神の使徒

ノベルバユーザー294933

第十七話 「聖剣破壊」

倒壊したブラディティカール遺跡内部にて、リリエールは聖域騎士団の様子をうかがっていた。もちろん此処はかの遺跡からは遠く離れてしまっているので、今は魔眼を使用しての遠視を行っている。闇魔法の応用で目を変異させているのだ。
遺跡内部では大勢の人間が遺跡の発掘作業を行っていた。いるのは騎士達だけではない、雇われた労働者数百名、労働奴隷らしき亜人種数百名、急ピッチでの発掘作業を行っていた。そして彼等の働きぶりを見据えるようにして杖を携えた少女がいる、あれは確か、彼の介抱をしていた、名はアレイアとか彼が言っていたな…そう森での旅路の世間話を思い出した。
それにしても、やはり…彼等は掘り出すつもりか…。
そうリリエールは一人思った。

亜人数人が瓦礫の山をその強靭な腕で崩すと共に人々がわずかに活気づく。なるほど、光の魔法で亜人のステータスを底上げし、便利な重機として使っているといった所かな…。
あまり好ましくはないけど…。
そしてそれを確認した、アレイアが立ち上がる。彼女は先陣きって人の群れを押し退けて進み、そして瓦礫で塞がっていた部屋へと入った。
そして、彼女が入ったと同時に現れる…アレが。
ブヨブヨと蠢く…黒い泥のようなスライム。かつて封印に使われていた簡素な拘束具だ。
それらは少女に見つかると、ソソソ…と音もなく道を開き、彼女の目的物までを案内した。
淡い光が瓦礫の下から溢れている。
スライム達が埋め尽くす瓦礫を吸収し分解して瓦礫を退かして行くと、そこには最後小奇麗にされた床と一本の錆びた剣、棒切れのような剣が置かれていた。
ただリリエールにとってそれは見ていて望ましいものではない。あれは…。

アレイアが高らかにそれを掲げると、

「聖剣エクスカリバーよ! 新たな担い手の名はアレイア・セルヴィリア! その真価を我が前に示せ!」

声を放ち、聖剣エクスカリバーを掲げた。人の手で作られた対魔神用の兵器…あれにはかなり苦しめられた。だが……。
少女の声に剣は棒切れのままだった。

「ど、どうして……」

それは、仕方ないね。僕との戦闘であれはもう死んでいる。それだけの痛みと傷を与えたからね。だから……。
その瞬間、この巨大空間を軋みあがらせるようにしてそこに新たな存在が現れる。黒い靄の塊だ。だがギラついた赤い目玉がジッとアレイアを見た。

「無駄だよ。剣に魂が宿っておらんからな……打ち直すしかあるまいて、お前達は急ぎ本国へと帰還せよ。その剣の回収が最重要任務となる。任務を遂行せよ」

声はしわがれた老人の声だった。
ふむ…、しかしこの声は、覚えがあるな。
アレイアは突然現れた黒い靄の老人へと追いすがるようにして声を張り上げた。

「……し、しかし団長がまだ魔神リリエールを追っています!」

「第三騎士団団長セルゲン・バルフォンは殉教した火魔法【獄域】を使用しての自爆、だが魔神には児戯の業、何も無せずに散ったよ。最早指揮系統もなき君達では到底魔神討伐はできん……そうだろう?」

その言葉にアレイアが折れたのか、膝から力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

「団長が死んだ? ウソ……」

「第三騎士団副団長アレイア・セルヴィア。これは命令だ。急ぎ聖剣を回収し本国に帰還せよ、命令に従わない場合は━━」

「帰還命令受諾致しました……これより帰還します」

憎々しげに靄を睨みながら、アレイアは立ち上がり、剣を抱えて歩き出す、その背中は随分と小さく見えた。やがて聖域騎士団の忙しい片付けと解体音が外から響いてくる。
老人は誰もいなくなったこの部屋で、スライムを一瞥し。

「新たな勇者は既に決まっておる、残念だがお前達の気に入ったあの小娘ではないよ」

スライムは老人の言葉に反応するかのようにいくつものスライムが寄り集まり、音もなく触手のような腕を伸ばして老人を殴った。
しかし老人は黒い靄の塊、それは虚空を掠った。

「フフフ! 癇癪とはお前らしくもない! よほど気に入ったか。確かにお前は心清らかなうら若き乙女が好きだからな! ……まあ構わぬさ。好きにするがいい」

スライムはその言葉と共に部屋の外へと向かってズルズルと這いずるように出て行き、そして瞬く間に消えていった。

「さて……、久しいな友よ、古き盟友リリエール・ブラディテカールよ」

気付いていたか、驚きはしない、あれなら気づいてしかるべき存在だったろう。
リリエールは闇の魔法を更に使用して言葉を老人へ届ける。

「ニコベリッチ……死霊風情が僕に話しかけるか?」

怒気を放ちリリエールは言う、白々しい老人の言葉で少しばかりカチンと来たからだ。
奴はニコベリッチ、かつての同胞……そして【裏切り者】だ。

「フフフ、アナタがいなくなって早いもので一万年……同胞はほぼ死に絶えその魂は異界を彷徨い現世に戻れず放逐され、対する人間も自らの高度な能力を捨てて退化してしまいました、原因は人間の文明の発展と衰退の繰り返しそしてすぐに死ぬ、あぁ思い出すだけ腹立たしい…でも昔は良かった!魔神も人も輝く宝石の如き世界! 今思い出すだけでも懐かしい、できるならあの頃に戻りたいものですよ……」

陶酔した様子で老人は告げる。

「そうか、一万年……なるほどだからあんなに地図が変わっていたのか、それは長いこと封印され過ぎたね。で? それが遺言でいいんだよね? アインッ!(光よ!)」

闇魔法の最上級魔法『アイン・ソフ・オウル』世界すら破壊するその一端……。
アインを喰らわせた。魔力をごっそり持っていかれたが問題ない。ニコベリッチは殺しておくべきだった。

「っ! なにッ!」

「フフフ、一万年という長き時間をただ徒労のままに過ごしていた訳ではありませんよ。フフフさて、それでは今回はこれまで、私の命が削られる前に退散すると致しましょうか」

そうニコベリッチは笑う。
まさか、ありえない、アインは確実に放った。それで死んでいないなんて……。
困惑するのも束の間、老人はいつの間にか影も形もなく消えていた。

逃げられたか……。
そう判断して遠視を中断して魔法を止めた。
そしてそれと同時に彼が柴田・敦がちょうど説明を聞き終えて席から立ち上がった。
なるほど此方も終わったか、リリエールはそれを確認すると彼のもとへと向かって行くのだった。


















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