獲物

蜘蛛星

屑の宴①

ふと気がつくと、彼が泣いていた。どうして泣いているのか、僕にはわからなかった。だから、抱きしめた。
彼は、翌日死んでいた。
それはきっと僕のせいなんだ。

彼と知り合ったのは高校に入ってからだった。彼はいつも一人だった。だから僕は彼に話しかけてみた。好きな音楽が一緒だった。お互いに絵を描くことが好きだった。たくさんのおそろいが見つかって、楽しかった。二年生になったある日彼が言った。
「俺、あと一年で死ぬんだ。」
それが随分と唐突すぎて、今度はどんな作り話なのか期待したのだが、どうやらそうではないらしい。彼はにやにやしながら、僕の絵から目を離さなかった。
「...えっと、それはなんで?」
「来年、卒業だろ。だから屋上から飛び降りるつもり。」
彼は早く描けよというような目で僕を見る。意味がわからなかった。
「俺の親さ、すっげえ毒親なんだよ。毎日暴力振るってくるし、高校卒業しても進学させてもらえないしさ。それに俺コミュ力ないし、才能もないし、生きてる意味なんてないよ。」
相変わらずにやけてる彼に、心が少しモヤっとした。彼が怪我をしてきていたり、様々な要素からそれが嘘や過剰な表現には思えなかった。だからこそ、僕はそのモヤっとした感情の名前を知りたくなかった。
「そうか、じゃああと一年楽しもうな。」
語彙力をどこかへ忘れてきたようで、僕はたったそれだけ言って、あとは彼の話をずっと聞いていた。

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