神の使徒

ノベルバユーザー294933

第十話 「大森林③」

「ふっ!」

ブゥンっと彼は右手に黒の稲妻を作ると、俺がそこらで集めてきた枝に近づける。
それだけで、枯れ枝に火が点いた。

「いつも思っていたけど、それ便利だな」

「そうだね、異世界人にして見れば便利かな?」

彼はそう言って笑った。
時間はもう夜半、辺りには夜の帳が落ちきり真っ暗な暗闇が辺りを覆っている。
俺達は強行軍で森の中を進み、謎の一団から距離を放していた。無論追っ手などから逃れる為だ。
しかし、灯りのない完全な夜の世界はリリエールの持つ魔法の灯りのみではまともに進むことができず、俺は足下の見えない状況で木の根に足を引っ掛けて転び、危うく怪我を仕掛けた所で、彼が此処で今夜は野宿しようと提案した。

そして………。

………よせっ、やめろ!

と心の中で叫んでいた。
ジッと無言を貫いて、リリエール、彼が無造作に食べているモノを眺めた。ピクピクと蠢きながら目の前にモザイクの掛かる食べ物が焚き火の上で燃えていた。

どこかで仕留めて来たのか、彼は宵闇の中に消えると、獣の唸る断末魔の叫びの後、ズルズルと何か獣のようなものを引きずって戻ってきた。
元はもっと大きな獣だが、彼が黒い稲妻を振るうや否やバラバラに刻まれてしまった。此処にあるのはその肉塊だ。
ただ、腹が減っているために凄く美味しそうに見えるのだ。肉の焼けた匂いと彼が肉の噛み潰す音を聞けば見ているものがなんだろうとどうでも良くなってきた。

震える手で串を掴むと、勢いよくかぶりつく。

「あ、美味い…わ」

「簡単な調味料はあそこの宿舎から持ってこれたからね。次の場所までなら困らないよ」

そう彼は言った。次の場所、それは彼の《探索》サーチと呼ばれる魔法か能力で探し当てた、人の多い場所を指している。村とか町など人の領域なのだろう。一週間…歩いてやっと到着できる距離だそうだ。それ以外の場所も聞いたが、芳しい成果はなかった。
目の前の肉を見つめる。
コレが一週間か…。
でも、

「最初は、凄く嫌だったけど…まぁ、喰っちまえば普通の肉と変わらないな…」

美味しかった…よ。
…俺は宵闇が広がる木々の合間から見える美しい夜空を見つめた。

「ところで、さ。聞こう聞こうって思っていたんだけど、お前の使っている魔法って何なんだよ。魔法とか詠唱とか必要だろ? 結構ポンポン使ってたけど、まぁなんか名前みたいなのは言っていたみたいだけどさ…」

「あはは、今更だね」

「悪いな、だけど、それまでが大変で聞くに聞けなかったんだよ。腹も減ってたし…」

そう、崩落から、遭難、そこから暴行と盗みと色々あったんだ…色々な。
彼は思考を読んだのか、やれやれと首を左右に振り。
自分の掌に黒い球体を出現させた。

「…僕が使っているのは闇魔法だけど、それに僕自身の固有の力を加えた強化した魔法だよ」

「闇か…魔神らしいな」

「そうでもないよ。光の魔神とか、火の魔神とか…魔神にも属性での得て不得手はあるからね、僕は魔神において闇属性の魔法が得意だっただけ」

とんでもないことを彼はさらりと言う。

「魔神って、そんなポンポンいたのか…」

「でも皆殺されたよ、人間と神の使徒にね」

「…それは俺のマスターから聞いた。なんでも以前はマスターにとって脅威となるような存在が数多くこの世界にいたってな」

だけど、それは俺の先代達の犠牲の上で成り立ったとも言っていた。
かつて果のない争いがあったということだろうな。

「そんな…生半可なものじゃないよ。あれは地獄だね」

ジッと紅い瞳が俺を見据える。怒っている…戦争は当時者でないと分からない。俺の生きていた世界でも、戦争が終われば過去の戦争など…まるで泡沫の夢。実感などまるでない。
だが………。

「悪かった…」

「いいよ、もう終わったことだしね。それに僕も君達使徒を殺し回ったし」

「前言撤回だ、お前は悪い魔神だ」

俺は溜息を溢すように言った。
まったく…やっぱり、戦争はどちらも加害者だ…。彼等も殺している。そして勝った方が自らが正義だと宣うのだ…。

「やめよう…考えるだけで虚しくなる」

「それで、闇の魔法をなんで無詠唱で使えるんだ? 俺の知識だと、ああいうのは詠唱を唱えてから力を溜めて放つ。そういうものだと思っていたけど…」

話しを元に戻して聞くと彼は告げた。

「あれは、呼吸と同じ程度の魔法だよ。君の血のおかげで魔力はたっぷり補給できたしね」

「初級程度ってことか、それでも━━━」

「なら、魔法を使ってみる?」

彼はそうニッコリと提案した。










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