【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
世界の岐路(5)第三者視点
何とか攻撃を避け続け致命傷を避けていた山岸鏡花。
そして彼女が分析した通りに増殖させていた木の枝を振るっていた狂乱の神霊樹。
――その二人が動きを止める。
それは、目の前の圧倒的強者である天照の前においては致命的なミスと言えるモノではあったが……。
「何を……何をしている!? あの、馬鹿者が!」
最初に声を上げたのは天照であった。
その視線の先には、巨大化した黒の狼の存在があり――、その姿を見て彼女は焦ったかのように、鏡花と狂乱の神霊樹を無視して駆け寄ろうとするが――。
「――っ!? 何をする!?」
取り乱し周囲の状況が見えなくなった天照の進行方向には無数の蔓が出現し彼女の行く手を阻む。
「何をする……ですって……」
息が切れている鏡花は、天照の光を収束させ作り上げられた剣で肩を切られたのか、炭化した傷口に手を当てながら
「貴女の相手は、私達……よ……。行かせる訳にはいかないの……」
そう力無く呟くが――。
「愚かな! 当代の巫女が、ここまで愚かだとは思わなんだ!」
その言葉と同時に光の剣が、横薙ぎに鏡花の首筋を狙って振るわれるが、無数の木の蔓により防がれる。
「――っ」
「妾が居る事も忘れて貰っては困るのう。それに、それだけ取り乱しているという事は――」
「ええっ。何とかうまく行っているというところかしら?」
狂乱の神霊樹の言葉に、そう同意しつつ鏡花の視線は時折、視界の先に現れた漆黒の獣に向けられていた。
「何を言っている……。この世界が破滅しても良い……そう思っておるのか?」
「――え?」
その天照の言葉に、鏡花の唇から思わず声が漏れる。
「あれは、ディアウルフ」
「ディアウルフ? あの北欧神話に出てくる? ――でも、何で月読さんが、そんなことに……」
「裏切った当代の巫女に話す言葉なぞない!」
天照は、無数の光の玉を作りだし、それらを体の周囲に纏わせると、漆黒の獣に向かって走っていく。
それを引き留めようと行動した狂乱の神霊樹であったが、天照が体の周囲に展開していた光の玉により蔓が一瞬のうちに消滅し引き止めることはできなかった。
二人を引き離した天照は、漆黒の獣と化した月読の前に立つ。
「止めなさい! 月読! どういうつもりなの!」
天照の声が――、透き通った声色が、周囲に響き渡る。
そして、その音は、もちろん獣と化した月読にも届く。
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