神の使徒

ノベルバユーザー294933

第十六話 「ウル村 青年と少女」

壁、天井、此処には何もない、あるのはテーブルと二つの椅子だけだ。目の前にいる青年がいくつか古ぼけた紙をテーブルに広げて行き。俺はその様子をじっと見つめた。

古ぼけた紙は地図のようで、大きな陸地と海域が描かれている。形的にはなんともいえない、不整形で東側が大きく、西側が小さく見える。
俺はそれをジッと見ながらなるほどと懐にある、白の騎士達から拝借した手記から一枚地図を取り出した、最初に見た時は理解できなかったが、この一枚が、世界地図ではないのか? ただこれは西側を中心に作られているので合致させるのに時間が掛かってしまったが…。
青年が告げる。

「………それは、西側の地図ですね。どこでそれを?」

「それは…」

上手い言い訳ができなかった。
やべぇよ。見た時に…あ、これ、と思い立ったら手が勝手に動いて盗んだ手記を広げてしまっていた。迂闊だ。普通なら広げるべきではないものだった。
まずいな…と俺が青い顔をしていると。

「ああ、別にお話ししたくなければそれでいいですよ。あくまで貴方は道を尋ねた。僕はそれに答える。それでいいのでは?」

「…すまない、それで頼む」

こちらの諸事情に青年アレンは気にした様子はなかった。普通ならここで、殺しに来るだろうな不審人物として、あの白甲冑の騎士達がそうだったから、あ、これトラウマって奴か…。少し考え込んでいると、青年は俺へと促すようにトントンとテーブルを小突く。

気を取り直して俺は、彼に聞いた。

「俺は、異世界人なのは話したよな。その、もし俺のような異世界人であればどこを目指した方がいいだろうか? できれば教えて欲しい」

それを青年、アレンは聞くと、腕を組んで少しばかり考えた後に、テーブルに広げられた地図の中央を指差した。

「では、詳しいことは大きな都の専門家に聞いてもらった方がいいですが、異世界人であるなら行くべき場所を教えます。まずこれは王都発行の地図なので『聖王国』と呼ばれる国家を中心にして描かれています、私達ウルの村はそちらと親交が深いのでこの地図を持っています。ちなみに貴方の持っている地図は西側方面、此方にある神都を首都とする『ユートリア連邦』を中心に描かれています」

そう彼は俺の地図とテーブルの地図二つの地図を照らし合わせて丁寧に教えてくれた。

「聖王国…、ユートリア連邦…、色々国があるんだな。これって国境線だろ?」

そう俺は、大小様々な区域分けされた地図の線をなぞる。

「ええ、その通りです。僕が知っているものでも三十国ほどありますよ。ですがその中でやはり行くとするなら聖王国がいいでしょうね。他の異世界人の方々も多くこの場所には集まっていますから…」

そこで、俺はある一言を思い出した。
あの少女、修道女が世間話で言っていた事だ。確か、異世界人の起業した会社があるのだとか? まぁ俺が自殺の原因であるので頭に嫌に残っていたのだけど。
名前は確か…。

「自由貿易国アドラヘルとか、どうだ?」

彼は俺の質問にすぐに指を差して場所を教えてくれる。

「アドラヘルですか、それなら聖王国の隣でユートリア連邦とも隣接した商業国家ですね。此方も行くならお勧めですよ」

どちらに行っても異世界人には都合の良い場所か…。

「そういえば、俺達の現在地はどこになるんだ? やはり聖王国の中になるのか?」

「ええ、その通りです」

言い、彼はスッと聖王国の南を指差す。現在地は聖王国の南側、また別の国とも隣接した場所だった。

「此方南側に細く広がった国、この森全域を領土にする魔導王国と聖王国との国境線そこが今僕達のいる場所です」

言われて、俺は唸る。
国境線、国と国にとっては不用意には手の出せない場所か…。凄い所にいるんだなと俺は驚く。

「…君はそのどちらかの国の?」

「いいえ、僕達はどの国家にも所属していない無所属の集落です、ただどちらとも少なからずの交流がありますから…」

「なるほど」

と、俺は頷く。

「なら、最初の君の提案通りに聖王国の王都に行ってみるよ」

「ええ、それがいいと思います」

彼は無難な相槌を打ったのだった。

次の目的地についての聞き、色々得となる知識も持っているようだ。聞いておくべきことは彼に少なからず聞いておこう。

そう思った矢先、どうやら堪忍袋が吹き飛んだのか、怒声が屋根の上から、響く。
それと同時にドサッとテーブルの上に獣の皮で作られた鞄を少女が投げてくる。
中には食料と水、まさか…用意してくれたのか…。

俺は、女神でもいたのかと困惑したが、少女は鬼のような形相で…。

「アレン! もういいでしょ! こんな奴のために時間なんてかけるべきじゃないわ! 目的地が分かったならさっさと出て行きなさいよ! それだけあれば町まで行けるから死にものぐるいで辿り着きなさい! 道もあるから案内なくても分かるでしょ?」

そう、俺の入って来た方の逆側、村の出入口を指差す。遠目から見れば確かに畦道のような道がある。これを辿れば近くの町へ行けると…ありがたいな。

「ティア…だから」

青年は少女へと取り次ごうとするが、それは俺が止めた。いや、最低限ここまでしてもらえればなんとかなる。

「いや、彼女の言う通りだ、俺も悪い。事情も聞かず良くしてもらってありがとう。助かったよ、このお礼は必ず…」

「いえ、そんな必要はありませんよ」

「いやいや、恩はきちんと返す。そうしないと俺の気もすまんからな」

「…では、いずれお願いします、それと町まで行けましたら役場へ行って自分を異世界人と言えば後は役人の方々が良くしてくれますので」

「なにからなにまで…ありがとうな」

そう俺は約束をし、彼等に手を振って挨拶する。機会があれば必ず彼等に恩返ししなくては…、ただ…。

「もう来なくていいわよ、アンタなんかさっさと獣の餌にでもなりなさいっ!」

…歓迎はされていないようだ。
むしろ追い出されたからなっ! まあそんなことしないんだよなぁ…食料貰ったし、むしろ女神様だからなぁ。何か良いものを持ってこなきゃ…。
そんな風に考えながら、俺は村の外へと出て行くのだった。



村から出ると、それを待っていたかのように待ち人は来たる、彼はスッ現れた。黒衣の衣装を着たリリエール。
どうやらお互い用事は終えられたようだ。ちょうど合流できて良かった。リリエールは思念会話を使えるが俺には使えないからな…。もし合流できなかったら…スゴスゴと先のアレン青年の世話にならなければならなかった。

それにしても…。

「それで? 今までなにしてたんだ?」

「ちょっとね…まぁ気にしないでよ」

そう彼はニッコリと笑う。
まぁ、今に始まったことじゃないか…。
とりあえず…。

「次の目的地は決まったぞ」

「そ、まあ分かってるけど、どうぞ?」

「聖王国…王都、次はそこだ」

俺はそう彼へと宣言したのだった。













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