獲物

蜘蛛星

屑の宴④

明けない冬が来る。
僕は彼を屋上に呼び出した。彼は当たり前のように遅刻してやってきた。薄く雪の積もったそこに、二人分の足跡がつく。寒さのせいで周りには誰もいなかった。
「ここが俺の飛び降りる場所かあ、楽しみだなあ。」
そのにやけ顔を、僕は二度と見たくないと思った。蹴り飛ばしてやりたいと思ったが、理性がそれを必死に止める。
「じゃあ今すぐ飛び降りれば?」
彼は一瞬こちらを見て驚いたような顔をしたが、すぐににやけ顔に戻る。
「いやあそれもいいな、でも俺今日そのつもりじゃないからパソコンのデータ消してきてないし、見られちゃ困るんだよね。」
彼の顔が頭にきたので、僕は彼の心を潰す勢いで言葉を投げつけた。潰すだけじゃ許せない。床に叩き付け、足で踏みつけて再起不能にしたい。彼は心を失ったところで変わらないだろうと思った。人を簡単に殺そうとして、世界を簡単に滅ぼそうとするような人間だ。だから、言葉を選んだりオブラートに包むつもりは一切なく、刺すような寒さと共に全身を針まみれにしてやるつもりだった。
「それで、死ぬの?死なないの?お前どうせ屑野郎だから今死ななきゃこれからも死なないんだろ?なら今死ねよ。」
別に死んでほしいわけではなかった。彼の言ったことに責任をおわせたかった。なのに彼が泣き出すから、僕は意味がわからなかった。
「泣きたいのはこっちなんだけど。」
口からそれが出た途端、多分僕の中で何かが切れた。周りに充満していたモヤモヤの正体を察し、僕はポケットからカッターを取り出す。

モヤモヤの正体は、僕の心に巣食っていた嫉妬という名の蜘蛛だった。

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