【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
世界の岐路(4)
粒子が崩壊し、周囲の空間を巻き込んだ閃光と連続する爆音……そして風圧に吹き飛ばされた私は地面を転げながら、土属性の魔法『アースウォール』で土の壁を作り、爆風を受け止めやり過ごす。
「はぁ……、はぁ……。――っ」
至近距離ではないとは言え、重力崩壊という本来なら天文学的な物理現象は、相当周囲に影響があった。
おかげで、身体強化魔法で強化した体ですら、体中に裂傷が出来ていて血が流れでている。
私は回復魔法を発動させながら爆風が止むのを待つ。
体は、土壁に預けたまま、荒い呼吸を繰り返す。
「これでダメなら……」
月読という存在。
それは名前からして闇と月の女神の名前であり、日本では最も有名な神様の一人。
神様であるという事を差し引いても、月読という女性の力は……、その実力は底が見えない。
何せ、こちらの攻撃を本気でない状態にも関わらず防いだから。
それは、まるで私という存在が何も自身の脅威と感じていなかったからだと思う。
そこから見るだけで、圧倒的な実力差というのは理解できる……理解できてしまう。
だからこそ――。
「ほう……。なるほどのう」
「――ッ!」
丁度、爆風が止むと同時に肉体の裂傷は――、回復魔法で塞がった。
そして……、立ち上がると同時に煙が晴れた中に立っていた女性と目が合う。
そんな彼女は、微笑んではいたけど、目は私を睨みつけてきた。
「無駄だ」
風の魔法を発動させようとしたと同時に、私の体は唐突に認識できない衝撃に吹き飛ばされる。
血を吐きながら、何度も石畳の上を跳ねる。
あまりの威力と速度に、魔法を展開する速度も追いつかない。
30メートル近くを転げたところで、何とか立ち止まることはできた。
ただ――。
「な、何故……」
あれだけの爆発。
重力崩壊という天体レベルの崩壊に巻き込まれて、どうして無事なのか? と、そんな疑問が胸中を駆け巡るけど……。
――解析完了。斥力により、重力崩壊によるガンマバーストを含む破壊を全て反射、無効化したことを確認。
視界の中――、半透明のプレート内に流れる文字列に苦笑するしかない。
それは大賢者であり、直人さんの妹である山岸鏡花さんの分析の表示。
つまり、私の手持ちのカード……つまり、魔法では月読さんに勝てる可能性は限りなく低い事を意味する。
「妾に、そのようなことを質問することは愚問であると分かっていると思うが? そうであろう? 当代の巫女よ」
私の質問に答えずに、私とリンクしている鏡花さんに語り掛けてくる月読さん。
まるで、私なんて歯牙にもかけないという様子に、私は彼女――、月読さんを睨みつける。
「ふむ……。佐々木望よ」
「……」
「貴様に提案をしよう」
「提案?」
「そうじゃ」
彼女はコクリを頷くと口を開く。
「我が主から手を引け。そうすれば、汝の消えた肉体の蘇生をしてやってもよい。そして、元の世界に帰るとよい」
「何を言って……」
「言ったであろう? 提案だと――、譲歩案と言ってもよい。主のことを忘れて、元の世界に戻り世界が崩壊するまでの一時、安らかな安寧を貪る。どうだ? 魅力的ではないか?」
「まったく――」
私は即答する。
ここまで来たのは先輩を……直人さんを助けるため。
それを――、その気持ちを譲るという選択肢は、私の中にはない!
「愚かであるな。当代の巫女しかり――、愚かな契約を結んだ者のデコイしかり」
一度、目を閉じた月読さんは意を決したのか再度、目を開ける。
「見せてやろう! 人間が見る事のない妾の力を!」
唐突に月読さんの瞳孔に縦筋の線が入り朱色に染まる。
そして、160センチほどの体躯であった月読さんの体が巨大化していくと漆黒の狼へと変貌していく。
「あ……」
その姿を見て、思わず口から声が漏れる。
目の前に姿を現したのは、直人さんが姿を変えた巨大な漆黒の獣と同一であったから。
「グルルル。我が名は、月読! 汝を消し去るモノである!」
荘厳な声が周囲に鳴り響いた。
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