神の使徒

ノベルバユーザー294933

第五話 「魔神」

目の前で巨大水晶が紅い輝きを放ち、そして脆くも崩れさった。俺はそんな光景を何もできずに眺めているしかない。
水晶全てが瓦礫の山となり、残ったのは宙に浮かぶ少年、彼はにっこりと笑いながら宙を悠然と歩き出す。
バカな…ありえないだろ。

「体が軽い、今までのあの鬱陶しさが嘘のようだよ。ありがとう、シバタ・アツシ君」

「ふざけてんのか…てめぇ…」

「…そんなことないよ」

頭に響くかのように彼は凄みのある声で耳打ちしてきた。
なんなんだ…今彼は宙に浮いていたはず、ここまで簡単に近づけるような距離じゃないぞ。

「れろ、ちゅぱ…ちゅ…」

ゆっくりと彼は俺の傷口へと舌を這わせる。俺は抵抗して離れようとしたが、首を思い切り掴まれた為に息苦しさと共にその場から動けなくなった。
抵抗など無意味、それを思い知らされるような時間。
彼はひとしきり舌で舐ったあとに名残り惜しげに顔を離した。

「これで治ったと思うけど、どうかな?」

「…っ!」

恐る恐る触れて見れば噛まれた傷は直っているようで触った手に真新しい血はついていなかった。

「どういうつもりだ!」

「勿論、助けてもらったから傷を直した。それだけだよ? まぁ、少し強引な所もあったけれど…結果良ければ全て良しだよね?」

「はぁ!? あんなことされて━━」

パキン!
っと、言葉を言い終える前に、俺の足下が吹き飛んだ…。
彼の手には黒い棒状のものが握られている、それが地面を削り取っていた、見た限りでは視覚できるほどの稲妻の塊、そう見えた。
だが、吹き飛ばしたのはそれだけではない…。黒いゲル状のスライム、それがベチャとその場で爆ぜていた。

「やっぱり、仕込まれてたか…君、僕から離れないでね。巻き込むから」

そう言うやいなや、この室内の中に所狭しと先ほどのスライムが壁、天井、床に至るまでに染み出すようにして現れる。

「なんなんだよ! お前が自由になったら動くトラップか!」

「あ、正解、よく気づいたね。あれ一匹にでも体に取りつかれたら固まってうごけなくなるよ。あれで僕は封印されてしまっていたからね」

そんな事実をこいつは平然と言ってきた。
つまり100%お前のせいだよなぁ! 心の中で慟哭するが…なにせ彼を自由にしてしまった責任の一端は俺にもあるために、あまり強くはでられなかった。
とにかく、俺は彼の側に寄って身を縮めるので精一杯だ。

「どうにかできるのか!?」

「…黒天眼(イビル・アイ)」

彼が淡々と告げた瞬間、黒い閃光が数多のスライムを薙ぎ払う。ビーム…眼からビームだとぉ…。
さっきから思っているのだが、こいつなんでもありか!

「道ができたね♪」

嬉々として告げる彼はそう視線の先にある瓦礫に塞がれた回廊を見た。そして、瞬間、その瓦礫を先ほどのビームでまた吹き飛ばすと。俺へ視線を傾けて。

「あそこまで走って! それぐらいできるよね?」

「ちぃっ…! 分かったよ!」

俺は言われるがままに駆け出す。
全速力で走りながら後ろが気になって振り返れば、彼はたった一人であの無数のスライムを右手の黒い棒で殴って潰し、眼から出るビームで消し飛ばす。
でたらめな奴だ…改めてそう思う。
そうして俺が回廊まで走り込むとその瞬間に彼は俺の近くに瞬間移動するかのように現れると、黒の棒を振り回して回廊の入り口を瓦礫と共に塞ぐ。
だがそれは脆くなっている場所を更に崩すということ、天井が揺れ始め、俺は直感的な脅威を確認して、走り出した。

「くそっ! くそぉ! クソッタレぇっ!」

「アハハハッ!」

焦りと混乱…この状況の全てに対して俺は罵って走り、それとは対照的に彼はこの状況が心底楽しいのか、高笑いを始める。
無我夢中で走り続けた先に、俺は今までのとは違う石扉を発見した、だがそれは、どう考えても人一人動かせるようなものではないと見ただけで分かる、彼へと顔を向ける。どうするんだ…と息すらまともにできない状況なので俺は無言で訴えかける。
彼は笑みを浮かべて言い放った。

「任せて…極光閃(ソル)!」

言うが、早いか遅いか分からないが…、光がカッと輝く、光は球体を形作って石扉に命中し、扉は削られるように球体状の穴を開ける。最早…なにも言うまい…、俺は穴の開いた石扉へと飛び込む…。

それと同時、後ろで遺跡が瓦礫とと共に崩れていく音が幾重にも重なって響く。
脱出できたのか…。
俺は崩れていく遺跡を眺めながら感慨深げにそれを見守った。
今ようやく完全な全体造を把握できたが…。やはりあの遺跡は自然との調和を成した建築物だったようで…山の谷間に先ほどの石扉は建てられており、遺跡そのものは山の中に造られていた。いったい全体どうやってあんな風に作ったのか興味深いものだ。

だが残念ながらそれら遺跡の崩れていく光景を目の当たりにしながら、どうしようもない問題があることに俺はふと我に返った。
そう、

「んんっ…ぁあ…楽しかった」

紅い瞳に、黒く宵闇のような髪、そして少年とも少女とも判別つかない中性的な顔立ちをしている…彼のせいである。
そして、その彼を捕らえていた封印を解いてしまったバカなオッサン一名…つまり俺(柴田・敦)のせいだ。

「最悪だ、アホ過ぎる…なんてことをしてしまったんだ」

今にして考えればなんてバカなことしたのかと思う。マスターには言われていたはずだ、
この世界には神の脅威になりうる存在が数多いると。先ほどそれを俺は様々と見せつけられた…。
しでかした失敗は大きい。
神、マスターになんと釈明すればいいのだろうか。

「はぁ、何なんだよお前は…」

「ああ、そういえば、僕の自己紹介がまだだったね…僕は【魔神】リリエール・ヴィ・ヴラディティカールだよ。よろしく神の使徒君」

…胃が痛くなりそうだ。
俺は諦めて壊れゆく遺跡を呆然と眺めるのだった。
















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