獲物

蜘蛛星

宇宙航海日記1日目

指切りを交わした。完璧な指切りだった。断面は美しく平らで、交換したお互いの指は疑うことなく繋がった。
「行ってきます。」
頭右は綺麗に決まった。さよなら我が最愛の大地。さよなら我が故郷。さよなら親愛なる父母。さよなら、二度と会うこともない友人。

船は光よりも早く進む。体が分解されてしまわないよう、機械の中で鉛筆を手に取る。この空間で異常をきたさないのはこれだけだった。古ぼけた皆に忘れられているであろう物。可哀想に思えて、私はそれに名前をつけた。小さく、その名を呼んでみる。この子は喜んでくれているだろうか。

本日の日記はどうしようか。
なんとも代わり映えのしない機械音と、窓もないこの空間ではこの紙は埋まらない。小指と鉛筆を交え、会議を始めることにする。小指は友人と同じようにとてもおしゃべり者だった。次から次へと話題を変えてしまう。これではひとつにまとめられないではないか。少し黙るように説得し、鉛筆の話を聞こうとする。しかし彼は消極的であまり話そうとしない。ここは残念だがこれから仲を深めて行こう。

機械の中の時計が二周した。一日が終わったようだ。

『1日目、特に変化なし』

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く