【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
人類の罪過(26)
「…………」
不機嫌そうに眉を顰めた金髪の少女は、一度――、目を閉じると口を開く。
「挨拶なぞ、どうでもよい。それよりも何故、ここに来た?」
「兄を助ける為に――」
「なるほどのう……。だが、それは本当に必要なことか?」
「はい」
「……」
無言になり、私達から視線を逸らす天照大御神と呼ばれた少女。
その目は、彼女の背後――、巨大なドーム状の部屋の中央部から、さらに奥まった場所。
「あれは……」
そこで、私は気が付いた。
今まで何も存在していなかった巨大な空洞。
壁は、コンクリートとも金属ともつかない光沢のない黒い壁で作られている。
そして灯りは何も無いのにも関わらず視界が闇の閉ざされる事はない不思議な空間。
そう――、何も視界を遮る事もなく全てが見渡せる場所であったはずなのに、唐突に――、その姿が――。
「先輩っ!」
この世界に来て、2度目の邂逅。
それだけじゃない……。
旅館で、私が勝手に行動してしまってから、擦れ違いが多く――、交わす言葉も少なかった思い人。
「罪過よ。動くでない」
「――ッ!?」
身体が――、意思に反して……動かなくなる。
それは金縛りと言うには、あまりにも異質なモノで、まるで自分の体が自分の体ではないようで……。
「望!?」
先輩に向かって、無意識の内だったのか一歩踏み出した私が動けなくなったことに気がついた鏡花さんが私の名前を呼んでくる。
「この者と話すのは時間の浪費となろう。それよりも、先ほどの話であるが山岸直人を助ける為に、この世界に足を踏み入れた……、そういうことか? 当代の巫女よ」
「――ッ!?」
巨大な空洞内に、唐突に吹き荒れる風。
だけど、すぐに気が付く。
服も髪も靡いていなかったから。
つまり……、風だと錯覚するほどの何かを感じたという事になる。
「はい……」
「なるほど……。当代の巫女よ――、お前には失望を禁じ得ない。我らとの契約を行った際の禁止条例に抵触する行為を行うとは……」
目の前に存在している存在。
人間を超越したかのような神々しい姿をした存在。
それと契約したのが鏡花さんで――、そして……そこには禁止条項が存在していて……。
「(そういえば……)」
声も自由に出せない。
心の中でしか物事を考える事が出来ない。
だからこそ、私は思考する。
私にコンタクトを取ってきた時に、鏡花さんは言っていた。
約束を破るようなことを……。
その約束というのは――、天照大御神と呼ばれる頂上的な存在と契約を結んだ? つまり……、日本神話において最高神とも言える太陽の化身――、アマテラスとの約束を反故にすると言うこと……?
「(……でも、それは……)」
神から背信するという……。
「兄は! 兄は! 十分に苦しみましたっ! もう――、解放してください!」
「解放か……。だが、それをあの者は本当に望んでいるのか?」
「それは……」
鏡花さんと天照大御神との会話は肝心な所が私には教えられていないというのが薄々と分かってきた。
それは――。
「やれやれ――」
「……」
「……」
唐突に、聞いたことのある声が木霊する。
その声は、私でも――、天照大御神でも、鏡花さんでもない。
だけど――、私の髪の中から、小さな植物の種が胸元に転がってくると、それは胸の上で停まると、種が割れて新芽が育つ。
そして、それはあっと言う間に小鉢ほどの大きさまで育つと10センチほどの小さな女の子の姿へと変化した。
「あなたは……」
「久しぶりだのう。佐々木望」
「狂乱の神霊樹さん?」
「うむ」
気が付けば金縛りが解けていた私に頷き返してきたのは、夜刀神に殺されたと思っていた狂乱の神霊樹であった。
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