え? ……まじかよ」
それにリリエールがニヤニヤと仏頂面な顔を崩す。
「あはは、君の思考ってだだ漏れだね? まぁ僕に対する感情は結構軟化したみたいだから良しとするけどね?」
そう彼は告げる。
ちぃ……あのほぼ一瞬ではあったが、リリエールへの対抗手段があったということへの歓喜と、更にもう一つ、彼へ危害を加える者達をどう対抗するか……と神の使徒としては失格的な思考を考えてしまっていた。ただ彼には恩がある簡単に裏切るなんて真似はしたくない…。
しかし、一週間と短い時間だが、随分彼への悪感情はなくなった。状況が状況だけに信ずるにたる人物が彼しかいないというのも、あるが……。
って、この思考も筒抜けか?
「筒抜け、むしろ喋ってるようなものだよ?」
「……」
「黙っても分かるんだけど?」
あぁ、やりにくい……。俺はそう思った。
と、俺は一人溜息を溢して空を見上げる、満点の星空。森の中では見られなかった光景がそこには広がっていた。綺麗だ、そう思った。現代じゃ、どうしても星を眺めるなんて機会は滅多になかったからな。こうして天体観測もまたいいもの、だ……?
眺めて、俺は言葉に詰まった。
空を見上げて、俺はある二点に注目した。
一つは、
「おいおい、なんで月が『二つ』もあるんだよ!」
「君の世界じゃ珍しいの?」
「ああ、月ってのは星の衛星軌道上をグルグル回っているかつての星の欠片だからな、そりゃ、確かに異世界とかだったらあるかもしれないとは思ったけどさ」
実際見ると驚くぜ、だって二つの金に輝く球体が空に浮かんでいるんだからな。
「ふーん。まあこの世界の月は、どちらも魔法で創られているんだけどね。しかもそれぞれ加護もあってね。どちらも同じ色をしているけれど。効果は全くの真逆で、一つは魔に属する者達を強化する月、一つは魔に属する者達を弱体化させる月、片方は古の魔神が生み出し、もう片方は人間が生み出した。そんな所かな」
「つまりプラスでもマイナスでもないと……」
「結構な歴史もあってお伽噺にもなっているから時間があった時に話してあげるよ」
確かにその話は気になるな。歴史があるからこそ現在がある。
そういうの興味あります。
それと俺が気になったのはそれだけではない、もう一つあった。
「あれは何なんだ?」
そう俺が指差す先には巨大な鏡面。鏡のような物体が浮かんでいる、それも大きく波紋が何度も繰り返しており、まるで生きているかのように錯覚してしまいそうだった。
それにリリエールは喜々と告げる。
「ああ……あれね、あれが前に君に言った次元ゲートだよ。異世界と此方を繋げる扉さ。あれが開いているから異世界人達がこの世界へと渡って来るわけさ」
「その開け放った次元魔神だったか?」
「そうだよ。アイツ結構気難しいからね。それこそ、さっきまで上機嫌だったのに、唐突にキレて相手をデコピン一発で肉片に変えるぐらいだよ?」
「次元魔神、情緒不安定と……」
できれば、そういうの会いたくない相手だな。俺の職場でもそういう奴いたからな……。人として接するのが難しいんだよ、ホント。
と、いけないいけない。過去のことを思い出すのはやめよう。……死にたくなる。
「まぁ、遭ったら会った時だな。その時考えるさ。それよりも話しを戻すけど、その対魔神兵器だっけ? 持ちだしたのはやっぱりあの白鎧の騎士達か?」
「聖域騎士団、それが彼等の属する組織の名前だよ」
聖域騎士団ね。なるほど正義に属する側としては立派な名前じゃないか。でもそんな連中がいるなら結構厄介そうだな。
「敦君、言っておくけど。兵器はまだ満足に起動していないよ。それは僕も確認したからね、だから今の所は問題はないから気にしなくてもいいかな」
「ならいいけど、でも何か対策でも考えておいた方がいいんじゃないか? いきなり奴等が現れて襲い掛かられたんじゃ溜まったものじゃない」
また、あんな襲撃があったのでは、心休まる日々はない。執着を抱いた人間ほど鬱陶しいものはないからな。
リリエールは俺の言葉に頷き同意して。
「それこそ、今向かっている町ないし王都がいいんじゃないかな? 人の多い場所なら、それこそ僕達が目立たないようにしていれば、簡単には見つからないと思うけど?」
「人を隠すなら人の中と」
俺はそう頷いて歩き出す。その後ろをリリエールは続いていく。
それから更に数日が経過……。
俺達は、王都へと続く町「デュオ」へと到着する。あのアレンやティア、二人の暮らす村よりも数倍の規模を持つ大きな町だ。道が続いていたということは、幾ばかりの交流はあるのかもしれない。
今度会ったときに詳しく聞いてみてもいいかもしれないな。
街並みを眺めると中世の趣ある家々が立ち並び、ザ・西洋ファンタジーを象っている。異世界来た……。そう改めて思える場所だ。
いや言ってしまえば今までの景色も異世界なんだけどさ。
「さて、役場だったな。戸籍とか……くれるんだろうか?」
「さあ? とにかく訪ねに行くしかないんじゃない?」
リリエールさんは余裕の様子。いやいや、簡単に言うけど。異邦人とか異世界人とかどこの国でも余所者は歓迎されないんだ。俺の国もそうだった。しかしそれは治安のためや信用などの抜本的な問題もあるからな。一概に悪いとはいえない。
役場までは守衛としてこの町に詰めている警備の人間に尋ねると数秒ほど俺を訝しんで見定めてから、異世界人か……と尋ねて、俺はそれに頷くと。
役場は町の中央にある大きな建物だと教えてくれた。警戒してはいるが、敵意を向けてくる感じではないので、まだあの騎士団よりはマシだろう。
あっちは容赦なく殺しに来たからな、魔神を復活させたのは俺だけど‥‥ね。
大通りを人々の雑踏に身を任せて進んで行けば町の中央、先ほど言われていた役所まで辿り着くことができた。多くの市民が行き交っている。
俺達もそれに混ざって役所に入ると、数種類の窓口が見て取れた。様々あるが、行く場所は決まっている。いやなんかそれっぽい受付がある……。
『異世界人課・総連事務課 受付』
なんかとんでもない受付がある。確かリリエールは異世界人が多くこの世界には現れている、こうした事務受付が存在するのもそうした要因も重なってだろう。そう思うことにした。
更にまだとんでもないを表すものがある。それは、受付に筋肉ダルマと言えばいいのだろうか、超人の位階に辿り着いてしまったかのような大男が受付に座っていたのだ。
はは、これと話せと……。どうかしている。
「何してるの? 早く行こうよ」
彼は愉しんで俺を送り出す。俺の心情を理解しながら送り出すなんて鬼ですか! 魔神ですか!
‥‥まあ、もしかしたら案外気さくでいい人かもしれないしな。人を見かけで判断してはいけない。そう俺は軽い足取りで受付に向かうのだった。
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