神の使徒

ノベルバユーザー294933

第三話 「水晶」

あれから…どれぐらいの時間がたったのだろうか。小一時間か? スマホなどの万能ツールはなく身一つ、軽装備の服を着ただけの遭難して下さいと言わんばかりの姿だ。
特に時間が分からないのは苦行だ、この洞窟の閉鎖空間はちょっと辛い。幸いにして今は先程の場所から移動して隣の部屋に移っていた、あの戦士の像の足下に人一人分が通れるだけの穴が空いており、そこから這い出ることができたのだ。そこから先は回廊とも言える大きな通路が左右に広がっており、俺は利き手右手側へと進んでいた。
…そして歩き回ってみれば、この場所がただの洞窟ではないと分かった。洞窟は洞窟なのだがその内部に巨大な人工物が建てられている。どうやってこんな洞窟内部に建造したのかは女戦士像と同じで解らないがな…。

それにしても、

「此処は何なんだよ…」

そう俺は溜息を溢す。遺跡でかつて使われていたのか、今は寂れて人一人として見つけてはいない。また、人骨などの骨すらまともに、見つけてはいない。
いや、見つからなかった方がいいんだけども…。もうこれだけ何もないとむしろ何か出てこいよと思うのは仕方ないよね…。

そんな俺の身勝手な願いが通じたのか。

ガラガラッ!

と大きな音がしたあとに、天井が崩れ落ちてくる。しかも落ちて来たのは目と鼻の先…あと少し踏み込んでいたら瓦礫に飲み込まれる所だった…。馬鹿なことは考えるものじゃないと気を引き締める。
しかし、この瓦礫によって先に進むことはできなくなってしまい、俺は瓦礫を退かしたりと動かしてみた、…が全体が揺れ始めたので、やめておく。
仕方なく来た道を戻ることに…。

最初の別れ道まで戻り、今度は左手側へと進んだ。この辺りも年月による劣化が進んでおり、どこから入り込んで来たのか植物が根を広げて遺跡を侵食していた。
そういった影響もあってか、進むにつれて、先程と同じように瓦礫が落ちていた。

「まったく…糞」

悪態をついて俺は瓦礫の隙間を縫うように進んだ。

「…ん?」

と俺は声をあげる。
瓦礫を抜け出た先に光が溢れている場所が見えたからだ。出口か?
そう淡い期待を抱きながら足の歩は早くなった。

そして、俺は光の場所へ出た。
薄暗かった回廊を出ればそこには巨大な空間が広がっている。だがそこに何もない訳ではない。むしろそこにはあった。
巨大な言葉では言い表せないような水晶の岩塊それが不整形に、歪(イビツ)に、広がっている。自然にできたとは言い難い巨大さで、しかしそこにはその場所と一体感のある調和もあった。
そして、巡らせていた視線がただ一点に釘付けになる。
…その場所には、人が埋まっていた、上半身は露出しているが下半身は完全に水晶の中に取り込まれてしまっている。

「嘘だろ…」

慌てて俺は天井まで届くほど巨大な水晶を登り部屋の中心部に位置する場所まで辿り着く。
最初ただのオブジェかと思った、それこそ錯覚かと思えた。だが、近づくことでそれが誤りで間違いであるのだと気づいた。
姿は少年のようではあるが、しかし少女のような中性的な顔立ちである。
また髪が長いのも判別のできない要因だった、胸の膨らみは…人それぞれだろう。
焦れったくなって性別をハッキリさせようと下半身に目を向けたが、そこは水晶の濁りがあって判断はできなかった。まぁ、いいか…。とりあえず少年(仮)とする。
それにしても…。

「生きているのか…?」

俺は恐る恐ると彼? へと触れてみる。…温かな体温を感じられる。どうやら彼はこの状態でも生きているようだ。

「だけど、どうなってんだよ…なんでこんなふうに?」

何が起こればこんなふうになるだろうかと考えるが、あまりに常識とかけ離れた事態で俺は混乱していた。だけど、こんな状態でこのまま放っておくわけにもいかず、とにかく、何か、削れる道具でも…。

そう思って離れようとしたその時、

「…ぅ、んぅ…」

微かではあったが、呻くような声音が彼から漏れ出た。

薄っすらと…その瞳を開け、そして俺を見据えた。
じっ、と…その視線を外さずに。


















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